安眠妨げる鼠
その晩、僕が寝床に選んだのは、寂れて草だらけになった公園の一角だった。近所にもっと立派な公園があったのを見る限り、みんなそっちにばかり行くのだと思う。ともかく、そんな寂れた公園の、砂場の脇に備えられたベンチが、今夜の僕の寝床だった。
サワサワと音を立てて吹き抜ける風が心地良い。見上げれば、今夜は新月だ。雲一つ無い星空を安っぽい街灯が照らすけれど、それでもいつもより多くの星が見える気がした。
まどろむこと数時間。夜明けとともに起きるのが習慣になっている僕だけれど、今日は特別早く、まだ東の空が白むのにすら遠く及ばない時刻に目が覚めた。いや、違う。正確には、起こされた。
耳元で怒鳴られて目を開けた先にいたのは、薄汚れたゴールデンハムスター。とって食うつもりはないけれど、向こうにはそんなことわからないだろう。なぜわざわざ僕を起こしたのか。それも、こんな時間に。なんとなく理由は想像できてしまうけど、外れていたらいいなと思う。
「お初にお目にかかります。わたくし、アウラと申します。失礼ながら、あなた様はどんな動物とも会話可能であるとお噂のフェリ様とお見受け致します」
そうなのだ。僕は色々な動物と会話できる。それが『普通』でないことに気付いたのは、いつのことだったか。
「どんな動物とも、は言い過ぎだよ。虫や魚と会話するのは難しい。思考がまとまってないからね」
僕の返答を聞き、ハムスター、アウラの目が輝く。やはり『噂』が本当かどうか、その目で確かめるまでは不安だったんだろう。
「夜分に大変失礼致します。ですが、何かと天敵の多いわたくし、夜しか自由が無いのでございます。もっとも、今のわたくしには夜の楽しみを満喫する余裕などありませんが。こうしてあなたにお会いできたこと、正に地獄に仏を見るようでございます」
地獄に仏。この流れで次に出る台詞なんて決まっている。
「実は、あなた様に折り入って頼みがございまして……」
やっぱりね。