乙女ゲームのメインヒーローに転生したのに、誰も攻略に来ない件〜俺様王子、人気ない?〜
「今どき、俺様キャラとか無理よね」
「結婚したら、絶対にモラハラされるわ」
「強引で男らしいとかって、自分勝手で無神経ってことでしょう?」
「平気で浮気しそう。それで『妻はお前だ。なにが気に入らない?』とか言いそう」
「あー、わかる! 言いそー!」
ふと気まぐれで参加した、夜会で聞こえて来た会話だ。それが自分に関する噂話だと気づいた時、俺の信じていた世界は根底からガラガラと崩れてしまった。
えっ、俺様王子、人気ないの?
夜会の会場から、どうやって戻ったのかも覚えていない。気がつくと城の中庭で花占いをしていた。
「来る、来ない、来る、来ない……。また来ないだ! この庭には偶数の花しかないのか!」
小動物系ヒロインは、なぜ攻略に来ない! 美人の悪役令嬢は何をやっている!
自分がこの国の、王子だと自覚したのは三歳の頃だ。同時に転生者だということも思い出した。
この世界は『ロマンスを貴方と』という乙女ゲームの世界観を、忠実に形作っている。国や王都の名前からはじまって、王族や主な貴族の家名や政治形態、宗教に至るまで。
なぜそんなにも詳しいかと言うと、前世の俺がその乙女ゲームを作った会社に勤めていたからだ。開発者ではなかったが、テストプレイにも参加したし、設定資料は暗記する程度には熟読した。
「ふん。あんなモブ令嬢ごとき、俺の方こそ相手にするわけないだろう! 俺様王子の良さがわからないなんて、どこの家門の者だ!」
そもそも俺は、なぜ逃げるように帰って来てしまったんだ。これではまるで、負けたみたいじゃないか!
ゲームの中のメインヒーローである『レヴァイン王子』は、モテモテの俺様王子だった。文武両道で自信に満ち溢れ、全ての者を従えて覇道を突き進む。
実に男のロマンに満ち溢れている。乙女ゲームなのに。
ヒロインサイドから言うと、パラメーターを完璧な良妻賢母型へと成長させないと、レヴァインルートの完全攻略は出来ない仕様になっている。
レヴァインに転生したと気づいた俺は、高笑いが止まらなかった。なんせ、完璧に俺を立てる慎ましく有能な妻と、輝かしい王としての未来が待っているのだ。笑わずにはいられない。
俺はメインヒーローに恥じないよう努力を重ねた。勉強を怠らず、身体を鍛えた。『努力? 凡人のすることだな』というポーズの裏で、こっそりと泣いた日もあった。それこそ、白鳥が湖面を優雅に滑るように進む水面下で、必死に脚を動かしているみたいに。
それなのに。
学園に入学しても、一向にヒロインが現れない。それどころか、婚約者になるはずだった公爵令嬢にさえ、一度も会ったことがない。
聞くところによると、外国に留学しているらしい。父親である公爵は『来年には戻る予定です』と、五年前から言っている。
実はヒロインのことも探しに行った。
見つからなかった。母親が経営しているはずの食堂さえ見あたらない。近隣の住人によると三年前に引っ越したらしい。
どういうことだろう。実は似ているだけで、ゲームとは違う世界なのか?
「それとも、誰か他の転生者が邪魔をしているのか?」
web小説などで、脇役やモブキャラが物語を変えてしまう話もあったはずだ。
『モテモテ』の設定が機能していないのは、そのせいか?
