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18.戦争の開始

ノア歴205年、戦争開始である。

当事者にとっては凄く忙しい日々だったのは間違いない。

だが俺達6人にとってはダンジョン設置後は特にやることはなく、ひどく退屈だったのだ。

やることは監視業務と個人的なスライム研究くらいである。

つまり、省略されるわけだ。


まず元素周期表にのっとって鉛(Pb)まで入手できる範囲でスライムを作成した。

常温気体は水溶させて強引に作成だ。

容易に爆発する水素スライムからはぐメタになった水銀スライム、金スライムにPtプラチナスライム、

水をかけると爆発するナトリウムスライムからアルカリ性のスライムまで色々作った。

もちろん毒性スライムも色々用意した。

河豚毒テトロドトキシン蛙毒バトラコトキシン植物毒トリカブト、蛇毒、蠍毒セロトニン、蜂毒に

化学毒げきやくとして黄燐オウリン、シアン化水素せいさんガス農薬ヒソ煙草毒ニコチンもつくった。

楽しかったなあ…

化学物質や鉱石を安全に隔離・保存でき、魔力により増殖する性質はとてつもなく優秀だ。

全部最上級ダンジョンB3Fの隠し部屋に隔離してある。流石に外には出せない。

火を付けたら連鎖爆発に土壌汚染確定だ。使う機会などないだろう。

しかし危険なものほど美しい。あそこを散歩するのは至上の贅沢である。




さて、趣味の話はここまでにして戦況の説明をしよう。

俺達6人は妖精スプライトにより世界全体を監視でき、ほぼ見落としはないはずである。

上級神マスターは手助けをしない主義だ。

以上より、現時点の情報である程度結果の予想もつく。


北軍は既にオートマチック式を製品化、ライフル、リボルバー、手榴弾、カノン砲をメインとしている。

戦車は流石に困難だったようだがゴーレム式車両は作成していた。

技術力は世界一だろう。


東軍は技術的にはまったく進歩なし。人口が10倍くらいになっているが若者だらけだ。

実際、大半が子供兵で役に立たない可能性がある。


南軍は弓の複合化コンポジや素材の改良、バリスタの完成、毒物の品質向上が見られる。

兵の質もかなり良い。


西軍は個人個人の質が最も良い。ただ、連携は精々パーティレベルだろう。

団体行動しているのを見たことがない。


そして戦端は、意外で必然なところで開かれたのである。




東軍5万人が東南境界に集まっていた。召喚者は最大でも2000人、ほとんどが住人ということだ。

対し西軍は西南境界に多くの人数を割いていたため大慌てで防衛陣をつくっている。

人数は多く見積もっても2000人、20倍以上の差だ。

いくらエルフがヒト族より強いとはいえ、これほどの差は圧倒的だ。


「全軍、突撃!」


対南軍では弓は効果が薄い。風の魔法でほとんど弾かれてしまうからだ。

そして南軍からは容赦なく風に乗って射程を延ばされた矢が飛んでくる。

愚策であろうと突撃するしか方法は無い。


「撃て撃て、どんどん撃て!」


槍を持ち盾を頭上に掲げ、ひたすら全身する東軍に対し、南軍は必死で矢をかける。

バリスタが大きな矢を放ち、数人を即死させる。

だがどれほど撃っても数が足りなすぎる。


「タイダルウェーブ!」


東軍から複数人による敵味方を巻き込んだ津波が押し寄せる。

だが、水魔法には「アクアウォーク」という水中戦闘用の魔法がある。

一定時間水中での抵抗を大幅に抑える魔法なのだがこれは水上戦闘にも有効なのだ。

水に動きをとらわれ、自らの長所を失った南軍に対し、東軍の蹂躙が始まった。


実は東軍は人口爆発により人減らしか領土拡張のどちらかが必須だった。

つまり、戦争せずにはいられなかったわけだ。

その事情を把握していたのは俺達と東軍、おそらく北軍である。

北軍は十分警戒しており、東軍としては南軍を攻めるしか選択肢は無かったのだ。




一方、西南においても戦端が開かれた。

5年にわたる工作合戦は強い憎悪を生み、戦いが起こるのは必須であった。

しかし、東南における戦争開始は西南戦に大きな影響を与える一因となっていた。

西軍6000人に対し南軍は3000人、本来なら同数で対峙し防衛側の利で勝つつもりだったのである。


ドドーン!


火魔法による複数の爆音ファイアボールにより戦争が開始された。

風魔法と光魔法 (音波は光魔法の担当)による聴覚強化を切り忘れていた場合、

大音量は十分なダメージとなって術者の耳を破壊する。

事実、反応の遅れた数名の南軍術者がのたうち回っていた。


西軍から見ると風魔法により常時風向きは向かい風となる。

匂いは読みやすいが矢が遠くまで飛び、こちらからの火魔法は届きにくい。

元より遠距離戦は性に合わないがゆえに結局接近戦に持ち込むしかないのである。


西軍の並外れた身体能力と五感は飛んでくる多数の矢に対しても有効であった。

もっとも、「優秀な」人に対してはだが。

「狙撃」を持つ南軍から放たれた毒の塗られた矢の雨は

「優秀な」軍人以外を軒並み傷つけ蝕み殺傷していく。


「くくく、やはり人数いてもしょうがねえよなあ!」


「彼らのおかげで前線に出られるのだからそういうのはやめなさい」


珍しい西軍のエルフがそういって狼獣人を諭す。

西軍もだいぶ減り、最前線で活動出来ているのは100名にも満たない。

だがその100名によって南軍が蹴散らされているのも事実であった。


「くそ、化け物共め!」


矢と投げナイフが集中的に射られる。


「正面からじゃあ当たるわけねえだろ!」


「ファイアボール!」


南軍防衛陣となっている砦と森には既に火が付き始めている。

この初戦はほぼ決着がついただろう。あとはどこまで損害を与えるかだ。

初戦はお互いにほとんどの人員を失う結果となった。

森は激しく燃え、戦場の夜を赤々と照らす。

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