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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

赤ずきんさん

作者: 腐れ大学生

赤ずきんちゃんマジプリティー。

 昔々、あるところに、とても可愛らしい女の子がいました。

 女の子はいつも赤い頭巾をかぶっていて、それがとても似合っていたので、みんなは女の子のことを「赤ずきん」と呼ぶようになりました。


 ある日のこと、お母さんは赤ずきんを呼んでこう言いました。


「赤ずきんや、おばあさんが末端肥大症を患ってしまったの。おばあさんはあなたをよく可愛がって下さったのだから、お見舞いに行きなさい。きっと喜んで下さるから」

「わかりました、お母さん」

「それじゃあこのケーキと上等なウォッカを持って行きなさい」


 お母さんから渡されたバスケットの中には、おいしそうなブルーベリーケーキと、度数の高そうなお酒が入っていました。

 赤ずきんは、おばあさんがお酒を飲んだ後は、いつも赤ずきんのみぞおちに拳を叩きつけて遊んでくれていたことを思い出しました。

 今思い出しても嘔吐感がこみ上げてきます。

 赤ずきんがおばあさんのところへ行くは初めてだったので、お母さんは心配でたまりません。

 でもお母さんには大切な用事があって、一緒に行くことができないのです。


「いいですか、途中で道草をしてはいけませんよ。それからオオカミには注意なさい」

「オオカミ?」

「大昔から森に住み着いている古狼のことですよ。体長五メートルを超える巨体で、その吠え声は雷鳴のごとく、その駆ける様は稲光のごとく、という噂なの」

「そんなに恐ろしい狼がいるの。わかった、気をつけます、お母さん」

 

 赤ずきんは気を引き締めると、バスケットを携え、頭に白い頭巾をかぶりました。


「あら、今日は赤い頭巾をかぶらないの?」

「ええ、外は日差しが強そうだから」

「そうなの、じゃあ、いってらっしゃい」

「いってきまーす!」


 赤ずきんはお母さんを不安にさせないように、元気よく玄関を出て行きました。

 お母さんは白い頭巾をかぶった赤ずきんを何と呼ぶべきか、最後まで考えていました。


 おばあさんの家は、赤ずきんの家から少し離れた、森の中にありました。

 その日はとても天気が良く、森の木々も元気よくフィトンチッドを垂れ流しています。

 赤ずきんちゃんがサンバのリズムで情熱的に歩いていると、目の前に大きな影が現れました。

 八百年を生きる古狼、森の王であるオオカミです。


「こんにちは、お嬢さん。可愛い可愛いお嬢さん」

「こんにちは、オオカミさん」

 

 オオカミは精一杯恐ろしい顔で赤ずきんに話しかけましたが、赤ずきんは微動だにしません。それどころか、笑顔で挨拶を返してくる始末です。

 オオカミは内心焦っていました。こんなことは初めてだったからです。

 今まで襲ってきた人間は全て、オオカミの姿を見た時点で腰を抜かして動けなくなっていたのです。

 なぜ、赤ずきんが自分を怖がらないのかを、オオカミは考えました。

 本来、ほとんどの生物には本能的な恐怖というものが存在するはずです。

 蛇に睨まれた蛙、チーターを目の前にした若いインパラ、そしてオオカミを前にした人間達。

 ならば目の前の少女が自分を怖がらない理由は何だろうか? 命の危機を感じることすらできないほど愚鈍な人間であるからか、あるいは、彼女にとって自分が恐怖に値する存在ではないからか。

 そして、オオカミの中でその答えは出ていました。

 小刻みな震えを抑えられない自身の体が、その答えを何よりも如実に語っていたからです。

 この女は、強い(やばい)。

オオカミの本能と、八百年培ってきた経験の全てが、目の前の少女一人に対して、全力の警鐘を鳴らしているのです。

 オオカミは確信しました。この少女は必ず自分にとって障害となる、殺しておかなければならない、と。

 オオカミは恐怖に駆られながらも、その思考は冷静でした。

 おそらくここで飛びかかっても返り討ちにされるだけ、まずは情報を集めることが肝要だとわかっていたのです。

 オオカミは赤ずきんから少しでも情報を引き出そうと、話しかけます。


「お嬢さんは今からどこへ行くの? たった一人で」

「あのね、おばあさんの家よ。おばあさんがご病気だから、お見舞いに行くところなの」


 オオカミは大きな目を鋭く光らせました。

 病気の老人程度、オオカミにとっては吹けば飛ぶ程度の存在です。

 オオカミはおばあさんを人質にとることにしました。


「そうなのかい、偉いね。そのおばあさんの家というのはどこにあるんだい?」

「森のずっと奥の方よ。黄色い屋根の、素敵なおうちなの」


 黄色い屋根の家なら、オオカミも知っています。

 これで赤ずきんを倒すための要素はほとんど揃いました。

 後必要なものは時間だけです。


「お嬢さん、実はあっちにとっても素敵な花畑があるんだ。お見舞いに行くのなら、せっかくだからそこで綺麗な花でも摘んでいってはどうかな?」


 赤ずきんはオオカミの言うことをもっともだと思いました。

 お見舞いの品がケーキとウォッカだけだなんて、お母さんは何を考えているのでしょう。


「そうね、オオカミさん。あなたの言う通りだわ。私、花を摘んでくるわ」


 赤ずきんはお花畑に向かって歩き始めます。

 オオカミは勝利の笑みを堪え切れず、高笑いしながらおばあさんの家へと駆けだしました。その姿はまさしく稲光のようです。

 

