2.ニートを夢見る私よりも役立たずね
「寝床とか食事をなんとかしてくれるギルドとやらはどこなんですかお嬢」
「シノ、私のことはルミアと呼びなさい。なんだかお嬢と呼ばれるのは不敬な感じがするから」
俺とルミアははじまりの街の斡旋所だかを探して歩いていた。
いや、正確には歩いているのは俺だけ。
ルミアは出会ってからずっと座っている椅子に座ったまま。椅子ごと低空を浮きながら俺の隣を移動している。
どこから出したのか、これまた宙に浮く日傘を差し、『はじまりの街 イオ ガイドブック』とやらを読みながら、膝にはブランケットをかけている。
折角のミニスカなのに、膝掛けなんてかけるかね。
「ルミア、それなんなんだ?魔女が乗ってる箒みたいなもん?」
「魔法の椅子よ。魔王便利アイテムが一つ、私専用魔王の玉座その名も『プカプカチェアー』」
「ファンシーな」
「稀少な樹木のドラゴンから切り出した一点ものなの。魔力が高まると成長するから。私の場合はこれを成長させれば大魔王の力を得るはずよ。他の魔王の王の証を奪ってもいいけど、建設的ではないの。ちなみに、まだ私は魔王にもなってないから」
魔王の定義は椅子なのか。しかし、成長する椅子とはファンタジーだな。
「重要なその椅子はともかく、なんでそんな色々持ってきてるんだよ。準備良すぎないか」
「腐っても私は大魔王の末娘。万が一貴方みたいな低スペック知性体が呼び出されて強制的に旅立たされてもいい様に、これくらいは準備していたわ」
「腐ってもって自分で言うかね普通」
「ニートになりたかったのだから。それくらいの自覚はあるわ。ぶつくさ言ってないで早く目的の場所を探して頂戴」
ああ、ガイドブック見てるから道案内してくれるのかと思ったが、どうやら探すのは俺らしい。
本を覗き込むと、イオの観光地のページを見ていた。
『勇者邸跡地』とか言うページを見ている。一応勇者いるんだこの世界。
ルミアはあまり表情が出る娘ではない様だが、心なしか目を細めている。
「旅立つのを嫌がってた割になんか嬉しそうだな」
「その言い回しなんかやらしいんだけど」
「なんでもかんでも下ネタに捉えたい年頃か。まあ16ならわからんでもない」
「大して16と18なんて変わらないでしょうに。不敬ね」
■■■■■
そんなこんなで雑談を交えながら掲示板などを頼りになんとか目的の建物に前にやってきた。
「ここがこの街が誇る14歳からのハロワ。通称ギルドみたいね」
「どうやってその通称になったのかわからんが夢のない場所だなおい」
ここは訪れた人たちの寝床や、職を斡旋してくれる施設らしい。
ルミアと同世代っぽいのもいれば、明らかに俺たちより年上の人もいる。
番号札を受付で貰い、呼ばれるのを待つ。
「なあ、この世界の仕事ってどんなんなんだ?」
「その辺のお店のお手伝いとか、近隣の魔物の駆除とかね」
「おー、魔物の駆除は異世界っぽいな。ついに冒険はじまっちゃうのか」
「それは一般的な人間の仕事だけれどね。高貴な私には似合わないわ」
「さいですか」
どんな生活をしてきたか知らないが、一応大魔王の末娘だ。いい生活をしてきたのだろう。
しかし、俺には大魔王に願いを叶えて貰えるという約束がある。
出だしが肝心だ。ちゃんとして貰わないと。
そんな事を考えている間に、俺たちの番になった。
受付のお姉さんと対面する。金髪碧眼。スーツを来た美人だ。
「はい、本日はどの様なご用件でしょうかー!」
「ええっと、こっちの子が今日旅立ってこの街に来たばかりなんで当面の寝る場所と、仕事とか紹介して貰えたら」
「ではご登録ですね!皆様商人でも船乗りでも旅立って最初は職業が決まるまではまずは冒険者として登録して頂きます!召喚士の方と、呼び出された異世界知性体の方それぞれ名前と年齢、資格、とかを適当にこちらの書類に埋めて下さい!名前は偽名でもあだ名でも魂に刻まれた前世の名でも構いません!仕事はどの様なものをご希望でしょうか!あ、後ついでに宿関係は定員オーバーでございます!」
「え?」
ついでに、で寝床が保証されないのはとても困る。
書類を記入しつつ受付のお姉さんを問い正す。
「いやいやいや、はじまりの国なんですよね?せめて寝床くらいはなんとかしてくれないとはじまりどころか終わりの街ですよ!」
