1-4
もう既に一時間は歩いただろうか。それでも少女の足は止まることはなかった。
歩みを進める度にどんどん人の気配というものが薄れていく。『私達の居場所』、というのがどんな場所なのか少年は皆目検討が付かなかった。
「な、なぁ…。まだ着かないのか? もう随分歩いてるけど…」
「もう少し。我慢してくれると助かる」
このやり取りももう何回目か分からない。普段勉強ばかりしていた少年に体力が多いはずもなく、そろそろ着いて欲しいのが本音だった。
少女の歩くペースは一時間前から一切変わらなく、こちらに合わせるという気が感じられないのが少年の疲労が増す原因でもあった。
少年が質問をした、その数分後。少女はある建物の前で足を止めた。
「着いた。ここが、私達の居場所」
少年は、夢を見ているのだと思いたかった。時間をかけて歩いてきた場所がこんな場所ならば、誰でもそう思うだろう。
「え、ここ…? 本当に…?」
「うん。私は、嘘を吐かない」
出来れば嘘だと言ってほしかったのが少年の本音だ。目の前にある建物は、古ぼけていて今にも何かが出そうな、そんな建物だったから。
建物の外壁は蔦に覆われ、周りの鉄柵は錆び付いている。中に人がいるかどうかも怪しい、そんな雰囲気の場所。
人気が少ないのも頷ける。こんな場所、誰だって近寄りたくはないだろう。
「…? 取り敢えず、中に入る」
何か微妙な顔をしている少年を見て、少しだけ不思議そうな顔をしたがすぐ目の前の門を開き始める。
門の向こうには、雑草が生い茂り来るものの行く手を阻む。しかし、けもの道のようなものが出来ていて人が出入りしているのはどうやら間違いないらしい。
彼女が一人でここにいるというのは考えにくい。恐らくは、誰かがこの中にはいるのだろう。
錆びた金属と金属が擦れ合うような嫌な音を聞きながら、少年は覚悟を決めた。
「…どうせ行くとこもないし、着いていくよ」
「それがいい。物分かりのいい人は、嫌いじゃない」
少女の顔は見えなかったが、少年には彼女が笑っているように感じた。
果たして、この先に待ち受けているのは何なのか。
鬼が出るか、蛇が出るか。それはすぐに明らかになることだろう。