自分で言うのも何だが、俺はかなりのイケメンだ。少し癖のある金髪、瞳は高貴なロイヤルパープル。身長も高いし細マッチョ。ヒゲも濃くない、顎も割れていない。へそ毛も生えていない。文句のつけようのないハイクオリティなイケメンだ。
「なぜ、モテない?」
もちろん、丸っ切り女が寄って来ないわけではない。それなりにキャアキャアと騒がれてはいる。だが、距離を詰めようとすると、スッと引かれるのだ。
先日、剣術の授業中に、女生徒が群がっていた。
「ふっ、全く……他の生徒の迷惑になるだろう」
最前列に、ちょっと好みのタイプがいたので、タオルを受け取り、壁ドンを披露してやった。
「俺が欲しいなら全力で来いよ。集団に紛れて、あわよくば……とか浅ましいんだよ」
耳元で囁いてやった。自慢のバリトンボイスで。
クールで最高に格好いいセリフだ。
それなのに、その女生徒はそれきり見かけていない。まあ、俺も本気じゃなかったからな。すぐに忘れた。ふん。
母上に見合いのように、令嬢とのティータイムをセッティングされたこともあったな。気位の高そうな女だった。
俺は椅子の背もたれに片腕を乗せて、長い足を見せつけるように組んで座った。女の機嫌を取ったり、会話に気を使ったりなんかしない。そんなのは女の側の仕事だろう?
その女は、しばらく自分の得意なことや、家の自慢話をしていたが、そのうちに黙った。
「それだけか? 下らないな。俺のために生きて死ね。それが国を背負う男の妻となる条件だ」
我ながら痺れるな。こんなセリフが似合う男は、他にはいないだろう。
その令嬢も、二度と王宮には来なくなった。なぜだ。
夜会で囀っていた女どもは、こんな完璧な俺様を『無理』『モラハラ』『無神経』とはどういうことだ?
前世の俺は平凡な男だった。顔も年収も身長も中の下。学歴も普通、社会的な地位もないサラリーマンだ。女性にも周囲にも、気を使いまくって生きていた。
それがどうだ? 極上のイケメン、至高の能力、最高峰の富と権力。国中の女が『抱いて!』と縋りついて、当たり前だろう。俺にはその価値がある。
ぶつぶつと愚痴りながら、花壇の花を千切っていると、キャッキャウフフと、浮ついた声が聞こえて来た。
「あら、レヴァイン兄さま」
「レヴァイン殿下、ご機嫌麗しゅう」
末の妹王女のアリステアと、その婚約者のレオンだ。まだ八歳の癖に婚約者とか……。
「ああ」
俺は鷹揚に応えて、持っていた花をポイと投げ捨てた。
「ごきげん、ななめですのね。レオ、先にティールームに行っていて下さる? 少し、お兄さまと話してから行くわ」
「はい、アリス。お茶受けは何がいい? ぼく、準備しておくよ」
「ありがとう。レモンパイが食べたいわ」
「わかった。任せて! では、レヴァイン殿下、御前失礼致します」
アリステアは神童と呼ばれている。まだ幼いが三人いる王女の中で一番厄介で生意気だ。
「ふん。お前の婚約者は、相変わらず女々しいな」
「お兄さま、何度も申し上げていますが、私のことを“お前”と呼ぶのはやめて頂けますか?」
「なぜだ? 家族を“お前”と呼ぶのは当たり前だろう?」
「当たり前なんですね? じゃあ私もお兄さまを、これから“お前”と呼びますね」
「……」
何だ? ムカッと来るな。
「ね? ムカつくでしょう? この国の価値観や慣習を鑑みると、“お前”という呼称は、見下している相手に使うのです」
「そんなことは……」
いや、あるな。俺は父上と母上を“お前”とは呼ばない。ん? そういえば、両親も最近は“お前”を使わなくなったな。
「はい。“お前”以外はみんな、説明したらわかってくれましたから」
……まじでムカつくな。それと俺の心の声と会話するなよ。
「“お前”と呼ぶことによって、見下し、自分が上だと押さえつけているんですよ」
「だが、お前は年下で妹だし……」
「お前には、年齢以外に誇れるものがないんですか? 先に生まれると何か偉いんですか? だったら動物園にいる陸亀のジョージが国で一番偉いですね。百四十歳ですから」
「……わかった。お互いの精神衛生上、お前呼びはやめよう」
「はい、お兄さま」
アリステアがにっこりと笑った。こいつ、黙って笑っていれば極上の美少女なんだよな。
……“こいつ”も突っ込まれそうだな……。
「あと、私の婚約者は女々しいではなくて、“思いやりがある”が正しい形容詞です」
ちんまい身体で胸を張って言う。
「なぜ、おま……アリステアが得意そうに言うんだ?」
「私の好きな人ですから、誇らしいですわ」
八歳なのに、好きとか言うのか。いっちょまえに。
「今なんか、失礼なこと考えましたね?」
「気のせいだ。……なあ、人を好きになるって、どういう気持ちだ?」
ちっ、幼児に何を聞いているんだ? 俺としたことが。弱気になっているのか?
