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夢から覚めてもリア充だった  作者: タワーリシチ
2/3

その1

「どうだった?」

目の前にヌッと顔があらわれる。

40代後半くらいのずんぐりとしたおっさん。無精髭を生やし傾いたメガネがとても気になる。にかっと笑った口元から覗く歯並びは壊れた歯車のようだ。

「うん、まあまあ良かったよ」

とか言いつつかなり満足していかた。少し注文と違ったけど、旧世界の学校を舞台にしての女の子にモテモテファンタジーアクションバトルハードボイルド全部のせ物語(一部BL、GL要素あり)主人公になれたことに未だ身体中が満足感、優越感にうち震えている。

そんな喜んでるのを知られるのもなんか恥ずかしかったので、感想を簡単に述べるにとどめた。

「うん?そんなアホみたいな設定にしたかな?」

傾いたメガネのおっさんがそんな事を呟いたのがちょっと気になったが、楽しかったのでまあ良しとする。

いま自分は繁華街から少し外れた所にある雑居ビルの地下1階、地下といっても外階段を4段降りた程度の半地下に雑貨屋(ジャンク屋)があってその店のなかにいる。薄暗く狭い店の奥、間仕切りの中まるで歯科にある様な可動式の壊れたイスに寝そべって非合法な異次元トラベルをしていた。

3年前、時間軸の異なる2つの世界が混ざって1つになった。その時混ざりきれずに余った部分が別世界として分離したんだけど、新世界と余った世界の一部がくっついたままの状態になってしまった。

そしてその余った世界が問題だった。

全ての根源のかたまりで作られた白いキャンバスみたいなその世界は、なにも存在しない替わりにあらゆる万物の具の宝庫であり全ての可能性、欲望を叶えることが出来る夢の様な世界となった。

なんでも願いが叶う世界。

人々は其所に憧れ目指し己の欲望を叶えようと旅立つ者も多くいたが未だたどり着いた人間はいない。

ただ世界の融合のとき全人類が一旦素材の波に還元して再構成される際、全人類が世界と1つになったときに全人類はその世界を知った。

たしかにその存在は感じる。ただそれが地上にあるのか空の彼方にあるものかは誰にもわからない。そんな世界だった。

だけどちょっと前、どこかの誰かがその世界にアクセスする方法を見つけた。そのはみ出た世界の波に増幅した人間の精神の波をのせ、一時的に思考を運ぶことが出来るようになった。わりあい簡単にその増幅器が作れるのでこうして自分の望みどうりの世界を体験できるのだ。違法だけど。

一人の人間の想像力じゃ世界の構築に限界があるので、そこはコンピューターと職人の力を借りるのだ。有料だけど。

「妄想も良いけど、ちったぁリアルでがんば..」

「ほっとけ!」

そんなん言われなくてもわかっとるわ。

でもなんの才能もない自分は妄想の世界でしか優越感に浸れないんだからしょうがないだろ。

「まだ二十歳にもならないってのに、まったく俺がそれくらいの時は...」

「じゃあ俺帰るわ」

説教じみたおっさんの思出話なんかに付き合ってられないし、さっさと家路につくことにするか。

そうして店のドアへ向かい歩いていく。

「また来いよ、ダイバちゃん」

返事のかわりに軽く手をふり、ドアを潜る。外へ出るとまだまだお日様が元気な時間帯で6月の梅雨の中休み、自分を眩しく照らすそれはすでに真夏を感じさせるようだった。

表通りではなくビルとビルの間の細い道を駅に向かって歩いていく。ゆっくりと。

「また明日から仕事か...」

支配階級と生産階級がはっきりと区別されたこの新しい世界。支配階級は上級な魔波(マナ)をもち、その有能さでこの世界を統治した。はなから時代の大激変が到来するのを見越していたかのように、それまでの世界と比べても硬い秩序、皆が平等に持ち皆が平等に持たないある程度の平和な世界を作り上げた。旧世界の構造概念を新しいそれに置換し、もとの世界の生活水準を維持、ものによっては新しい形に発展させることに成功した。ただそれは、自分の出来ること能力の限界を明確化することにつながり、無気力感が蔓延することになった。

「まあ今日はいい夢見れたし」

さっきの余韻に若干酔いながら少しにやつきながら歩いているとビルの壁際でなにやら音がする。

「ポリバケツ?」

水色のポリバケツがなにやら小刻みに揺れている。なかでネズミが食事中なのだろうか?

おもむろにそのバケツの蓋にすわってみる。特に意味はない。

「ぐにっ」

ポリバケツらしからぬ感触。

「おぃ」

変わった鳴き声のネズミだ。

さらに尻がグリグリされる。

「お、おーま、まっさーじつきのばけつかー」

棒読みのセリフをはきながら、恐る恐るしたをみる。

真っ赤に紅潮した鼻の頭がプクーとふくらんでいる。

「うん、人だったかー、へー知ってた知ってた」

努めて明るくいい放ちお茶をにごしながらその場をそそくさと立ち上がり去ろうとする。と。

ズン

強烈なカンチョーをくらった。

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