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「俺達が、特別だってことは分かった。…だけど、何でこんな時間が存在する? それに、さっき襲ってきた奴は何者なんだ…?」
少年は続けざまに質問を少女へとぶつけていく。知れば知るほど疑問はいくらでも沸いてくる。少年はいつもそうやって生きてきたのだろう。
少年の質問に少し答えかねたのか、少女は人差し指を顎に当てて思案の表情を浮かべる。
「今、それを説明するのは得策じゃない。後少しだけ、待って」
「後少しって…」
一から説明する、と言ったのだから全て説明してほしい。と言いたげな少年を無視して少女は立ち上がる。
そして少女が立ち上がった数秒後に、世界は劇的な変化を遂げた。
先程まで、二人が出した音以外に音が存在しない空間に音が聞こえ。
少年の肌が感じたのは、少しだけ冷たい風。目が捉えたのは風に舞う細かな砂埃。
「…『over time』が終わった。これで、移動出来る」
少年の腕に付けられていた腕時計の秒針が、突如として動き出す。午後2時32分で動くことを止めていた時計が仕事をし始める。
そうして少年は再認識する。本当に『over time』には何もかもが止まっていたことを。
「動いて、またさっきの奴に見つかったら…」
「それは大丈夫。それも含めて説明するから、付いてきて」
立ち上がった少女は、既に歩き始めていた。ここに一人で置いてきぼりにされる訳にもいかない少年は、慌てて立ち上がり少女の横を歩き始めた。
先程まで握られていた日本刀が跡形も無くなっていることに気が付いたが、今は質問をやめた。どうせ今は答えを貰えない。
「なぁ、どこに行くんだ?」
しかし、この質問だけはせざるを得なかった。移動するのであれば目的地を知っておきたいのは当然の話だ。
少女は、こちらを見ないでただの一言で返答した。
「私達の、居場所に」
時は同じくして、大通り…
「逃がしたの? ったく、せっかくのカモだってのに…」
「じゃかぁしいわ!! またあの女が邪魔したんだから仕方ないだろが!」
「…えぇ…更に面倒じゃん…。あの子に強くなられたら厄介だよ?」
「分かっとるわ!! 次の時間には必ず殺す!」
「頼むぜ、本当…。俺達の失った『自由』がかかってるんだからね?」
「さっさと終わらせてやるわ!! こんなもん!!」
既に活気を取り戻した大通りには、不穏な会話をする二人の男がいた。