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建物の中は、意外にも綺麗で優美な雰囲気を醸し出していた。
外からは想像出来ないような内部に少年は少しだけ安堵の表情を見せた。
目の前には大きな階段。頭上にはシャンデリアが。外側は蔦に覆われてよく分からなかったがどうやらここは大きな洋館のような場所らしい。
その大きな階段の先にはこれまた大きな両開きの扉が。その大扉の横には今度は一人の女が立っていた。
赤のような色を基調とした洋館の内部は、少年にとっては初見のものだったらしい。
「おかえりなさーい!!!!」
物珍しくてしばらく中の様子を眺めていると、大扉の横に佇んでいた女が少女に叫びながら抱きついていた。
少年はあまりに突然の出来事に、当事者でもないのに非常に驚く。当の抱きつかれた本人は毛ほども驚きを表情には出していなかった。
「ただいま」
先程の叫びのような声とは対極した淡白な声。表情を一切変えないで少女は抱きついてきた女の頭を撫でていた。
「無事に帰ってきて嬉しいにゃ~。心配したんだからね~!」
「うん、ありがとう」
その余りに温度差の激しい会話に少年は、少しだけ笑みを浮かべる。どうやらこれが彼女達のいつも通りの会話らしい。
はねっ毛が猫の耳のようになっている女は、一頻り撫でられた後で少年に気付く。
「あ、これはこれはお恥ずかしいところを…。もしかして君が新しい『over worker』かな?」
「あ、そうみたい、です…。」
「おー、今度は男の子なんだにゃ~。取り敢えず中に入っておくれ~」
たどたどしくもなんとか返答する少年。先程の男のように見定められる目線が無かったためだろうか。
それともこの女のゆるふわな雰囲気がそうさせたのか。定かではなかったが、少年はきちんと反応出来たことに満足な表情を浮かべる。
「今度は、出来た。偉い偉い」
少年よりも少しだけ身長の高い少女が少年の頭を撫でる。撫でられていることに気付いた少年は一気に赤面する。
「や、やめてくれ…。恥ずかしい…」
頭を撫でられたのなどいつ以来なのか。そもそも褒められたことすらいつ以来なのか思い出せなかった。
そんな少年が頭を撫でられながら褒められる。しかも女の子に。少年の羞恥心は今まで経験したことのないものだっただろう。
「ほらー、早くー。リーダーお待ちかねだよ~」
「分かった」
リーダー、と呼ばれる人が大扉の向こうには待ち構えてるらしい。
一体何のリーダーなのかはさっぱり分からないが中に入る以外の選択肢など無いのは明白であった。