22.帰還
「マスター、もういいでしょう。答えてもらえますか」
俺達6人と上級神は喫茶店の丸いテーブルに座っていた。
「質問には答えられる範囲で誠実に答えますよ」
にっこりと笑う上級神。
「まず、あなたは元人間ですね?」
疑問ではなく確信を持って尋ねる。
「YESです」
「四神はただの傀儡ですか?」
「YESです。あれはただの旗印です」
最初からおかしかったのだ。
四神は勝負だというのに積極的に動かず、住人達も召喚者任せだった。
あまりにも神の影が薄い、というか投げっぱなし。
「この戦争は何回目ですか」
上級神が少し驚いた振りをして回答する。
「三回目です。よくわかりましたね」
やはりそうだったか。そうなるともう一つの懸念材料もわかってしまう。
「説明がベテランすぎるんですよ。あれでは初回とは思われません」
「なるほど…改善してしまったがゆえにわかるということですね」
FAQ並によくされる質問と回答が揃っていたからな。
しかし、ここまで情報が揃うと俺達が帰ることなどありえないことがわかる。
既に何度も行われているのに地球では変化がなかった。つまり影響がない。
よって敗者も勝者も地球に戻れない。
しかし神は嘘は言えない…はずだ。
「俺達は複製なのか?」
ちょっと話をとばしてみる。
「あなた方召喚者は本人の別な可能性です」
別な時間軸とか平行宇宙とか別な世界線とかそういう話か。
納得できないが意味はわかる。そういう話は多いからな。
「では俺達はなぜ呼ばれたんだ」
「質問があいまいです。具体的にお願いします」
最も重要な質問だ。しかし回答してくれない。
「この戦争は、何かを選別するための試練か」
少し考えた上で出た結論。だがおおむねあっていると直感している。
「YESです。あなた方には神になってもらいます」
「待て、どうしてそうなる」
思わず突っ込んでしまった。そういうのは他所でやってもらいたい。
みんなもあっけにとられているだろうが。
「拒否権は?」
「ありません」
「死ぬ権利は?」
「不老不死です。死んでも蘇生します」
労働基準法で訴えていいかな?
みんなの顔が暗い。
5年我慢して仕事してこの仕打ちか。
もう少し楽しんで仕事すれば良かった。
俺達6人は最終的に元の地球に戻ってきた。
人としてではなく神として。
工藤 圭としてではなくミズノとして。
工藤 圭は俺とは別に存在し、毎日を平穏に暮らしていた。
勝利した召喚者達は別な地球に送られ、そこで好き放題しているらしい。
「ふう、疲れた」
俺達の今の仕事は神の仕事の分担であった。
結局のところ、上級神は自分の仕事を分担する部下が欲しかったらしい。
全くもって迷惑な話である。
俺が選んだのは神だろうが不死者だろうが死を与える能力、ただし”拒否しなかった場合に限る”。
大量の死にまつわる情報と”死にたい”という声が頭に叩き込まれ、
それを平然と処理出来てしまう自分に人外になったと哀しくなる。
痛みが止められず死を待つだけの末期患者、事故で死にかけの者、既に正気を失った者。
人だけではない、神にも精神を摩耗し正気を失っている者がいた。
俺の仕事はそういった連中を迎えに行き、安らかな死を与えること。
なんというか、”神様”という名の公務員をしている気分になる。
「ただいまーパイン」
「お帰りなさいませご主人様」
家で待つ金髪の女性。こいつだけが戦争した世界の残り香だ。
あの世界は消滅した。他の5人も相棒少数だけ連れてこの世界で公務員の”神様”をしている。
上級神は俺達を不老不死といった。
俺はいつまで耐えられるだろうか。友人もいつまで持つだろうか。
「パイン、ずっと一緒に居てくれるか?」
「ご、ご主人様どうしました?」
慌てるパインを強く抱き締める。パインもこわごわと抱き締め返してくれる。
「ご主人様、私は死んでも一緒ですよ~」
「いや、死ぬのは死神である俺が許可しないぞ」
「えへへ~」
こういうのが馬鹿可愛いって奴なんだろうな。
さあ、パインの作った料理を食べて明日も過ごそう。
いつまでも続く、終わらない日々を過ごそう。
その精神が潰れるまで。
きっとパインハッピーEND




