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俺が天になったので飯を食べました

女の子が本格的に登場です

食事シーンです。やましいところは全くもってありません。これはもうお分かりですよね

 男の憧れのシュチュエーションとして恋人からのあ~んがある。

 うん、それ自体は理解できる。だけど、それは期待に満ちた目で見つめられ美味しいと言えば喜んでくれるであろうから、貴ばれるのであり、こういうのは例外に当たるのではないだろうか。

 俺に食事を食べさせてくれる綾音を名乗る女性は、下を向いたまま目を合わせようとしない。箸に摘まれた焼き魚の切り身は俺の口の前で停止している。香ばしい匂いが鼻腔を刺激するが、状況が不気味すぎてとても食べる気は起きない。

「え、っと綾音って言ったっけ?」

「はい。間違いはございません、神様」

「どうして、目を合わせようとしないの?」

「はい。私ごときが神様と目を合わせようなどと烏滸がましいことであるからです」

「おこがましい、ね。じゃあ、前任の神様の側付きも、君だったりする?」

「はい。前任の神様におかれましても、私が側付きを務めさせていただきました」

「それじゃあ、側付きを変えてほしいって前任の神様が言っていたことも知っている?」

「はい。しかしながら、前任の神様が希望なされた妙齢の女性は神様がお住まいになるこの神殿に入ることは許されておりませんゆえ、実現することはありませんでした」

 俺は、おっさんの心情が少しだけ推察できる。

 なるほど、確かにおっさんにはこの職場は辛いかもしれない。俺はそれが正しいのかを確かめていく。

「どうして、妙齢の女性はここに入れないの?」

「はい。ここは神聖な場所でありますがゆえ、穢れを持つ女性が立ち入ることは許されておりません」

 あ~はいはい。もう色々とわかってきましたよ。あんまりにも露骨すぎるもんだから、苦笑いすら浮かんでこない。

「え~と差し支えなければでいいんだけど、その穢れを持たない女性っていうのはセッ……性行為をしていない女性。という解釈でいいんだよね」

「はい。神様の解釈で間違いございません。しかし、恐れながら付け加えさせていただくと、この村では二十五を超えたものは子を成さなければならないとの掟がございますので、巫女として認められる十五から二十五の性行為をしていない女性がここに立ち入ることを許されております」

 恥じらいがなかった。ひょっとしたら、想像以上にきついかもしれない、この職場は。文句をつけるわけではないけれど、差別意識の現れと言われても仕方がないけど、女性には恥じらいというものを持っていてほしかった……

「え、っとそれで最初の話に戻るんだけど、俺と目を合わせないっていうのは掟か何かで決まっているの?」

「はい」

 おい。

「そのような掟は存在しません。しかし、二つの理由から巫女は神様と目を合わせることはいたしません」

 んだよビビらすな。最初のはい、はきっと返事なのだろう。教育が徹底されているというか、融通が利かないというか良くも悪くも、これが伝統というものなのだろう。

「一つは、神様は我々とは異なる上位の存在でありますがゆえに長時間目を合わせていると身体に一時的な変調をきたすことがあり、巫女としての業務に支障をきたすため。二つ目はこの姿勢が神様への敬意を称するものであるからです」

「うん、二つ目は理解したのだけど一つ目はどういうこと?」

「はい。前々任の神様の代から巫女としての活動が記録されていますが、長時間神様と目を合わせた巫女には一時的な体温と心拍数の上昇、動作精密性の低下などが指摘されており、前任の神様の代からは神様と目を合わせぬことが推奨されております」

「禁止されているわけではないってことだね。つまり俺が話すときは目を合わせろと言ったら君は従わなければいけないということ?」

「はい。神性を破壊するような行為、例えば、巫女の適性を持たぬものを連れてこさせる、神殿内で血を流させる等の場合でなければ巫女には神様の言葉に従う義務があります」

「へぇぇ……」

 やべぇ、これはかなり試されている気がする。だって俺が脱げと言えばこの子は脱いでくれるわけで、良心の呵責が云々だぞ。

「じゃあ、とりあえず俺の言葉に返答するとき、最初にはいをつけるのやめようか。色々と紛らわしいし。それと話すときは目を合わせてくれる?」

「わかりました」

 綾音さんが、すっと顔を上げる。瞳は大きく、透き通るような美しさがある。唇には丁度良く肉がつき、頬には張りがある若々しい肌。短く切れ揃えられた黒髪には手入れが行き届き艶やかな光沢を放っている。顔を伏せていて気づかなかったが胸も大きく巫女服を押し上げている。

