独白
「あれは産まれて3日目のことでした。普通であれば何も考えずひたすら母ハムスターの乳を吸っているだけの時期です。それが、あの子は突然にそれを止め、兄妹達と私達夫妻、そして飼い主に至るまでを順に睨み付け、そのまま無言で丸くなってしまったのです。
おぉ、その時のあの子の目!あれこそ、正に狂気が命を得た姿そのものでございます。
結局あの子はその後も乳に手をつけることなく、空腹のまま残りの4日を過ごしました。幼いハムスターにとって、それは死を意味するのが普通でございます。それを、あの子は生き抜きました。これこそ、あの子の異常性の証明であります。
それだけではございません。あの子は、一日に数度、兄妹達の顔をじっと見つめるのです。そうしてあの子に見つめられた兄妹は、まるで狂ったと言わんばかりに鳴き喚き、その後約一時間にわたって、あろうことかその他の兄妹達を攻撃するようになるのです。
あの子が見つめるのは一度に一匹のこともあれば、3匹程度を同時に相手することもありました。その全ての場合において、あの子に見つめられた兄妹だけが、そのような暴力行動を起こしています。
これをあの子のせいにせずして、他にどんな原因がありましょうか。あの子には確かに『魔法』が使えるのです。私達家族への恨みに満ちた魔法が。
お願いでございますフェリ様!飼い主の元を脱走して一週間、わたくしにはあの子の行き先について皆目検討もついておりません。あらゆる動物と会話可能なあなた様なら、きっと目撃証言も得ることができましょう。どうか、どうかお力をお貸しください。私は、家内と子ども達を、なんとしても守りたいのです」