 赤ずきんは花畑につくと、目当ての花を探し始めました。白い花に黄色い花、オレンジの花に紫の花。みんな風に揺れて楽しそうに踊っています。

 赤ずきんは花摘みにすっかり夢中になってしまい、気付けば随分時間が経ってしまっていました。

 

「そろそろ、いい頃かしら」


 赤ずきんは急いでおばあさんの家に向かうことにしました。

 おばあさんの家は森の少し開けたところにあります。おばあさんの家の庭は日の光が当たって暖かいので、赤ずきんは大好きでした。

 今、その庭に上半身と下半身を分断された大きなオオカミが転がっています。

 無理やり引き裂かれたかのような断面からは、真っ赤な血がどくどくと流れだしており、綺麗な庭の地面にしみ込んでいました。

 オオカミの死骸の傍らには筋骨隆々の人物が立っており、赤ずきんに気付くと優しく声をかけてきました。


「おや、まぁ赤ずきん。今日は一人で来たのかい?」

「はい、お母さんは今日大切な用事で来れないの」


 赤ずきんはおばあさんが血塗れであるにも関わらず、少しもひるみません。

 彼女にとって目の前の光景はあまりに当然なものだったのです。


「おばあさんが末端肥大症になったと聞いて、お見舞いに来たの」

「それは困ったねぇ、この体は単に鍛えたからこうなっただけなのだけど」


 おばあさんが少し腕を曲げると、赤ずきんの頭ほどもある力瘤が二の腕に現れました。

 おばあさんの足や首の太さは赤ずきんの胴体ほどもあります。

 おそらくあの筋力に物を言わせてオオカミを引きちぎったのでしょう。


「ところで赤ずきん、この駄犬はあんたのさしがねかい?」

「いいえ、それはただの死にたがりの獣よ。私はおばあさんの家の場所を教えただけ」

「そうかい、それじゃあ仕方ないね」


 おばあさんは優しく微笑んで赤ずきんを撫でました。赤ずきんの頭をそのまま包めてしまえそうな手に撫でられて、赤ずきんは少しくすぐったそうです。


「おばあさん、丸くなったわね」


 赤ずきんを撫でる手がピタリと止まりました。

 おばあさんの目が言葉の真意を確かめるようにして、赤ずきんの顔を覗き込みます。

 その場の空気が、異様に重くなりました。


「だってそうでしょう。昔のおばあさんなら、最初から私の仕業だと決めつけて、既に私を殴っているはず。なのにこの様は何?」


 おばあさんは少し目を閉じて考えると、赤ずきんをあやすような声で話します。


「赤ずきんや、それは昔のことだ。私も歳をとったんだよ。だから……」


「さっきの言葉、撤回できたら許してやる」


 おばあさんの声が急にドスの効いた声になりました。赤ずきんはその言葉の重圧だけで押しつぶされそうになりましたが、なんとか踏みとどまります。

 気迫で負けていては、喧嘩は勝てません。


「ねぇおばあさん、どうしてそんなにお腕が太いの?」

「私は撤回しろ、と言った。三度目はないぞ」

「ねぇおばあさん、どうしてそんなにお足がたくましいの?」

「……」

「ねぇおばあさん、どうしてそんなにお腹が割れているの?」


「ねぇおばあさん、どうしてそんなに楽しそうに笑っているの?」


 赤ずきんが質問を全て言い終えたとき、おばあさんの顔には凄絶な笑みが浮かんでいました。それはさきほどまでの優しい微笑みではありません。

 そこにある感情は歓喜だけでした。


「それはね」


 おばあさんの姿が赤ずきんの視界から消えました。

 同時に赤ずきんのみぞおちに騎乗槍で突き刺されたかのような激痛が走ります。


「ついにあんたを食う時が来たからさぁ!」


 激痛の正体は、おばあさんの放った渾身の抜き手でした。

 赤ずきんの腹部に指の根元まで深々と突き刺さっています。

 傷口から鮮やかな血が流れ出し、口からも吐血しました。どうやら内臓も損傷したようです。

 赤ずきんはこのまま負けてしまうのでしょうか。

 いいえ、そんなことはありません。

 赤ずきんは口を三日月の様に歪めて笑っているのです。


「おばあさん、昔よくお腹を殴ってくれてありがとう。おかげでおばあさんの突きにも耐えられるほどに強くなったわ」


 赤ずきんは口内に溜まった血を吐きだすと、身体を弓なりにのけぞらせました。

 その構えを見たおばあさんの背筋に寒気が走ります。

 不味い、何をするつもりかは知らないが、退避しなければ。

 そう考えたおばあさんは右手を赤ずきんの腹部から引き抜こうとしますが、思うようにいきません。

 赤ずきんの極限まで鍛えられた腹筋が、おばあさんの手をがっちりと捕まえて放さないのです。


「不用意に間合いに踏み込んだのは失敗だったわね、おばあさん」


 おばあさんが最後に見た光景は、自身の頭に迫ってくる孫のヘッドバットでした。



「ただいまー」

「お帰りなさい。あら、今日は白い頭巾をかぶっていかなかったかしら?」

「何で? 私は赤ずきんだよ。白い頭巾なんてかぶるはずないわ」

「それもそうね、おばあさんのご調子はどうだった?」

「強かったわ」

「えっ」


赤ずきんさんマジパねぇっす。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 強すぎです。赤ずきんさん…おばあさんを貶してる所が楽しいです。最後のお母さんの会話も良かったです!
[一言] おもしろかったです。 これは確かに、さん付けしないと、命が危ないですね。 あと、オオカミさんが哀れ(笑)
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