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火急の使者
享禄三年(1530年)、六月。
夜の闇がようやく去り、朝日が差し込み始めた卯の刻(午前六時)。
小田原城の主、北条氏綱は未だまどろみの中にいた。
「殿、火急の使者が川越から来ております。如何取り計らいましょうか」
「通せ」
「はっ」
障子越しの報告に氏綱は即座に応答する。例え寝所にいようとも火急の用件は即座に伝えよと常より訓示しているため、家臣も心得たもので急ぎ廊下を小走りに去っていく。
(川越か。遂に動いたか上杉朝興)
上杉朝興の動きを予想していなかったわけではない。むしろ、来るべくして来たという想いの方が強かった。この度の戦いは決戦になるという予感。
北条氏綱はこれまで繰り広げてきた戦いを思い出しながら、今後の動きを予想しようとしていた。
その瞳にまどろみの色はもう無い。




