父親の存在
うん、自分がこのサイトで小説書いていたことをすっかり忘れていた!
***
プルルルル…プルルルル…
「誰からだろ…?」
ただいまの時刻は午後の7時、玄関からは我が家の固定電話が鳴っている…。学校や友達からの連絡などはL○NEという某無料通信アプリで間に合っているし、母さんも仕事などの連絡はいつもスマホを利用している。なのでこんな時間に固定電話の方で連絡をするような知り合いはいない…はず。
「私が出てくるわ、その間にお味噌汁に使う豆腐切っておいてね」
そう言って、母さんは冷蔵庫から取り出した豆腐をこちらへ投げて電話の方へ向かった…。
_…普通投げるか?
と、脳内でだけ愚痴をこぼしながら言われた通り、豆腐を切っておく…。
俺の家族には父親や兄弟は存在せず、母さん一人だけしかいない。いわゆる母子家庭というやつだ。俺と母さんが今住んでいるこの一軒家は父さんが残してくれた物らしい。俺が物心ついた時にはすでに父親はこの家に存在していなかった。つまり、俺にとってこの家は父さんがいたということの唯一の証明だ。
昔、幼心が故に疑問に思ったこと…「どうして僕にはお父さんがいないの?」と母さんに聞いてみたことがあった。
あれは確か小学三年生の時…
***
『ねぇねぇ母さん。』
『あら、どうしたの?』
『僕にはどうしてお父さんがいないの?』
『…なんで、でしょうね』
『母さん…お父さんがいなくて寂しいの?』
『ううん、ちっとも寂しくないわよ?』
『どうして、お父さんがいないのか…知りたい?』
『うん!知りたい!』
『実はお父さんはね…』
『昔、トイレで転んで便器の中に頭から突っ込んで海まで流されちゃってそのままお星様になったのよ。』
『えええええええぇぇぇぇぇぇ~!!!』
***
…こんな感じである。
もう少しまともな嘘は付けなかったのだろうか?ついでにこの話を小学校卒業間近まで信じていたのは内緒である…。
とまぁ、母さんも仕事で帰ってくるのが遅いので家事は俺も手伝っている。おかげで家事の大半はマスターした。夕飯の支度など今の俺にかかれば朝飯前というものだ。今は夕食前だけど…。
「そんなの急すぎますよ!困ります!」
突然玄関の方から怒鳴り声が響く。普段から母さんは温厚な性格で、怒鳴るなど珍しい…というか今まで一回もそんなことは無かったような気がする。
しばらくして、母さんが戻ってくる。その顔はどこか困ったような表情を浮かべている。
「…電話、誰からだった?」
戻ってきてからずっと黙り込んでしまっているので、聞いてみる。すると、母さんは俺の目を見て、少し間をおいて…。
「…別に大したことないわよ、ただの悪質なイタズラ電話よ!」
と、笑いながら言う…。でも、その笑顔が作り笑顔だということに俺は気付く。顔色が悪くなっているし、呼吸が少しばかり荒い、体が小刻みに震えている。
「あ~…まぁ、夕飯の支度とか後は全部やるから座っときなよ」
俺は母さんの肩を軽く叩いて休んでおくよう促す。母さんはごめんね、と言ってそのままリビングへ向かった。
今の電話は誰からで、どんな内容だったのだろうか…?
***
翌朝、いつも通りに家を出る。今は梅雨の季節ということもあり、じめじめとしている。
「……ん?」
パトカーのサイレンが後ろの方から聞こえた。振り返り、確認してみるとパトカーが交差点を曲がっていくのが見えた。
_ついさっきもパトカーを何台か見かけたような…。
何か事件か…と思ったが、自分には関係の無いことだろうと切り捨て、再び学校へ向かう。
学校に着き、教室に入る…心なしか、いつもよりざわざわとしているような気がする。
席に座った所で先に教室にいた明人に話し掛けられた。
「おはようございます、カノンさん。」
「朝っぱらから野郎におはろうございますって言われるとかテンション下がるよな…」
「朝っぱらから露骨な皮肉浴びせられると不快になるって知ってます!?」
「うん、知ってる知ってる」
「いちいち腹立つなあんたは!!」
と、毎朝恒例の茶番を繰り広げる。明人はハァ…っとため息をつき
「カノンさん昨日のニュース見ました?」
と、話を振ってくる。
「悪いな、俺んちテレビが無いから」
「いや、テレビ無くてもスマホあるんだからネットでニュースくらい見れるでしょう?」
「俺、興味ないこと調べるのにネット使ったりしないから」
「……ハァ、まぁいいです」
明人は再びため息をつき、机にうつ伏せになる。
「何年か前に人を殺して捕まった殺人犯が昨日、警官を三人も殺して脱獄したらしいですよ…しかも警官から拳銃を奪って逃げたらしいですよ…」
「……え?」
ドキリ、と胸の内が大きく鳴った。殺人犯の脱獄…そのニュースは確かに恐ろしいものである。だが、それでも自分には関係の無いことだ。、所詮ニュースなど自分とは全く異なる世界での出来事でしかないのだ…なのに……。
何か嫌な予感がする…。
嫌な予感、「直感」と言うべきだろうか…何か悪いことが起こると、自分の中の何かが叫んでいる。
「なぁ、明人…。」
俺はうつ伏せになっている明人に目を向ける。
「…なんです?」
「今朝はやけにパトカーが多かったような気がするんだけど…その殺人犯と関係があったりとかするのか?」
明人は「あ~…」と間を置いてから、
「ネットでその殺人犯がこの町に来ているなんて噂がありましたね…パトカーが多かったのも、もしかしたらそのせいかもですね、脱獄した殺人犯の目撃情報も確かこの近くだったような気がしますよ?」
なるほど、それで教室がこんなにざわざわとしているのか…。確かに警官三人も殺した殺人犯がこの町のどこかに潜んでいるだなんて話を聞けば中々に恐ろしいものだが…
「そっ、か…」
俺は適当に相づちを打って背もたれにもたれ掛かる。殺人犯の脱獄…あとで〇ahoo!ニュースで見てみるか…。
***
「ただいま~」
玄関の鍵を開け、靴を脱ぐ。そこには、いつもと変わらない我が家の玄関の光景がある。いつも通りの我が家だ…ただ一つのことを除けば。
プルルルル…プルルルル…
「…電話?」
いつもはほとんど使われていない我が家の固定電話が鳴っている…。俺は受話器を取ろうと手を伸ば……
「あ……?」
瞬間、背筋に悪寒のようなものが走った。今朝に明人から話を聞いたときのような、嫌な予感…何か取り返しのつかなくなってしまうような…。
「…なわけあるか。」
ブンブンと頭を振り、心に引っ掛かっている不安のような物を強引に振り払う。どうせただの気のせいだ、なにもないだろうしあるはずもない。俺は受話器を握り、耳元へ持っていく。
「…もしもし?」
そう言って、相手の返事を待つ。そして、返ってきた声は年寄りの女性の声だった。
「…あらぁ?貴方、カノン君かしらねぇ?」
女性は突然、俺の名前を呼んだ。誰なのだろうか…俺に年寄りの知り合いなんかいないはずだが…。
「えっと、どちら様?」
自身の名前を唐突に呼ばれたことに多少動揺しながら、受話器の向こうの人物へ問う。そして…。
「あたしは光一郎の…貴方の祖母にあたる者です。」
そして、これをきっかけに悲劇の物語はその姿を現し始めた……。
展開早いのかな?これ…。