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恋愛未満な恋  作者: 野波香乃
第一章:When love comes off
7/9

6.幸せのありか

「おかえり。」

「ただいま。」

 

 お供係り初日を終えた後、社長は三階の社長室に、そして私は二階の自席へとたった今戻ってきたところだった。

そして、今声をかけてきたのが私と同じく事務担当の佐伯まどか。

彼女の席は私の席の正面の席。

彼女も私と一緒で転職でこの会社に入社という経緯ではあったけど、私より先にこの会社に入社しているから厳密に言えば、先輩に当たる。

しかし、彼女はそういうことにはこだわらないらしく、また年齢も同じ26歳ということもあって、まどかとは会社の中だけじゃなく、プライベートでも遊びに行ったりしている。


 だから私のランチの時間は決まってまどかと過ごすことがほとんどで、当然今日もそのつもりだった。

安田部長からお供係りの辞令を言い渡されるまでは。

それが突然の辞令。

驚いている時間もなく、だからって社長を待たせるわけにはいかず。

慌てて財布とスマホをとりに席に戻り、彼女に『ごめん、今日のランチパス。』とランチにいけなくなったことだけを伝えて、それから慌てて三階に直行していつ出てくるかわからない社長を待っていたから。

だから、まどかはまだ私がランチのお供係りに抜擢されたことを知らなかった。



「部長の話ってなんだったの?」

まどかはパソコンの画面から顔をずらし、小声で聞いた。


「社長のランチ係に任命されたの。」

「えっ。本当!?」

「ホント。」

「だってあれってデザイン部署の女性が多いって聞いてたけど…。」


私もそう聞いてたんだけどね、今日までは。


「先週まで担当してたデザイン部署の田中さん妊娠されたんだって。安田部長いわく、次の候補は社内で一番新しい人に担当してもらおうって思ったらしいけど、うちの会社去年入社した人居なかったらしいの。それで、しかたなく遡って二年目にしたら、その年入社したのって私だけだったらしくて。それで急遽お鉢が回ってきたってわけ。」

「へぇ、そういう訳か。」


 社長には『仕事がんばります。』とは言ったものの。

私の内心は複雑。

厄介なお鉢が回ってきたものだって思いが強い。

それもこれも去年入社した人が居なかったからという理由で回ってきた鉢。

次の人に鉢を回すのはお役ごめんになったときなわけだけど。

さて、それがいつになることやら…。



それからしばらくそれぞれの業務に没頭していたとき。


「加絵、ラウンジ行かない?」

まどかに声をかけられ時計を見ると、時刻は五時過ぎになろうとしていた。


「行こうかな。」

今日の業務もだいたい目処がついたこともあって、私はまどかの提案にのることにした。


 わたしたち事務系の勤務時間は一応六時までと決まっていて、残業することは月に数回程度。

でもうちの会社では、五時過ぎになると15分だけ休憩をとることができる。

そのため他部署の人たちもよくラウンジに集まって残業するための休憩を取っていることが多い。


まどかと一階のラウンジにきた後、サーバーからコーヒーを淹れて窓際の席に座った。


「それで?どうだったわけ?」


 あっ、やっぱりそこは気になるのね。

当然といえば当然か。

今までこの変わった風習を受けるのはデザイン部署の女性が多かったから、あまりこっちには情報流れてこなかったしね。


「う~ん、普通?」

「普通?なにそれ?」

説明しろといわれても困る。

だって普通としか言いようがない。


「社長が気になっているって言ってたお店に案内されて、そこでちょっとお高い普通の会社員が毎日食べたらお財布が空っぽになっちゃうようなおいしいおそば食べて、ちょっと世間話して、それでおしまい。」

「なにそれ。それだけ!?」

「そう、それだけ。」


 なにを期待していたのかはしらないけど。

そう、それだけなんですよ。

まさか高級料理店のフルコースでも食べたとでも思ってたんだろうか。


「てっきりシンデレラだと思ってたのに、残念。」

「シンデレラ!?なにそれ?」

「だって大抜擢でしょ。事務系の加絵が選ばれたのって。だからてっきり社長の目に加絵が留まったんだって思ってたのに。」

「…。」


 そんなことを言われて、まどかの話に返す言葉がみつからなかった。

だいたい、私のどこに社長の目に留まるところがあるっていうんだろう。

仕事が特別できるわけでもなく、容姿が特別いいわけでもない。

よく言えば、全部普通。

そんな私にシンデレラ!?

そんなことあるわけないのに。

それに、社長の目に留まるとしたらまどかの方だと思う。

なんと言ってもまどかは、美人のカテゴリーに入る。

おまけに身長も高いから、社長と並んで歩けば、美男美女で絵になる二人ってところ。

そんなことを考えていたら、まどかの方が適任だと思えてきた。

お供係りに推薦性ってないのだろうか?

あれば、絶対まどかを推薦するのに。



「でもさぁ、週二日もただでランチ食べられるんだったらいいよね。」

「たしかに経済的にはありがたいけどさぁ…。でも雇用主とのランチだよ。私はまどかと気楽にランチするほうがいいけどなぁ。結局今日だって社長となに話していいかわからなかったし。」

「26歳の加絵と40歳の社長では14違いか。うーんでも私的にはありかな。」

「ありって?」

「恋愛対象としてに決まってるでしょ。」


 おーさすが、まどか。

やっぱり考えることが違う。

こういう常に恋愛のアンテナ立ってる人が幸せになれるんだろうなと関心。

私はというと、まどかのその台詞にびっくり。

社長のことを年齢とか関係なくそんな風に考えたことなんてなかったから。

だって社長だよ。

雲の上の人とまでは言わないけど。

その感覚に近くて、ほとんど話したこともないような人にそんなこと考えたこともなかったから。

って、社長結婚してるでしょ!?と、思ったもののそう言えば、ステアリングを握る手に指輪はなかったけど…。



「あー。そういえばまどか年上の男の人好きだって言ってたもんね。」

「加絵はそんなこと考えたこともなかったって顔してる。」

「するどい。」

そう言うと、まどかは得意そうな顔をして笑った。


「恋も、恋愛もさ、いつ、誰と、どうなるかなんてわかんないからね。加絵もそろそろ新しい一歩踏み出してもいいんじゃない。」

「…。」

 

 まどかは私の転職の経緯や事情も知っていたからこそ、私に言った台詞だってことはわかっている。

でも私はまだその台詞を言われると、どう返していいのかわからなくなる。


「案外、加絵の幸せ近くに落ちてるかもよ。」




 そう言われても、臆病な私は投げられた石を遠くから眺めているだけだった。




次話もお楽しみに♪

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