プロローグ
あぁなんて素敵な光景だろうか。
洞窟が、その内部に隠された研究所が瓦解し崩壊していくのを俺はその上空から見下ろしていた。
自分を苦しめた場所を、儚い願いを踏みにじられた場所を自らの手で壊しそれを目の当たりにして俺は笑っていた。
視界の先では人々が洞窟から這い出し、怒声と悲鳴を上げながら逃げていく。
「あぁ愉快だ。力を与えてしまったばっかりにあいつらは居場所を1つ消されたんだから」
あいつらにとって俺はただの実験動物だった。
異世界に来たらチートが貰えて、優遇されて、歓迎されるなんてことはなかったんだ。
「彼らには報いを。自分達が生み出してしまった俺という化け物からの贈り物だよ」
地面へと降り立ち、背中の羽を仕舞いながら俺は悪魔のような笑みを浮かべこの世界に転移するまでを思い出すのであった。
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「……!…ゅう!!」
体が揺り動かされる感覚と、耳元で名前を呼ばれ俺の意識は現実へと浮かんできた。
「いいかげん起きろよな。注意しても呼びかけても起きないって古典の山崎がお前のこと睨んでたぞ?」
俺の肩に手を置きつつやれやれと言いたげに首を振るのは、幼馴染の小野 裕翔だ。
幼稚園時代から今現在、高校2年になっても同じ学校に通い俺の世話を焼くオカンみたいなやつだ。
「言われなくても起きてるわ。それに山崎の授業ってわかってたから爆睡してただけだし」
自分の苦手な教科に苦手な先生と来れば、誰だって思考を放棄して夢の世界に旅立ちたくなるだろう?
いやなるはずだ!!
なんてことを考えていたら裕翔にジト目で見られていた。
「また下らないこと考えてるだろ?大体分かるんだよお前の考えなんてさ。長い付き合いなんだから」