友達ができた
ショーにいる間は、二人一組の寝室だと説明された。
中に入ると、女の子が一人いた。とても美人でできることなら抱きたいと思った。そして女の身を呪った。
「あなた、名前はなんていうの? 私はアルカよ」
「ない」
「ないってことはないでしょう? 名乗ってほしいな」
「本当にないの。誰も私に名前をつけてくれた人がいなかったから」
「あら、ごめんなさい。……そう。誰も」
アルカは私に深い同情を示しているように見えた。しかし、無心であることに慣れきった私はアルカを無視した。
私がショーに来てからの一週間アルカは毎日聞いてきた。
「ねえ、今日はどうだった?」
どうもこうもない最悪だったよ、などという元気は私にはなかった。私は、何も言わず布団に入って寝た。アルカは少し寂しそうな顔をした後、自分の布団に入って寝るのだった。
ショーに来てから一週間目の日、私は座長に呼ばれた。
「君、調子はどうかね」
「良いです」私は無機質に答えた。私から感情というものは削ぎ落とされていた。しかし、座長はそれを文字通り解釈した。
「そうだろう。前の持ち主は扱いがひどかったらしいからな」
返事がないのを見て座長が言った。
「おっと、前の持ち主に関する情報は話せないんだったな。まあいい、君が来てからうちは大儲けさ。ちょうどいい薬と組み合わせられてよかった」
「ありがとうございます」私は無機質に返事をした。
「ふむ。そろそろ帰って良いぞ」
「はい」
そして部屋に帰るとアルカが待っていた。
「座長に何か言われたの?」
「私のおかげでお大儲けだって」考えてみれば、それが、名前を聞かれて以来初めて私が発した言葉だった。
「そう。あなたがいない間に私は考えたの。あなたにプレゼントしようと思って」
「プレゼント?」
「うん。名前よ。フェリスってどうかしら?」
「いらない。私には名前なんて必要ない」
私はアルカが鬱陶しかった。私の方がアルカより売上に貢献しているという自負もあった。実際人気は私の方が上なのだ。
次の日ショーの合間に私は考えた。(ショーの最中は何も考えられない)。アルカがフェリスという名前をくれた意味を。転生してから十数日、私自身が生まれてから十数年生きてきて、私に優しい言葉をかけてくれたのはアルカが初めてだった。名付け親が奴隷仲間というのは不思議な感じがした。私の心はあるかのおかげで少しほぐされていた。今夜あったらお礼を言わないと。
その晩、アルカは帰ってこなかった。深夜まで起きて待っていても帰って来なかった。
次の日ショーが終わった後、座長に尋ねた。(もちろんショーの間はショーに夢中だった)。
「アルカはどうしたのでしょうか?」
「アルカ? あの子なら売ったよ」
「売った?」
「ふむ、同室だから話が通っているかと思ったのだが。別れの言葉は聞いていないかい?」
「いいえ」と答えることしか私にはできなかった。
「アルカの新しいご主人様はどんな方なのでしょうか?」
「ああ、奴隷から剥製を作るのが好きな爺さんでね。随分とアルカにご執心だったんだ。君を買ったのより高い値をつけたから売ってしまったよ」
「剥製」と繰り返し私は、その意味に震えた。
「ん? どうしたんだい? まあ、そろそろ寝なさい。ああ、君をあの爺さんに売るつもりはないから、気にしなくて良いよ」
その晩私は初めて泣いた。「うるさい、泣くな」と命令されてまた泣けなくなった。
いつの間にか一人称が私になっている主人公の図。