「お兄さま……」
やめろ! 可哀想なものを見るような目をするな!
「はぁ……。お兄さまは“共感性”が、致命的に欠如していますからねぇ……」
きょうかん、せい……? 何だソレ?
「きょとんとしないで下さいませ……。共感性とは、“他者の感情や立場を理解し、疑似体験したかのように感じ取る能力”ですわ」
「……それは人間に必要な能力か?」
「それがあるから、人類は群を維持して進化したんですよ」
噛んで含めるように言うな。居た堪れなくなる!
「壁ドンは、脅迫行為にあたります」
「えっ、」
「浅ましいなどと言われて、喜ぶ女性はいません」
「あ、あ、何で知って……」
「下らないも、同様ですね。“俺のために生きて死ね”。それでは奴隷ではないですか……」
「おまっ、おま、アリステア……! 貴様、何者だ!」
「やっと気づきましたか? 私も転生者ですよ」
「貴様がシナリオを変えたのか! 俺のルートの邪魔を……」
「いいえ……。『王太子レヴァイン』は、昭和的な男尊女卑の部長の趣味で、ゴリ押しで作られたキャラですが、女性社員からのクレームが多くて発売前に削除されたんです」
「なん、だと……?」
もう立っていられなかった。メインヒーローだったのに、削除済みだと……? 俺は……レヴァインは……生まれる前に殺されてしまったのか……!
「レヴァインは格好いいだろう! 男の夢とロマンが……」
「だからですよ。『ロマンスを〜』は、女性向けの恋愛シミュレーションゲームです。男尊女卑のキャラがウケるわけないじゃないですか。ちなみに部長はモラハラとパワハラで地方へ飛ばされました」
「レヴァイン……パッチで復活とか、外伝で隠しキャラとかは……」
「ないです」
うっ、うう、涙が止まらない。人前で泣いたのなんて五歳の時に、馬に糞を頭に落とされた時以来だ……!
「お兄さま、元気をお出しになって。あなたは削除されていないじゃないですか」
そうだ……。絶望するのはまだ早い……。
俺がゲームキャラじゃないなら、リセットボタンがなくとも、いくらでもやり直せるはずだ!
「……そうだな……俺の伝説は、ここからだということだよな?」
「違います」
「俺は諦めない。次は“歩み寄る俺様”を目指す!」
「そんな属性ありません! なんか這い寄って来るみたいで怖い!」
「ふっ、教えてもらおうかアリステア……! 他人との、寄り添い方ってやつをさ……」
「すぐそうやって、倒置法で喋る……。だから悪役っぽいって言われるんですよ!」
そうか? 俺は格好良いと思うんだけどなぁ。
「うむ……特定の相手にだけを特別扱いして、デレデレに甘やかすのはどうだろう?」
「それはスパダリですね。一定の需要があります。ですが、婚約者が決まってからにして下さい」
「……その相手にだけ、弱みを見せるのは?」
「それはツンデレですよ」
「そう、それだ!」
「若干、時代遅れです」
「えっ、そうなのか……じゃあ、例えば……」
お兄さまったら……。ご自分が“歩み寄る”や“人の意見に耳を傾ける”が出来ていることに、気がついていないのかしら。
「よーし、俺様改革、第一章の幕開けだ! アリステア、ありがとう! これからも頼むな!」
お兄さま、わかりました……。あなたに一番合っている属性は“ポンコツ王子”です。
「次の夜会で見せてやる、“進化した俺様”をな!」
また倒置法で言ってる……。こんなお兄さまを、愛して下さるご令嬢、募集中……です……。
おしまい
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。『レヴァイン、まあ頑張れよ』『ポンコツ王子、痛かわいい』と思ってくれた方、☆やブクマでの評価・応援、よろしくお願いします。
また、作者のお話を気に入ってくれた方、こちらの連載もよろしくお願いします。
電子書籍化企画進行中
『ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ』
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