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「お? やっと帰ってきたか。遅かったな」
「うん。ちょっと遠出だったから」
門を抜けた先にある建物の入り口の横の壁には、一人の男が寄りかかっていた。
フードを深く被ったその男は、どうやら少年を連れてきた少女と知り合いらしい。
「ん、お疲れ様。…で、そいつが新しい『over worker』か?」
男は少女から少年へと視線を移し、見定めるような視線を少年へと向ける。
フードの下から少しだけ見えるその目に少年は恐怖感を覚える。
いつも向けられていた目だ。少年は、この目を知っている。期待と侮蔑が混じりあったようなそんな目だ。
「そう。彼が新しい『over worker』」
少女は少年を指差して、男に紹介する。しかし少年は未だに黙ったままであった。
愛想が無いわけではない。ただ、何故か声が出ない。少女の前では声が出せたのに。
「ほー、随分と細いな。となると、『勉強』ってとこか? また珍しいな」
「…あんまり、詮索しないであげて。怯えてる」
「…みたいだな。さっさと中に入るといい」
男はまた少年を一瞥して、ポケットに手を入れてまたすぐに壁に寄り掛かる。
彼の目は、門の外をずっと見つめている。
「彼は、ここの門番みたいな人。いい人。」
少年を落ち着かせるように少女は優しく彼の紹介する。不思議とその声が、少年の胸の内にスッと落ちた。
「…ありがとう。後で謝っておかないと…」
やっと声を発することが出来た。人と話すことがほとんど無かった少年には、あり得ない話でもなかったのだが。
「彼も怒ってない。段々慣れればいい」
淡々と語る少女の言葉が、少年にはどうしてか心地よかった。
相変わらず声に抑揚もなく、冷たい言い方だが少女なりの気遣いであると少年は解釈する。
「あ、名前聞き忘れた」
建物の外では男が独り言のように、自分の失態を口に出していた。