 その姿はまさに理論集合値としての巫女と言えるだろう。いや、何を言っているんだ俺は。とにかく、まさにこれが巫女だと言える容貌である。つーか、これで処……経験がないとか、やばいだろ、この世界。何、性欲とかどうやって性欲とか発散させてるの? 高度な巫女ミュ二ティによるレズが大半なの? それとも純粋培養お嬢様なの巫女って。というか大抵バイトなんじゃないの?

 はっとようやく元に戻ってくると目の前に差し出されている焼き魚が『おら、早く食えよ』と言っている気がしないでもないので、そのままパクりといただく。

「ぁ……」

 長時間の放置プレイにさらされていたはずの魚の肉はそれでもまだほんのり温かい。口の中で歯を立てると実によく通る。骨などが全くなく、作り手の心意気が感じられる。噛めば噛むほど旨みはましていき、振りかけられた塩がアクセントとして効いて、さらに食欲を掻き立てる。これは瀬戸内の海で取れた塩に違いない。

 ……いや、なんでわかるのか。よくわからん。

 再び、箸が差し出される。今度は、大根の漬物。それも躊躇いなく、口に入れる。

「っ……」

 パリッと大根が弾ける。一般的に野菜などは水分が多く含まれ、それが瑞々しさや食感の大きな要因になっている。しかし、漬物というのは塩や酢、酒粕などとともに漬け込むことで保存性や風味の醸成などを主な目的としているが、浸透圧の関係によりその水分が奪われてしまうのだ。ミミズなどが塩をかけられて縮むのもこれと同じ理屈だ。話を戻すと水分と風味のトレードオフはまさしく好み、あるいは家庭の味とも言うべきだが、この漬け具合は実に俺の好みに近いと言えた。

 何か、色々と忘れている気がしないでもないが、きっと些細なことだろう。とりあえず今は目の前に差し出されている料理に舌鼓を打つことにしよう。

 次々と差し出される料理をどんどん食べていく。どれもこれも、非常に良くできていてどれだけ食べても飽きないくらいだ。だんだん、箸の位置が下がってきて食べづらくなったが、それくらいは十分許容範囲だろう。

 終わったということに気づいたのは、差し出される箸がついに停止したからである。

「あ、もう終わり?」

 問いかけたことで、綾音の存在を思い出す。そういえば、食べさせて貰っていたんだった。

「は、はひ……。もも、申し訳、ありま……せんが、お、終わりで、す」

 滅茶苦茶テンパっていた。顔全体が朱に染まり、命令通りに必死に目を合わせようとする気持ちと羞恥心に負けて目を逸らしたがっている気持ちが、明らかにせめぎ合っていた。

 ……一時的な体温、心拍数の上昇、動作精密性の低下、ね。なるほどこういうことなのか。とりあえず、まぁ、神様って本当にチートみたいな存在だ。

「ねぇ、この料理は綾音が作ったの?」

「はひ……わ、わたくひがちゅ、作らせていただき、ました」

 だから、ちょっとした悪戯心が湧いたというか、どこまでなのか、試してみたくなった。

「そう、ちょっとおいで」

 手招きして、綾音を呼び寄せる。食事のときは僅かな距離があったけど、それをさらに詰めさせる。綾音はというと、恥ずかしがってか、俯いてしまっていた。それがいたく嗜虐心を刺激する。

「ダメだよ、綾音。ちゃんと目を合わせなさい」

「わ、わかり……ました」

 けれど、神様の言葉には逆らえないのか、ゆっくりと顔を上げる。もはや、耳まで赤く染まり、目はとろんとしたまま若干濡れていて、ずっとお預けをくらっている子犬みたいだ。