「聞いていた通りなら、旅立ってすぐはその辺保証してくれているはずだけど。何、魔族差別なの?」
「あ、魔族の方なんですねー。いえいえ差別とかではございません!ご存知の通り我々人類と大魔王との戦いから20年!新魔王連合とかは跋扈するものの、世界が大魔王の本気でドカンと破壊される危機が去ったことでベビーブーム到来!出生率もぐんぐん上昇!ちょうどその頃の皆様が旅立つ今の時期はイオに限らず、他国のはじまりの街もいっぱいいっぱい破裂寸前でして!追いつかな過ぎて親御様からイオ滅びろと励ましの投書が届く次第でして!職員一同皆様の旅立ちを心から応援する想いと辞表を胸に頑張ってます!うちの仕事はいつでも空いてますウェルカムです!」
大魔王様のおかげでお盛んになってしまったという事か。
しかしこの世界の受付は自由だな。皆こんな感じなんだろか。
とりあえず、ここの受付はブラック確定。やめておこう。
話をしつつ書類を提出する。
「はい。魔族のルミアさんと呼び出されたのが人間のシノさんですね!登録完了です!ルミアさんは16ですか!遅めの旅立ちですね!」
「ええ、家庭の事情と自身のポリシーでね」
「ニートになりたかったんだもんな」
「まあ、平たく言えばそうね」
高貴なルミア様はニートのレッテル貼られることを気にしていない様だ。
「そうですかー!あ、ルミアさんは資格お持ちの様ですが破壊神取扱資格と魔族使役資格はこの辺では仕事ないですね!」
破壊神取扱資格ってなんだろう。この辺じゃなければ仕事あるのか。
「シノさんは何もないんですね!残念!」
「ニートを夢見る私よりも役立たずね」
「破壊神資格とかも使えなかっただろが」
どんぐりの背比べ。
しかし、さっきのルミアの資格欄で気になる事がある。
「その、資格ってのは異世界人のおれでも取得出来るんですか?」
そう、履歴書の資格欄がステータス欄みたいで楽しいとどんどん資格を取るマニアの友人がいた。
この世界では、俺の世界よりも面白い資格がある様子だ。
チートとまではいかなくても便利な資格さえあれば、、、
「この世界の資格とはほぼ才能と同義です!私、長年受付してるんでなんとなくわかりますが見た感じシノさんの適正資格はありませんね!」
「なんと。努力してもスキル的なものも得られないとな。俺の知ってる異世界と違うぞ」
「知ってる異世界って何。召喚されたのははじめてじゃないの?」
「いや、まあ、こっちの話だよ」
そうか。ゲームとかラノベみたいにはいかないのか。
そもそも見た感じとはどういう了見か。
ルミアが半目でこちらを見てくる。視線が痛い。
「貴方が低スペックなのは予想してたけど、これじゃ旅立ち損なんだけど。一人で旅立つより難易度高くない?」
「って言われても絶望してるのは俺なんだ追い討ちをかけないでくれ。それよりも仕事ですよ。出来れば住み込みのなんかないですかね?」
「住み込みの仕事は人気ですので!」
つまり募集はないと。
いい加減話を進めないと受付の順番待ちがイライラしている雰囲気が伝わってくる。
しかし、住む場所だけでもなんとかしなければ。
頬杖をつきながらお姉さんと話していると、突然ルミアが椅子ごとくるっと回って後ろを向いた。
「…これ以上はいいわ。魔族には魔族のやり方があるから、今日のところは冒険者登録だけでやめておきましょう」
「え?けど寝床もそうだけど仕事貰わないと」
「考えがあるの」
「あ、いいんですか?ではでは冒険者登録だけしておきますね!お二人の旅路に祝福があれー!」
俺はぷかぷか浮いて建物を出るルミアの後を追った。
■■■■■
来たのは街の郊外。畑もなければ家のない。
「なあ、ルミアこんなとこに何があるんだ?」
「何もない場所を探していただけよ」
哲学的だな。黄色いクマのキャラクターもそんな台詞言ってた気がするぞ。
「で、本当に何もないけども。街も大分離れちゃったし。こういう場所って魔物とか出るんじゃねーの?」
「まだ街が見えるくらいなら、街には結界があるから大丈夫なはずよ、っと…この辺りかしらね」
本当に何もない広いだけの場所。日も暮れてきてそろそろ暗くなってくる。
ルミアは膝にかけていたブランケットの両端を摘み、一振りする。
すると、何もなかったところに小さな家が現れた。え、何これ。
「なんだよこれ!!!!!」
