第6話 心に灯るもの
─砦の廃墟に、静かな風が吹き抜けた。
今日も、小さな戦いを終えた。
勝った。
でも、疲れた。
「……少し休もう」
司が呟き、崩れた壁の影に腰を下ろした。
レオは、少し離れた場所で見張りに立つ。
疲れていないわけではない。
それでも、誰かが気を張っていなければならなかった。
ふたりきりになった場所で、朋也が、ぽんと司の肩を叩いた。
「なあ、司」
「……なんだ」
「疲れただろ。少しぐらい、肩の力抜けよ」
司は、短く息を吐いた。
「抜いたら、どこかが崩れる気がする」
朋也は、ふっと笑った。
「そんなわけあるかよ。
お前一人で、この世界全部背負うつもりか?」
司は答えなかった。
答えたら、本当に壊れてしまいそうで。
朋也は、遠い空を見上げた。
「誰より強いくせに、ほんっと不器用だな、相変わらず」
「強いから守れる──
そんなふうに思ってるんだろ」
「でもな、たまには守らせろよ」
司は、そっと目を伏せた。
胸の奥に、何か重いものが降り積もっていくのを感じながら。
「……悪いな」
「バカ」
朋也が、軽く司の頭を小突いた。
「俺ら、そういうために一緒にいるんだろ」
「お前だけが、特別背負う必要なんかねぇよ」
「……わかってる」
司は、小さく、でも確かに呟いた。
朋也は、それで満足したように、また空を見上げた。
どこまでも青い空。
奪われるためにあるんじゃない。
誰もが、自由に見上げるためにある空。
「なあ、司」
「……なんだ」
「絶対、勝とうな」
「──ああ」
迷いのない返事だった。
ふたりの間に、静かに風が吹いた。
その風は、遠いどこかにいる、まだ見ぬ小さな光へと、そっと繋がっていった。