蜘蛛の湖
とあるところにいつも悪行を働いて人を不幸にする
人間がおりました。
近くの村を襲っては人を殺し米を奪い
近くの町を襲っては金を奪い女をさらい。
いつしか人は家から出てこなくなりました。
悪行を幸福としていた悪い人間は
虫を殺し始めました。
虫を見かけては潰し、また潰し
いつしか残る虫は蜘蛛だけになりました。
彼は父が蜘蛛の恩人だったため、殺しはしませんでした。
しかし、父は死んでいたため、少しならバレない、
という気持ちで蜘蛛をたくさん殺してしまいました。
彼は心を痛めながらも、家に帰りました。
その夜、彼は夢を見ました。
とても大きな蜘蛛に追いかけられる夢です。
彼は怖くなって布団から出たくなくなりました。
夏、秋、冬、春、夏、秋、冬、春、と
季節は過ぎて、いつしか村から奪った米はなくなりました。
空腹の状態が何日か続き、しまいには
幻覚まで見え始めました。
蜘蛛が彼の上にまたがる幻影です。
そんな幻覚を毎日見続けていたある日、
扉から一本の糸が伸びていました。
その糸は、山奥へと続いています。
彼は、先が気になってしょうがなくなり、
糸を剃って山奥へ向かいました。
山の奥には幻想的な湖がありました。
湖の上にはスイレンの花が散らばっており、
息をのむほど美しく感じました。
彼は喜びました。早速水を飲みました。
しかし、変です。こんな所に湖があったかな。
そう思いながら、かれは水を飲み続けていました。
彼は久しぶりの水に安心し、目を閉じて
眠ってしまいました。
目を開けると、そこは湖ではありませんでした。
辺りを見渡すと、蜘蛛、蜘蛛、蜘蛛。
口には血の味が広がっています。
湖を見ると、そこは黒一色でした。
しかし、彼にはそれは美しい湖に見えていました。
彼は湖に飛び込み、蜘蛛に飲まれていきました。
その後、その一帯にはしばしの平和が訪れました。