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1.冒険者って何。定職に就いてないチンピラとどう違うの

ふと、目を覚ますと俺は暗い場所にいた。

身体が痛い。

俺は何か重いものの下敷きになっている様だった。


なんでこんな場所にいるのだろうか。

家で寝ていたはずなんだが。あれだろうか。夢だろうか。

それとも上の住人が床でも抜いたのだろうか。笑えない。

って言う下半身やたら冷たい。何これ。


混乱しつつも、とりあえずこのままじゃまずいことはすぐに気付いた。

近くに人はいないだろうか。助けて貰わないと。

そう考えていると、どこからか声が聞こえてきた。




「また今日も随分ガラクタを集めたな」


「もうやめましょうお父様。私はニートになりたいわ」


「まあ、これだけ何年も外ればかり引いてたら嫌になるのもわかるがな」




よかった。人がいる。

話し声からすると女性と男性が一人ずつ。

何の話かわからないが、とにかく早く助けて貰わないと。




「おーい。そこに誰かいるんだろ?助けて下さいー!」


「お?」




がさがさと重いものをどける音がする。

振動が伝わってくる。俺の周りに乗っているものをどけてくれている様だ。

しばらくすると、直に乗っていたものがなくなり光が見えてきた。

眩しい。目が眩む。




「おお。人型の知性体ではないか」


「はあ、出てきてしまったのね」




相変わらず何を言っているのかわからないが、力強い腕に捕まれ起こして貰う。

やがて目が慣れてきて、俺は助け起こしてくれた人物を認識する。


いや、人と言っていいのだろうか。

どう見ても頭から直接二本の角を生やして黒いスーツの初老の男性。

角に見えるのはなんだろうか。特殊メイク的なあれだろうか。

筋骨隆々の体言。スーツを押し破らんばかりに脈動する圧倒的筋肉の存在感。

銀髪に、赤い瞳。カラコンだろうか。この人の歳は知らんが、ハイカラ過ぎる。

威圧感と違和感半端ないがとりあえず恩人なのは間違いがない。




「ありがとうございます、助かりました」


「いや、我らが呼び出したのだ。礼には及ばん」




だから何言ってるんだろう。

あれか。俺の家の上に住んでる床を抜いた住人とか言うオチだろうか。

そして、もう一人の女性にも目を向ける。


俺は今年18なのだが、同世代か少し若いくらいの少女が椅子に座っていた。

お人形さんみたいな娘、って言葉がしっくりくる。

長い銀髪に長い睫毛。そして、こちらも焔のように赤い瞳。カラコン流行ってるのか。

腕も脚も折れそうなくらいにまあ細く、街で見かけたら間違いがなく振り返る。

おそらくどこかの学生服を着た少女は、じっーっと俺を見つめてきている。


二人を観察していると、角を生やした男性が口を開いた。




「我が娘よ、よかったではないか。これで隣国の奴らに娘は一人前になって旅立ったと言えるわ」


「お父様、召喚やり直しましょう。もっと力を抑えて次は成功しない様にするから。それか処分して破壊神呼びましょう」


「知性体が出ないと思ったら召喚失敗する様に無駄に力を抑えておったな!」


繰り返しよくわからん。召喚?スマホゲーのガチャでもしてんのか。

ともかく、二人に先程から気になっていることを問いかける。


「ここはどこで、どういう状況ですかね。見た感じ俺の家ではなさそうなんですが」


「おっと説明がまだであったな。ここはお前たちの言うところの異世界。お前は召喚されたのだ。そして、我こそはこの世界の大魔王。そして隣にいるのがお前を召喚した我が娘、ルミアだ」




うわあ。なんかやばい人たちだ。

そうだよな、こんな薄暗い場所で変な格好してるんだからやばい人に決まってる。


「明らかに不敬な事を考えてる顔ね。まだ気付いていないみたいだから言うけど、ズボン上げてくれない?」


「うわ!!!」


俺は下半身全裸の状態だった。なんかやたら下半身冷たいと思ったら石畳に直接接触してたのか!

…少し思い出した。俺はさっきまでやらしいサイトを見てたんだった。

どうしてそれがこんな場所にいるんだ!?


