表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

PHASE.4 新たな相棒

こうしてカルペッパーは逮捕された。

二十年越しの事件は、めでたく幕を下ろしたのだった。

「父上の仇が討てて良かったな、クレア」

「スクワーロウさんのお陰です、本当にあなたを頼ってよかった」

クレアは深く頭を下げた。

「最後に一つ、聞いておきたい。秘密口座のことを、カルペッパーに漏らしたのは君だな、クレア」

無言で、クレアは頷いた。彼女によると実はエイントワース捜査官もすでに、カルペッパーにマフィアの息が掛かっていることに、気づいていたのだと言う。

「アルドは自分が殺されることを知っていて、秘密口座に多額のお金を留保してました。父が遺した手記の通り、調べてみるとそのお金は、たびたび南部のある地方銀行の口座に出金されていて」

レイニーはまだ生きている。クレアはそう思ったらしい。それで、私に近づいたのだ。

「だがレイニーは、死んでいた。二十年前、アルドとともに。そこで私は二人に、遺族年金を支払う役目を仰せつかったのさ」

「あなたが怪しまれないように、アルドや、レイニーの遺族に送金していたんですね?」

「相棒の最後の相談だ」

アルドは即死したが、レイニーは半年生きた。そこで彼の消息を消し、私がレイニーに成りすます形でその口座を受け継ぐことにしたのだった。

「義理堅いんですね、スクワーロウさんは」

私は黙って肩をすくめてみせた。因果な商売だ。だが私はこの街でそうやって、食っていくと決意したのだから、仕方ない。

「わたしも最後に一つ。どうしてわたしが、捜査官の娘だって分かったんですか?」

私は即座に答えた。

「おっちょこちょいだからさ。忘れてると思うが、私は事務員を募集したんだ」

思えばエイントワース捜査官も、ちょっと把握が雑だった。レイニーの件でもそうだ。この街の通りばかりじゃなく、彼は私とレイニーのことも、たびたび間違えていた。種類はどうあれ、リスとビーグルじゃ、ナッツとビールくらい違う。

「職員を募集する気は、本当にないんですか?」

切なそうに、クレアが尋ねた。胸が痛んだが、やっぱり私は心を鬼にして答えた。

「申し訳ないが。君も田舎に帰った方がいい。ベガスの探偵なんてろくな商売じゃない」

クレアはまだ何か話したそうだったが、私はくるりと椅子を回して背を向けて見せた。彼女は数分、まだ粘ったが諦めたのか、無言のまま部屋を出て行った。

これでいい。これでいいのだ。やれやれ、これで晴れて事務所も通常営業じゃないか。エアコンは直ったし、旧い相棒の事件は解決した。そして私は、独りが良い。時代遅れのハードボイルドは、私一人で十分なのだ。

「さて、仕事は」

私はボードに目をやった。

何もなかった。地下室でまた、資料の整理をするくらいしかない。エアコンも直ったし、まあ、缶ビール片手に昔を懐かしむのも、悪くないだろう。

「わっ」

ドアを開けて、仰天した。すぐ目の前に、まだクレアが立っていたのだ。何か声をかけようとしたが、得体の知れない迫力があって出来なかった。なぜならクレアの可憐な頬袋は、これ以上ないほどぱんぱんになっているのだ。口から皮付きの台湾ピーナツが、ぼろぼろこぼれ落ちていた。

「わらし、ほんへもはりまふ!ふふはほはんはいは、ははほほいるほひ、はひはひふでふ!(わたし、何でもやります!スクワーロウさんみたいな、ハードボイルドになりたいんです!)」

「口からナッツを出して話したまえ!」

思わず突っ込んでしまった。だいたい私はそこまでぱんぱんじゃない。やれやれだ。そんな心意気、見せられたら、断るわけにはいかなくなるじゃないか。

「(うえっ)…スクワーロウさんっ、お願いですっ!」

「分かったよ。ただし、条件がある。君はレディだ。私の前でそんな、頬袋ぱんぱんな顔は見せないこと。それと冬眠はしないこと」

「分かりました!」

「給料は再来月からだぞ?」

「大丈夫です!わたしは、スクワーロウさんと働きたいんです」

即答だった。もはや、私も覚悟を決めるしかない。

「それなら採用する。まあ分かってるなら、それでいいんだが」

私は握手を持ちかけると、弁解をするように言った。

「リスには向かない職業なんだ」


こうして私の事務所に、しばらくぶりの相棒が加わった。何十年ぶりかの、とろけるような暑い夏だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