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二人目の巫女はなかなかガードが硬そうです

く、殺せ!とはならない

なぜなら彼女は姫騎士ではないから

 神様は随分と暇であることは大体理解したのだけれど、その周囲はむしろ存外忙しいみたいだ。

 美少女の巫女さんに羞恥プレイを強いたあと、報告しに行った綾音は帰ってきていない。度が過ぎたセクハラに対して抗議が行われた可能性もあるけれど、やはり優先されるべきは仕事だろう。つまりどれだけセクハラされようとも、側付きだから側にいなければいけない。

 側付きがどれだけ側にいるのかはわからないけれど、『ぐふふ、こんなところで眠るなんて、覚悟してるよね?』とか下衆なことも考えてみる。あんまり相手、というか綾音は普通に受け入れてしまいそうでむしろ怖い。もっとも、重度のロマンチストで『もっと、雰囲気を……』となる可能性だってあるし、逆に『ああ、こんな形で初めてを……』なんて展開もいいかもしれない。

 ……よくない。

 こういうくだらない思索に時間を裂けるというのはまさしく神様の特権といったところだろうか。少なくとも、以前はもっとまともなことを考えていた気がする。女の子をどんなふうにいじめるかとか、そんな小学生みたいなことではなかったと思いたい。

 というか、暇だ。綾音が出ていって六時間十八分。意識が目覚めてから十五時間二十五分。

 こうしている間も様々な弊害というべきか利点というべきかわからないことを俺は実感している。たとえば、時間がなんとなくわかるだとか、全く眠気がこないだとか。食事も食べたわけだから、食べられないわけではないのだろう。おそらくは眠ることはできるだろうし、生殖行動を取ることもできるのだろう。そういう欲がないだけで。

 それが良いことなのか悪いことなのかは判断しかねるし、それが本当に神様になった影響なのかもわからない。おっさんも引き継ぎのマニュアルとか残しておいてくれればよかったのに。

 俺にとっての暇つぶしは『こうしたらどうなるか』なんてふうに考えることぐらいだ。綾音に対する意地悪もそうだし、例えばこの神殿をぶっこわしてしまえばどうなるか、とかだったり。人間相手じゃなければ何をすればどうなってしまうのかは、おおよそ想像できてしまうあたり神様というのは暇だ。この神殿だって俺を穢れから保護するためのものだし、今の俺では当てられてしまうことだってわかる。人間と関わりたいとは思うのだけれど、どうやら人間は俺が忙しくしてしまったようで誰も来ようとはしない。

 と、どこからか足音が聞こえてくる。一瞬、綾音かなとも思ったけれども、どうやら違う。足音も大きく、歩幅もずっと広い。ありていに言ってしまえば、女の子らしくないと言ったところか。

「失礼いたします」

 扉をすっと開けて入ってくる巫女さん。凛とした佇まいにポニーテールに結わえた髪、アルトボイスの透き通った声、まさしく女の子にモテる女の子といった感じだろうか。

「え、っと君の名前は?」

「花音です。花の音と書いて花音と申します」

「ふ~ん、ところで綾音もそうだけど、君たち巫女さんたちには名前に音をつけるのが流行ってるの?」

「そのようなことはありません。全て親が授けてくれた名前です」

「ああ、それは君たちの親の趣味ってことでいいのか。やっぱり君たち巫女って元々は捨て子だったりするのかな?」

 綾音は自分たち以外にも巫女が大勢いることを示唆していたし、俺が知る限りの巫女はほとんどがバイトで巫女としての立ち振る舞いを教育できるものではない。かと言ってここの神殿の持ち主がいちいちバカみたいに子作りして、たくさんの娘を巫女として教育したというのも、妥当性に欠ける。だったら、可能性としてありえるのはこれだろう。

「それは今後の職務に関わりのあることでしょうか?」

「図星というわけだ」

「綾音で味をしめたのかもしれませんが、確かに神様のお言葉に従う必要はございます。が、しかしそれはあくまで信仰によるものであり、我々巫女にも自由というものが存在します」

「そう? 綾音は喜んでくれたよ?」

「巫女に対して目をつけることは禁止いたしませんが、過剰な期待を抱かせるようなお戯れはよしていただきたいのです。あれは、そういう立場のものではありません」

「ああ、あれね。花音って誰に対してでもそんなつっけんどんとした態度取ってるの? それじゃあ、相手は萎縮しちゃうし、気を使わせちゃう。そんなんだから、あのおっさんも困っちゃうんだよ」

「……前任の神様に対する不手際は自らも認めるものですが、それは今の神様に対して諫言を述べることとは関係がありません」

「そっか、やっぱり君が、神の子を産む役割の巫女なんだね」

「っ……!」

「やっぱりちょろさっていうのはあるね。向こうではチョロイン、堕胎ものといえば女騎士だったし、こういう役割を想定してそういうふうに教え込まれてるのかもしれない」

「一体なんの話を――」

「ああ、花音、君は気にしなくていい。君は君の用事を果たすといいよ」

 俺のその言葉に花音はびくっと肩を震わせる。向こうには俺がどういうふうな奴に見えているのだろうか。花音に俺が心を読むことができるとでも思われているのだろうか。残念なことにそれはできないし、あくまで想像するだけだ。

「……あくまで私は、神様の様子を伺うだけです」

「それもあるよね~。正直、強引に授かりにきたのかなぁと思ってたけど違う?」

「必要ありませんっ」

「だぁ~から感情的になったらダメだよ? なるほど、君たち巫女にはそこまでの自由は与えられていないみたいだね。案外、ぽっとでの綾音に役割を持って行かれそうになって怒り心頭かと思えば、そこそこ冷静なんだ。それともしっかりと教育されてるってことなのかな?」