「大声を出さないで。私は大魔王の末娘ルミア。旅立ちの備えはしていたと言ったはずよ。このブランケットは、今まで召喚したものや私が登録した物体を手元に出す事が出来る魔王便利アイテムが一つ、私専用魔王の衣『サモンブランケット』。2年の間に失敗し続けた有象無象の召喚物の中にはこの家も含まれていたから呼び出したの」
「あー、だから日傘とかガイドブックとか持ってたのな」
「そうよ」
俺は驚き呆けながら家を見つめる。ルミア、こいつ本当に腐っても大魔王の末娘だな。なんでもありじゃねーか。
って言うか、さっきも言われたが俺必要なのか?と考えていると、ルミアは家の前に看板を出す。
『大魔王の末娘ルミアのダンジョン 初心者向け』と書かれている。
「え、何これ」
「さっき一般的な人間の仕事は高貴な私には似合わないと言ったはずよ。旅立ちも冒険者登録も済ませたわ。お父様の言う様に最低限の人間の真似事は終わったの。それ以降、仕事は選べるの。だから私は一般的な力ある魔族が選ぶ『ダンジョンのボス』の職業にする事にしたわ。魔王としての修行ならこっちの方が早いだろうし」
「そんなのありなんだ!?って言うかダンジョンじゃねーだろこれ。それに危なくないのか!?」
「ダンジョンなんて言ったもん勝ちよ。BGMさえダンジョン用にしとけば、建物の中でもダンジョン。外でもダンジョン。はじまりの街付近で経験値を積んでいる冒険初心者程度なら戦っても大丈夫よ。よしんば強いのが来ても今は人間とは友好関係だから殺し合いはご法度。スポーツくらいの認識でいいわ」
「そっかー…って言うかBGMってなんだよ」
「雰囲気作りの環境音みたいなものよ。音楽流しとけば大体大丈夫」
アバウトかつわけわからん理論だな。
喋りながらルミアは家の中に入っていく。
扉が閉まる。後を追う様に俺も入ろうとすると、ガキン、と金属の鈍い音がする。鍵がかかっている。
ドアノブを捻る。開かない。首も捻る。
扉を叩きながら、扉越しにルミアに話しかける。
「あれルミア?これオートロック?」
「この狭い家に未婚の男女が寝泊りするのは危険では?」
「…………ええ?」
「私のスカートの辺りチラチラ見ているでしょう。私がお父様に縛られた時とか特に」
「いやいやいや、確かに多少見てたが大魔王いたからすぐ視線逸らしたし!何よりパンツまでは見えてないんですけど!」
「ついでにお父様への願いの候補はエロい事だそうね。ティッシュくらいはくれてあげるけど」
「うわーうわー最低びっくりする!会って間もないのにここまで言われるかね!」
「雪国でも野宿できるチート適応力、今こそ発揮するべきよ」
窓から毛布と箱ティッシュが投げられた。この世界箱ティッシュあるんだ。
って言うかこの女は本気だ。扉を叩くのをやめて、俺は毛布を拾う。
もうすっかり日も暮れた。
深夜にかけてどれくらい冷えるのかわからんが、死なないらしいし、疲れたのでさっさと寝よう。
この諦めの早さも異世界への適応力か、はたまた俺の元々持つ素質なのか。
明日からどうしよう。ずっと野宿なのだろうか。
そんな取り留めのない事を考えながら、毛布をかけて家にもたれかかる。あ、意外とすぐ寝られそう…
ギギーと鈍い音がする。なんの音かと見てみると、ルミアが扉を少し開けてこっちを見ている。
「ん?どした?」
「いや諦めは早くてびっくりしたの。いなくなったのかと思ったわ…まあ、それはともかく食事の用意や日用品の買出しを頼みたいの。保存食しか用意していなかったから、暖かいものが食べたいわ。お金はあるから。買ってきてくれたら入れてあげてもいいわ」
「もう眠いんですけどー明日でよくないか?」
「寒いだろうし気遣ってあげたんだからさっさと行って来なさいヒモ野朗」
「へえへえさいですか」
ルミアから硬貨の入った袋を渡される。買い物って俺出来るのかね。あ、見た感じなんとかく硬貨の価値がわかる。
適応力でなんとかなるんですね。大魔王の言ってた通り、元の世界からしたらチートだな。
「何食べたい?何売ってるのかわからんが」
「明日から準備しないといけないからね。魔力補給にいい栄養があって持ちの良いもの。一応二日分くらいは食材を買っておいて。厨房もあるから」
「ざっくりしてんな。肉とかかね。んじゃ、行って来ますお嬢」
「お嬢はやめなさいと言ったはずよ……行ってらっしゃい」
俺は街に向けて歩き出した。




