どうやら神様は
今日(2017/12/17)から書いて行こうと思います。
―――どうやら神様は少しばかり人を逆境に立たせるのが好きらしい。
見上げた空は赤く、見据えた大地もそれに合わせて血で赤く染まっている。
そんな中に彼は一人立っていた。否、立ち尽くしていた。
兵士ではない筈なのに右手は何処で手に入れたのか、軍に支給されている剣を握っている―――敵を斬るために握っているのかは分からないが。
それに、片時も離れずにいつも傍らにいた頼れる相棒もどうしたのか、見渡してみても影も形も無い。
その代わりにと彼の眼前に在るのは、数多の命の形を崩した器―――兵士の死骸のみだ。
その光景を言葉で言い表すのなら大袈裟でもなく『終焉』という言葉が一番正確だろう。
そしてそれは自身も例外ではない様で、警鐘が体中に鳴り響き、このままなら絶体絶命だと真に迫りながら自身に呼びかけてくる。
体を強くゆすってはみるものの、その体が満身創痍のためか、痛みなどの感覚なんてものは毛頭無い。
つまるところ、『チェックメイト』という事らしかった。
もう本当に限界だと思い、ぼろぼろに朽ち果てた拙い壁に凭れようとすると何かに触れた。
振り返ると一人の少女が居た。その恐怖に慄く栗色の双眸を見て、漸く朦朧としていた意識が覚醒し始める。
「そうだ、俺はこの子を―――アスタを守るために今剣を握ってんだ……」
声にならない様な小さな声で微かにそう一言呟くと、今とその少し前の状況が頭を過ぎっていく。
「諦めたらいいんじゃないかな? お前みたいなのがそんなの握るんじゃねぇよ」
彼の虫の羽音の様な小さな声に静かで厳かな声が言葉を返す。
正面を見ればここに地獄を顕現した『それ』は居た。
無力な自分を馬鹿にするような言葉―――それがひどく癇に障る。
「やっと人間らしい言葉を言うんだな。男か女分からないその口調は気味が悪いが……。命乞いするなら許してやるぜ?」
相手の実力をその目で見たにも拘わらず、虚勢もいいところだった。
「あまり時間は無いのよ、もう少し甚振りたかったが仕方無しというものだ。幕引きといこうぜ」
その瞬間、髪を揺らしていた風が凪いだ。
その瞬間、世界から音が消えた。
代わりに『それ』の周りの空間が歪み始める。一体どんな魔法なのかその力は強大で、魔法に精通していない者でも分かる程だ。
そしていつの間にか『それ』の両の掌には純白の球体が浮かんでいる。
加えてそれは禍々しいのと同時にとても綺麗なものだった。
次第にその純白の球体は大きくなり、圧倒的存在感を放つようになる。
「何を……する気だ」
『それ』は問いに答えてはくれない。一体、何をするというのだろうか。
そしてその疑問は直ぐに解消される事となる。
―――世界が白く染まった。
否、正確には大地が白く染まったと伝えた方が正しいだろう。
何処からか雪までも降り始めた。
球体が何かしたという事は理解したが、その現実については全く理解不能である。
だが、そんな彼の事など気にも留めずに物語は進んでいく。
「どうかな? いい眺めだろ?」
「最高だ。そこにお前の死骸があればな」
「そんな悲しいこと言わないでよ? 俺らは兄弟なんだけど」
「ゾッとするな」
「それが最後の言葉なんだね」
『それ』はそう言うと手から氷柱―――だろうか、四本作り出し飛ばして満身創痍の彼の四肢に突き刺した。
そしてその衝撃で彼は力なく倒れる。
自分の身に突き付けられた氷柱を見て、文字通り突き付けられた現状に目をやり、瞳を閉じた。
一体全体どうしてこのような事態に陥ったのか、今にも命の火が消えそうな状況で、彼は過去回想に意識を向けた。
否、それは過去回想なんてものじゃなく、走馬灯かもしれない。
―――どうやら神様は、死までまだ猶予をくれるらしい。