「美味しかったよ。よくできました」

 そういって頭を撫でてやると、綾音の身体はびくんと振るえ、背中を大きく反らす。唾液が口元で糸を引く、艶やかな痴態を面白いなぁと思いつつそのまま撫で続ける。綾音の身体からはどんどん力が抜けていき、最初はきちんとしていた坐の姿勢も崩れていく。

「ぁ……ふぅ、かみぃ、しゃまぁ……」

 呂律が回らず、まともな言葉の体をなしていない。意地悪はこれくらいにして頭から手を離してやる。しかし、なおもトリップ状態は続いており、口元から溢れる微かな呼吸音は見る人が見れば、非常に艶かしく映るだろう。呼吸が収まるまでの五分ほどを俺はとてもニヤニヤしながら過ごした。無論、手は出していない。

「っ! ぁ、ぇ、は、はあっ……ああ!」

 ようやく正気を取り戻した綾音はそのまま行動に移ろうとしたが、一瞬で現状を把握したのか、すぐさま配膳台を抱えて、部屋を出ようとする。が、よほど慌てていのか、パニック状態で混乱していたのか、袴の裾を踏んでしまい、前へと転倒していく。

 やばいと思った瞬間、身体は動いていた。自分でも信じられないほど速く動き、綾音の腹に手を回してきちんと支えることができた。残念ながら胸を掴むことはしなかった。流石にラッキースケベ扱いは勘弁である。いや、誰もそう言わないだろうけど、単にプライドの問題か。

 こうして、抱きかかえてみれば綾音は女性にしてはかなり身長が高い方で俺よりちょっと低いくらいだ。ちなみに俺は176センチだった。ちょうど頭のてっぺんに鼻が近づき、柔らかな匂いが伝わる。

 この世界の美容品がどれほどのものか知らないが、実にぐっとくる。

「も、申し訳ありません。神様」

 事態を理解した綾音はすぐさま俺の腕から抜け出し、配膳台を脇に置いてから土下座平服。このまま許さなかったら首を釣るんじゃないかと思うくらいの勢いだ。

「いいよ。これからはきちんと、気をつけてね。それと、髪。手入れが行き届いているね。これからも怠ってはいけないよ?」

「は、はいっ。お褒めいただきまことにありがとうございます」

 再び、顔を真っ赤にすると、そのままそそくさと出ていった。

「面白い子だなぁ」

 思い出しただけでも、忍び笑いがこみ上げてくる。色々整理したいことはある。ここでは俺が神みたいな扱いを受けることはどうやら間違いなさそうだ、それはきっといい意味でも悪い意味でも。そして神様という地位についてくる様々なスペック。咄嗟に綾音を受け止めたが、普通の人間なら不可能なタイミングだった。つまり綾音に対するあれも諸々含めてオーバースペック、チートもいいところのものが与えられている。うまく使えばとんでもないこともできそうだが、流石に良心が痛む。

 とりあえずはゲスい方向にはあまり使わないようにしよう。どれだけ強制力があるかもわからないところだし。

 先程まで綾音が座っていた場所を眺める。距離はあるが十分確認できる。正気に戻った綾音がまず股間に手を伸ばそうとしたこと、そしてあの場所が微かに湿っていたことはきちんと心の中に留めておこう。

 どたん、と遠くから音が聞こえた。多分、綾音がこけた音だ。

「はぁ……」

 視力、聴力、知識、身体能力、魅力。とりあえずこの辺りは間違いなく、ブーストがかかっているのだろう。

 そういうことをしようとしていたことも含めて、とりあえずは巫女である綾音から情報を探っていきつつ俺がどこまでできるのかも確かめなければならない。孫子曰く、彼を知り己を知れば百戦危うからず、だ。ここでどうやって生きていくかの戦いは既に始まっていると言える。まぁ、おっさんが言うよりにあまり大変そうではないのが幸いだろう。

「ふふっ」

 そういうことしようとしていたことを綾音に聞いたらどういうリアクションをするだろうか、考えていたら思わず笑ってしまった。

Q.4なんでこんなにちょろいの?

A.4色々ありますが、神様だからです

Q.5なんか色々落ち着きすぎてません?

A.5神様だから大丈夫です

Q.6羨ましい

A.6神様だからです

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