「…………」

「あ、イラっとしたかな。からかい甲斐があるとついつい萌えてしまうからしょうがないってことにしておいてよ。それと花音は一度も顔を上げてくれないね」

「必要がないからです」

「俺がこうして頼んでいても?」

「神様のそれはお願いであり、命令ではないからです」

「残念なことにこちらは無理やり命令して嫌がる子に何かをさせるっていうのはあんまり好きじゃないんだよね」

「綾音には随分と色々したようですが?」

「あれは背中を押してるだけだよ。嫌よ嫌よも好きのうちっていうし、踏み越えてはならない線は死守してるつもりだけど?」

「随分都合のいい解釈ですね」

「神様だからね。君たちだって、俺のことを神の子を授けて、儀式に参加して、たま~に穢れを払うだけの都合のいい存在だと思っているだろ?」

「……それは」

「否定しなくてもいいよ。それが役割ならきちんとこなしてあげる。楽だけさせてもらえるとは到底思ってないしね」

 この世の中には都合のいい話なんてない。旨みだけを吸い取れることはないし、要はどれだけプラス収支で終われるかだ。

「そして、他の男に操を立てている女をどうこうしようとか流石にそんな鬼畜みたいなことはしないって」

「いえ……そんなことは」

「あるわけだ。まぁ、当ててしまったことは申し訳ないかな。神様のスペックが標準的にはどうなのかは知らないよ? けど、さほど変わらないのならばあのおっさんにだってある程度は魅了される巫女が出てきても仕方がないと言えるよね。まして、神の子を授かれなかったわけだし、君が感じる責任も重いと。また違う神様が出てきて、じゃあというふうにはいかないだろう。君だって女の子だしね。つまるところ、君が顔をあげないの、と言って顔を上げなかったのは命令じゃなかったからではなく、怖かったわけだ」

 そこまで言ったところで一旦言葉を切る。一度、花音の方に目を向けてみるとどうやら、震えている。当ててしまったということか。あんまり神様として察しが良すぎるというのも考えものだな。それにこういうふうに巫女がいじり甲斐がありすぎるのも問題だ。それにあんまり自制心も効かない。

 テンションが上がってしまうともう止まれなくなってしまうというか、ブレーキが壊れている感覚。

「……申し訳ありません」

「だから、花音が謝る必要はない。お役目として文句を言わなければいけない状況と、乙女としての感情の葛藤に苦しんだことは想像にたやすい」

 いや、まぁ俺がどの口で乙女とか言ってるんだって話だが。ずかずかと踏み込んでいって何様なんだろう。

「はぁ……そんなわけで君に無理強いすることはないから、じっくりと考えなさい。わざわざ顔を上げないのかなんて言ってしまって申し訳ないね」

「……失礼しました」

 そう言い残して、花音は扉を閉めて部屋を出る。心の中にあるのはちょっとした優越感。それは単に神様として与えられたギフトだとしても自分でやっているという意識が強いからだろう。

 そして、また一人だ。だだっ広い空間にぽつりと取り残されると、本当に暇だとしか感じない。一人遊びの道具なんてないのだから、遊びようもない。つまらない。

 と、ここで聞き覚えのある足音。ほんの少し、それを心のオアシスにしている自分に気づいてニヤリと笑う。

 いや、女の子のことを考えてニヤニヤするとかどんだけ性格悪いんだよ……俺。ちょっとばかし落ち込んだ。

 うん、多分大丈夫。許される許される、神様だから。

「失礼いたします」

「どうぞ」

 扉が開いて、ずっと撫でていたくなるような可愛らしい頭が姿を見せる。それを行動に移すとポンコツ化してしまうので、我慢しておこう。花音に戯れはほどほどにと言われていることだし。

「しばしのお暇、申し訳ありません」

「仕方ないよ、それも綾音の役割の一つだ」

「そう言っていただけると幸いです」

 その言葉には力がない。しかし、気分が沈み込んでいるということも、どうやらなさそうだ。

「ところで、側付きといってもどれだけどれくらい側にいるの?」

「基本的には、ずっとです。神様にとってなすべきことがない時間は大変退屈だと聞いております。その時間を埋めるのが巫女の仕事の一つであり、側付きの巫女が行うこととなります。ゆえに神様が不要だと仰る時間以外は全てここで待機いたします」

 と、そこまで喋らせたところで理解する。綾音はおそらく眠いのだろう。

「綾音そろそろ眠ろうか、こっちにおいで」

 太股を叩いて遠まわしに命令する。綾音は顔を真っ赤に染めて、躊躇う表情を見せた。

「別に、俺が眠るから出ろと言うのと綾音と一緒に眠る。どちらも大して変わりはしないだろう?」

「は……は、い」

 納得したのか、綾音は立ち上がってこちらに向かって歩いてくる。熱に浮かされたようにふらふら歩くものだから、やりすぎを反省するには十分な状態だ。

 俺の膝を枕にして、綾音はすやすやと寝息をたて始める。よっぽど疲れていたのだろう、多少いたずらをしてもバレそうな気配はない。

 こうして一日の終わりが近づいてくる。順調すぎるぐらいだけれど、面倒臭そうなイベントは、まだひとつも来ていない。

Q10おっさんでもモテるの?

A10神様であることと札束ビンタはほぼ同義です

Q11俺TUEEEまだ?

A11恋愛的には俺TUEEE、物理的にはもうちょっと待て

Q12攻略されてないんだけど

A12神様といえども見たこともない相手を惚れさせることは……できたわ、平安時代とか

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