13.西の国造り
「武道会優勝は、虎の獣人、ソーヤ!」
西軍では全戦闘員による王座決定戦がおこなわれていた。
西の獣人の国 (一部獣人ではないが)では強いものが正義である。
最強の物が王座に就き、次点が軍事を司る。
王が政治を出来ないならば次点に担当を回すか適正者を指名する。
同時に魔法部門でも武道会を実施、大将の選定が既に完了している。
「実に楽しかった。また来年もやりてえな」
俺は召喚者のフミト、獣人だ。
もちろん王座決定戦にも参加した…初回敗退だが。
しかし、やはり戦闘はいい。
直接戦闘はよい経験になるし、上級者の戦闘も非常に勉強になる。
決勝の戦いなど高い魔法火力が無くても使いようがあるってことに驚いた。
魔法部門は凄かったが何をしているのかさっぱりわからなかった。
味方なら頼もしいが敵にはしたくないね。
「いやー見応えあったね。でも最下位だと配給少ないんだ、もう少しがんばれよ」
こいつは友達のヒロト。運よく1回戦突破しやがった生意気な奴である。
訓練だと五分五分なんだぜ、ホント。
今俺達がいるのは王が決まったことを祝う宴みたいなもんだ。
まあ飲めるなら理由はなんでもいい。ついでに戦えるならなんでもいい。
宴会場のほとんどは獣人だがヒト族やエルフも少しいる。
そいつらは間違いなく召喚者だ。
魔法部門ではエルフもけっこう上位まで食い込めていたし
内政はもしかしたらあいつらのほうが上手にやってくれるかもしれない。
俺が言うのもどうかと思うが、獣人を選ぶ奴はあまり考えないからな。
宴より2ヶ月が経過し、俺は西エリアの東南境界にあるカテジナ砦にいる。
ここは南軍を見張るためのものだ。と言っても視線の先は森で暗くてよく見えない。
「ヒロト、森って不気味だよなあ。特に夜は」
ヒロトの奴も一緒に配備されている。
「ああ、人の領域じゃないぜ」
「まあ俺らは獣人なんだけどな」
ちげえねえwとこぼす。
獣人には森を好んで住むタイプもいる。
だが召喚者のほとんどは人の記憶があるため、平原や街を好むのだ。
それに獣人の森とエルフの森は雰囲気が違う。
何が違うかとは説明出来ないがなんとなく違和感を感じるのだ。
「しかし、戦争でもないのに厳戒態勢なのはなんでだ?」
「お前聞いてないのか?」
「知っているのかライデン」
ヒロトの癖に生意気だ。
「この砦で夜警の死亡事故が何度も起こってるんだ。
亡霊の仕業とか言われてるけど証拠も一切出ていない。
かならず二人以上で行動しろって言われてるから勝手に動くなよ?」
「亡霊ねえ。確かに魔法が存在する世界だからなあ」
話に聞く限り、このノア大陸にそういう物理的に触れないものはいないらしいけど
実際にいたら見てみたいとは思っている。
「それより聞いたか?リザードマンが住む中級ダンジョンが見つかったってよ」
せっかくなので仕入れてきた情報を自慢してやろう。
「お、どこら辺?」
「神殿のすぐ東、今調査中だがリザードマンの鱗が素材として良さそうって話。
装備品も鉄だから使えなくもないってさ。ただ、けっこう集団で行動する上に強いそうだ」
「へえ、そろそろ実戦経験も積みたいしうちらもダンジョンに回されないかね?」
確かにそれは感じるところがある。
「まずは調査し、適度なレベルのメンバーを斡旋するそうだぜ。
うちらはだいぶ後だろう。武道会でもうちょい成績良かったらなあ」
西の国では強さがそのまま発言権だ。強いものは優先される。
「何か成果をあげるにも―――」
ヒロトの声が止まる。隣にいたはずのヒロトに振り返ろうとす
(監視員2名、召喚者死亡確認)
風の刃で首を切断された獣人が二人、青い光を放って消滅する。
放ったのは二人のエルフ。
(どうせなら住人のほうが戦力減少になるんだがねえ)
召喚者は49日後に復活するから効果が薄い。
南軍での復活者に確認したところ、死亡前後の記憶は残っておらず
死亡時の痛み等も覚えていなかったが最後にどこにいたか程度は覚えていた。
下手をしたら誰に殺されたかを覚えられる可能性もあるため慎重にやらなければならない。
(住人は住人で死体処理の必要があるからまあいいか)
全滅させたい気もあるが警戒されるため少数に制限されている。
今夜は4人ほど、住人2召喚者2を殺害した。十分であろう。
仕事仲間に撤収の合図を出し、闇に紛れて彼らは去っていった。




