無呼吸の園
捧げられし無呼吸は誰のため?雪原に消えゆく定めはケロイドのため?
聖女の歌うアヴェ・マリアを奏でるオーケストラなんていない。
消滅を願う運命論者のオラトリオだけが聞こえ、無限の遊戯に果てている。
首から上のない指揮者の無意識への降下はまるで深宇宙の果てに似ており、
銀河の規律は白い闇を包括し、音符の森に侵入していった。
さらば!飛沫感染。さらば!夕凪の都。嗚呼!理論主義者の落とした純情を齧る。
どうでもいいと一蹴するあなたの顔はどろどろに溶けている。
戒律の綺麗な雨粒。その意味の帰趨。僕はマリーゴールドに帰る。
濡れる炎は胸を焼いて、地の底のラブソングを歌った。
溺れるまま、悲しみと憎悪を満たせ。もっと聖なる歌を歌え。
天にまします我らの神様仏様、地上の我らを笑ってる。
「汚いところに住んでいる下郎な奴らを滅ぼそう」
「聖性なんぞ架空の概念。そんなものなどどこにあるのだ」
整腸剤で炎症を防止、けれどそれでは神には届かない。
殺鼠剤で邪悪な生物を殺そうと、むしろ自滅・自滅・自滅あるのみ。
空嘔だけの儚い幻想。落剥する自我のかたまり。
盲目の教祖の啓蒙思想は堕落していた。救済はどこにもない。
縮小した罪と罰。溢れかえった下卑た侮辱。頽廃したワルツ。
清冽な水ものちに汚濁し、蒼穹の純粋さもいずれ化膿する。
兵器廠のうるさきノイズは次第に快音と変化する。
呼吸のいらない世界に誰がした?飾り文字だけの繁栄する国家に誰がした?
どこに聖なる功徳があるというのだ。どこに煌びやかな瑪瑙があるというのだ!
あるのはヘドロのような豚箱とまだ誰も見たことのない多大な毒素だけ。
それと無駄で愚かな理論武装の虚言だけ。接ぎ木だらけの戯言だけさ。
いつになれば終止符が打点されるのだろうか。電源スイッチを探す旅。
荘厳な天地創造。媚薬と擬装。香水の匂いが芬々。神様の排泄物。
細く白い少女が目の前に立ってはいるが、どうでもいい。どうせ処女ではない。
なんにもない飽食の時代に清らかな音楽はない。曙光を言祝ぐことはしない。
少女は僕に近づいた。「さあ、手を出して」と一言つぶやいた。
そして、血の涙を流し、「どうか幸せに」。接吻の残滓。
酸性雨の降る庭園に一掬の涙が僕の眼から零れ堕ちた。
一人ぼっちの僕に感情なんてなく、「聖なる意味」を知る。嘘はつかない。
目の前のゲートは開き、遠くに神格化された天使の愛を見る。
乱反射する光。昏睡の奏で。音楽の蘇生は僕を心地よく退場させる。
胸に刻まれた記憶に溺れ、今は痛んだ蚯蚓腫れだけが心地よい。