表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

友達ができた

 ショーにいる間は、二人一組の寝室だと説明された。


 中に入ると、女の子が一人いた。とても美人でできることなら抱きたいと思った。そして女の身を呪った。


「あなた、名前はなんていうの? 私はアルカよ」

「ない」

「ないってことはないでしょう? 名乗ってほしいな」

「本当にないの。誰も私に名前をつけてくれた人がいなかったから」

「あら、ごめんなさい。……そう。誰も」

 アルカは私に深い同情を示しているように見えた。しかし、無心であることに慣れきった私はアルカを無視した。


 私がショーに来てからの一週間アルカは毎日聞いてきた。

「ねえ、今日はどうだった?」

 どうもこうもない最悪だったよ、などという元気は私にはなかった。私は、何も言わず布団に入って寝た。アルカは少し寂しそうな顔をした後、自分の布団に入って寝るのだった。


 ショーに来てから一週間目の日、私は座長に呼ばれた。

「君、調子はどうかね」

「良いです」私は無機質に答えた。私から感情というものは削ぎ落とされていた。しかし、座長はそれを文字通り解釈した。

「そうだろう。前の持ち主は扱いがひどかったらしいからな」

 

 返事がないのを見て座長が言った。

「おっと、前の持ち主に関する情報は話せないんだったな。まあいい、君が来てからうちは大儲けさ。ちょうどいい薬と組み合わせられてよかった」

「ありがとうございます」私は無機質に返事をした。

「ふむ。そろそろ帰って良いぞ」

「はい」


 そして部屋に帰るとアルカが待っていた。

「座長に何か言われたの?」

「私のおかげでお大儲けだって」考えてみれば、それが、名前を聞かれて以来初めて私が発した言葉だった。

「そう。あなたがいない間に私は考えたの。あなたにプレゼントしようと思って」

「プレゼント?」

「うん。名前よ。フェリスってどうかしら?」

「いらない。私には名前なんて必要ない」

 私はアルカが鬱陶しかった。私の方がアルカより売上に貢献しているという自負もあった。実際人気は私の方が上なのだ。


 次の日ショーの合間に私は考えた。(ショーの最中は何も考えられない)。アルカがフェリスという名前をくれた意味を。転生してから十数日、私自身が生まれてから十数年生きてきて、私に優しい言葉をかけてくれたのはアルカが初めてだった。名付け親が奴隷仲間というのは不思議な感じがした。私の心はあるかのおかげで少しほぐされていた。今夜あったらお礼を言わないと。


その晩、アルカは帰ってこなかった。深夜まで起きて待っていても帰って来なかった。


次の日ショーが終わった後、座長に尋ねた。(もちろんショーの間はショーに夢中だった)。

「アルカはどうしたのでしょうか?」

「アルカ? あの子なら売ったよ」

「売った?」

「ふむ、同室だから話が通っているかと思ったのだが。別れの言葉は聞いていないかい?」

「いいえ」と答えることしか私にはできなかった。

「アルカの新しいご主人様はどんな方なのでしょうか?」

「ああ、奴隷から剥製を作るのが好きな爺さんでね。随分とアルカにご執心だったんだ。君を買ったのより高い値をつけたから売ってしまったよ」

「剥製」と繰り返し私は、その意味に震えた。

「ん? どうしたんだい? まあ、そろそろ寝なさい。ああ、君をあの爺さんに売るつもりはないから、気にしなくて良いよ」


 その晩私は初めて泣いた。「うるさい、泣くな」と命令されてまた泣けなくなった。

いつの間にか一人称が私になっている主人公の図。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