「お父様、やっぱり処分しない?これ。イカくさいわ」


「ルミア、魚介類でも好き嫌いしたらいかんと言っているだろう!」


「全てが噛み合ってない!やっぱりやばい奴らだろ!!!」


俺は叫びながらズボンを上げた。




■■■■■




俺はよくわからない自称魔王とテーブルを囲んでいる。

その自称魔王は大仰な身振り手振りを交えながら語る。


「つまりは、この世界は我々魔族と人間と、ありとあらゆる種族、知性体を巻き込んだ数千年に渡る戦争が20年前に和解に至り戦争が終わった世界なのだ」


「はあ、終わった世界なのですか」


「時代は変わっている。人間は数が多い分文明の発展も早い。消すには惜しかった。まあ、そもそも我個人は力が強大過ぎたので争うのが馬鹿馬鹿しく感じたのもあってな」


「馬鹿馬鹿しく感じてしまわれたと」


「しかしだ、大魔王配下の魔族以外にも魔物は数え切れない程いてな。我の命令も力の支配も及ばぬ奴らの多い事。人間が思ってた様な平和は訪れなかった。何より中途半端に強い奴らは我の事を日和見魔王とか言い、勝手に新魔王連合を名乗る始末」


「はあ、名乗る始末」


「だが我が力は強大過ぎて新魔王連中よりも強いが、直に手を下そうとすれば近隣の人間の国も巻き添えくらってドカンと壊しかねん」


「ドカンと」


「…お前はオウムか。言葉を繰り返されるのも気のない感じも続けられるとイラっとくるぞ」


「ごめんなさい魔王様。オウム返しはコミュ障が他人と会話する時の基本だもので」


言ってもそこまでコミュ障でもないが、適当に誤魔化しておく。

しかし、ここまでの話をまとめると嫌な予感しかしない。

あれか。新魔王討伐でも依頼されるんだろか。


「ここまでが、近年の世界の状況だ。で、ここからが本題だ」


「はい」


「この世界は、異世界との境界が極めて薄く、異世界の物を呼び出す召喚という文化がある。人や未知の物質、魔物や建築物などを、『この世界に適応』させて呼び出す事が出来るのだ。お前がこの世界の言葉を理解出来るのもそれが理由だ」


「今更気付きました。洋画の吹き替えみたいなもんですかね」


「洋画とやらはよくわからんが、つまり話が通じると言う事だな。で、近隣の国の人間をはじめとする知性体は14になってから行った召喚ではじめて呼び出した異世界の知性体と共に旅に出て経験を積む文化があるのだ。家系によって呼び出すものがある程度絞れる。魔女なら喋る猫などマスコット的魔法生物、冒険者は強力な亜人種や意思ある剣を。商人なら招き猫。船乗りなら喋る鳥とかが一般的らしいな」


「異世界人からしたらはた迷惑な話ですな。神隠しとか宇宙人に攫われたとか原因の一部はこの世界だろ」


「まあそう言うな。比較的平和な時期に呼び出されただけよかっただろ」


「で、つまり旅立てと?」


大魔王は頷いて


「末の娘のルミアは今年で16になる。戦後に生まれておるし、人間と和解した以上その文化を積極的に取り入れて見聞を深めて欲しいのだ。イノベーションしたいのだ」


「よくわからないですが意識高い系大魔王ですね」


「しかし、我らは大魔王の家系は破壊神しか確実に呼び出せる適正がない。娘に破壊神呼び出させて人間の世界歩かせるのは、今までの大魔王家と同じ過ぎて面白くない。故に力を抑えさせながら召喚をさせたのだが…年単位で知性体が出てこなくてな」


先程まで俺が埋まっていた場所を思い出す。

なんか色々あったが、多分あれば召喚の失敗作の山だったんだろう。


「お前は2年目にしてようやく出てきてくれた、我が家系初の破壊神以外の異世界知性体ビジター。危うく娘がニートになるかとひやひやしたわ」


と、そこまで話したところで、ずっと喋らなかった少女、ルミアが口を開く。


「お父様、新魔王をお兄様やお姉様が破壊神を連れて討伐に行ったのだから、私は家にいてもいいじゃない。この召喚しちゃったこの子の面倒もちゃんと見るから」


「この子って。ペット扱いか」


「下半身全裸で人前に出る奴に人権などないと知りなさい」


召喚されたんだからしょうがないじゃない、と思ったけどなんか怖いし黙っておく。


「人間の文化に馴染まんと折角友好関係になったのに、どっかからつっつかれそうだろ。何より、娘がニートじゃ人間どもに示しがつかん。そんなんじゃ魔王として一人立ちできんぞ」


