12.貴方ほんと調子乗らない方がいいわよ
数日後、準備を終えた俺たちは馬車に乗り整備された街道を進んでいた。
今回は燃料と、唯一運転出来るラニの体力の問題でトラックはやめておいた。
馬車はミナヅキもいけるらしい。
新魔王の生息予想地点とされている村へは道なりに行けば一日で着くそうだ。
「いやしかしさあ、こう大魔王の城から来たみたいに転送の魔法とかないのか?」
「あれで意外と高度な魔法なのよ?私には使えないわ。サモンブランケットの補助があって、私のところに呼び込むのが精々よ」
「へえ。長距離移動用の乗り物は?飛行機とかは、トラックみたいにこの世界に召喚されてないのか?」
「ありますが、維持するにも専用の設備がないと駄目なものが多いですからね!面倒なのです」
御車台にいるミナヅキも
「そうですね。ただ、移動くらいでしたらヒトカタを使ってもよかったのですが」
「流石に破壊神に乗ったら近隣の方が混乱するのです。よろしくないのです。姫足る者民を混乱させないものなのです」
「そういや、最初に会った時も王位継承権がどうこう言ってたけどあれか?ラニちゃんは女王目指してるのか?」
「そうなのです。折角この平和な時勢に姫として生まれたのです。目指せるものは目指すのです。成れるかどうかはわかりませんが!」
「はー、そんなもんなのか」
ラニが目標を持っているのを聞いていたら急に眩しく見えてきた。
俺はなんだろね。ルミアを大魔王にするってなんだんだろうね。
話を聞きながら、遠くを見ると獣の群れがいる。
いや、獣じゃないな。なんだアレ。宙に浮いた青魚がめっちゃいる。気持ち悪。
「なあ、向こうによくわからん生き物がいるんだが。あれ魔物か?青いの」
「ああ、あれはリクトビウオの群れなのです」
「びっくりするほど違和感しかない生き物だな。羽もないのに宙を浮いてるぞ」
「私の椅子も羽はないわよ?」
いやそうなんだがしかし。
こう、子供の頃にトビウオを教えて貰って最初に想像した間違ったイメージの生き物みたいな。
「トビウオは煮ても焼いても美味しいのです。旅は長いので倒してもいいかと思うのです」
「あれ魔物じゃないのか?光にならんのか?魔物との明確な線引きが俺にはわからんのだが」
ゴブリンは倒したら光になっていた。
スカベンジャーなんて明らかに鳥類だったのだが死体も残らず消えていた。
「ふふ、死んで光になるのが魔物。死体が残るのがそれ以外ですよ」
「スライムは?光にならんくて、べちゃってなっただけだけど」
「スライムはそういうものです」
なるほどわからん。
「そもそも殺さないと判別付かないとか殺伐とした世界だな。ゲームみたいに大臣に化けた魔物がいても証拠の死体が残らないじゃないか」
「そこまで高度な擬態の魔法があるとは聞いたことありませんから大丈夫です」
「論点が違う気がするけども。それよりも、倒すのか?その、リクトビウオ」
このメンツで食べるところを残して倒せるのは、毎度の俺かラニだけだろう。
ミナヅキもヒトカタなしでも戦えるらしいが、ルミア同様オーバーキルを叩き出されても困る。
「倒す方向でお願いするのです!多めに獲ればその辺で売れるのです!」
エクスなんとかちゃんを構えて馬車を飛び降りるラニ。それを見ていたミナヅキは
「ラニ様。その服、下着が見えてしまいませんか?」
「あ!ほんとなのです!スパッツを履くのです!」
「なんで教えちゃうかな。きっと性的に人気出たのに」
「私も黙ってたけど、パンツ丸見えの子に教えてあげないのってどうかと思うわ」
「二人とも気付いてたならほんと早く教えて欲しかったのです!」
ラニはスパッツを履いた。
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「リクトビウオは魔力を使い飛ぶ事で、体内で魔法アミノ物質が高まるのです!脂質は少ないですが味は濃厚。基本は焼いたりして食べるのです!ここは獣人の国アレンジで刺身もご用意したのです!さあ、焼きリクトビウオの芳醇な香り!そして刺身の食感をご堪能して欲しいのです!」
「なんだラニちゃん気合入ってるなおい。旨そうだけどもさ」
枕詞の如く魔法つけとけばなんでも通るみたいな未知のアミノなんとかの胡散臭さはともかく。
リクトビウオを倒した俺たちは馬車を止め、昼食にしていた。調理は張り切ったラニが行った。
「私は魚はちょっと」
「あら、ルミアはまだ魚が食べられないのですか?」
「好き嫌いしてたら大きくなれないぞ」
「そうなのです!だから発育がはっ!」
ルミア、ラニをヘッドロック。ラニが降参と腕をパンパン叩いている。
「貴方ほんと調子乗らない方がいいわよ」
「ぐぐ…首折れるのです」
「はいはい大丈夫貧乳もステータスだから。俺はルミアくらいが好きだぞ。で、醤油あるか?」
「そう。なんか醤油のついでなのが不敬だけど、シノに免じて開放してあげるわ」
開放されるラニ。
「く、苦しかったのです…醤油はちゃんと用意してあるのです!」
「ごめんて。……これ旨いな」
この世界に来てから、久しぶりの魚の味に興奮を覚える俺。
いや、なんか空飛んでたし厳密には俺の知ってる魚じゃないかもしれんが。
「ふふん!臭み抜きから味付けに至るまで補助魔法はお手のものなのです!」
「あ、そういうのも補助魔法使うもんなのか?って言うか、俺みたいにランダムで覚えるもんじゃないのか魔法って。なんでそんな狙った様にジャンル決めて覚えてるんだ?」
「召喚と似た方法で魔法は使ってると言ったでしょう?ある程度は家系とかで決まってるものなの。実際、うちも魔王の配下治療用の治癒くらいしか魔法は覚えてないわ。後は魔王便利道具で発動する魔法でなんとかなってしまうから。シノの場合は異世界知性体だから他の魔法も覚えられるかもしれないけど。まあ、足りてる内は新しいものを覚えない方がいいわよ使いこなせないから」
「そうですね。いくつも魔法を覚えられるのは、本当に限られた方のみです」
「獣人の国は古来より大魔王の隣の国として日夜戦って来たので、回復や補助魔法の才能を王家に取り込んで来たのです!エリートなのです!その辺の野良冒険者よりも才能溢れているのですよ!」
「へえ。相変わらず嫌な言い回しだな」
「けど、シノ様の春風ほどの加速魔法は使えないんですよね?要らない魔法が多くても意味がありませんよ?」
「その点については少なからずショックを受けているので触れないで欲しいのです!さあ、そんなことよりどんどん食べるのです!」
これからまた新魔王を倒すらしいのに随分平和な感じだな。
まあ、ミナヅキがいれば大丈夫らしいし、いいか。