「姫、私のジョブは姫よお父様。リクルートも旅立ちの必要もないの。うち生活には困ってないじゃない」


「姫は職業じゃないのだ。隣の国の姫も14で意思ある杖と旅立ち、冒険者として武者修行をしていると聞く」


「人は人。うちはうちよ。何より前から思ってたけど冒険者って何。定職に就いてないチンピラとどう違うの」


「ええい。冒険者批判はやめなさい。とにかくちゃんと自力で魔王になってくれんと」


なんだろう。この人本当に大魔王なんだろか。

見た目の割になんか軽いな。

今の話の内容から、新魔王の討伐は俺とは関係ないらしい。

娘を魔王にする旅立ちのパートナー的なあれか。


二人が口論をしているが、俺は段々とこの夢の様な状況を冷静に考え始めていた。

異世界に来る的なのは夢だった。それはまあいいだろう。

平和で戦う必要もあんまないらしい。ただのファンタジーなだけならそれもいい。

更にはこのルミアという娘。容姿が良い。こんな少女と旅に出る。

何より良い。




「と、言うわけでだ。お前には早々にルミアと旅立って欲しい訳だ」




俺がぼんやりしている間になんか話が進んでいた。

ルミアは魔王によって、さっきから座っていた椅子に縛られて光る魔法陣の上に転がされて足をバタつかせている。

布を噛まされてうーうー唸っている。

ちなみにルミアの服はミニスカートである。バタバタしているのでちょっと危ない。

大魔王の手前あんまりガン見出来ないのが残念。


「この魔法陣なんですか?」


「転送用のやつだ。はじまりの街にいける。うちの近辺で倒れた冒険者の輸送用だな」


あー、負けるとセーブポイントに戻してくれる的なアレね。

おお何某よ死んでしまうとは情けない。親切だな大魔王。

しかし、旅立つのであれば欲しいものがある。


「なんか餞別というか、チートスキルやら伝説の武具やら無双はじまる素敵アイテムはないんですか」


「召喚されると『この世界に適応』していると言っただろう。異世界の言葉が話せて、この世界の割とどこでも大丈夫な肉体を得ている時点で元の世界からしたらお前は十分力を得ているのだ。無駄な戦いをしなければ、雪国で野宿をしても簡単には死ななかろ。チートだチート」


「それはなんか確かにそれはいいんですけどね。地味ですし召喚されたらみんなそうなんですよね?」


「ふむ。では、こうしよう。我は先払いは好まん。ルミアが我と同じ大魔王を名乗っても良い程に成長させてくれたら願いを一つ叶えてやろう。現実の範囲内で」


「大魔王を名乗るの定義はなんですかね。後、異世界から来た俺にとっては現実の境界線がわからないのがわからないですかね。大魔王は人の心がわからない」


「ええい、お前ら多分気が合いそうだな。大概面倒な性格をしておる。大魔王の定義はルミアに聞け」


プンスカしている魔王に掴まれ、俺も魔法陣の中に入れられた。

大魔王からは逃げられない。


「ちょい待ち、願いのとこだけははっきりさせて欲しい。お金とかエロいのとかもいけるんですかね!?」


「まあ出来ないこともないからちょっと黙って旅立ってくれんかな」


「おっけです。俄然やる気出てきたわ」


「…まあ、頑張ってくれるならいい。ふははは、ではようやく旅立ちの時だ我が娘。早く一人前になるのだぞ」




足元の魔法陣が光り出し、視界が暗転した。




■■■■■




目を開けるとそこは街だった。俺の前にはご丁寧に看板があり、『はじまりの街 イオ』と書かれている。

周りにはどう見てもファンタジーな中世風の衣装の冒険者、獣耳の亜人種、低空を箒で飛ぶ魔女などが行きかっている。


俺が周りに目を向けていると、足元から声がする。

椅子に縛られたままで布を噛まされたルミアと目が合う。

街中でこの格好はどうかと思うのでさっさと解放してやる。

さっきから魔王とばっか話していたので少し緊張しながら、口の布を外し、椅子ごと起こして縄を解く。




「…はあ、本当に旅立たされてしまったのね。力を抑えて知性体を呼び出さない様にしてたのに。貴方スペック低すぎない?」


「失礼極まりないな…まあ、とにかくこれからどうすんだ?寝床とか早く決めないと」


「私よりも事態に対して冷静ね。癪だわ」


「自分でも驚く程にな。召喚の適応がどーこーみたいなものじゃないか?考え方とかも適応してんのかもわからん」


「ああ、そうなのかしら。まあ、いいわ。ここははじまりの街。紹介所だかギルドとかがあるはずよ。当面の寝床くらいはついでに提供してくれるんじゃないかしら」


「そうか、じゃあまずはそこに行くか」


「それと、肝心な事を忘れていたわ」




俺が頭の上に疑問符を浮かべていると




「私はルミア。大魔王の末娘。今年で16になるわ。貴方は」


「ああ、忘れたよ。東雲守孝しののめもりたか。18だ」


「長いわね。呼びにくいからシノと呼ぶわ。特に異論がなければこの世界ではシノで通しなさい」


「別にいいけど。シノね。はいよ、じゃあ、これからよろしくな」


「ええ」






これが、俺がこの世界に呼び出されて最初の名乗りだった。

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