第3話 夜空の下で
──砲火が、夜空を裂いた。
あの町で子どもたちを保護してから、三日が経った。
司たちは今、国軍が占拠する小規模な通信拠点の奪還作戦に参加している。
この場所を落とせば、周辺地域への連絡網が繋がる。
革命軍にとって、次の作戦への要となる拠点だった。
数では、圧倒的に不利。
けれど、彼らには退く理由がなかった。
「司さん、右っす!」
レオの声が飛ぶ。
金色の髪をなびかせ、彼は雷光を纏って駆ける。
雷迅。
空気を裂き、電撃と共に超高速で突き抜ける能力。
――雷を操る、天使因子の力。
司は、一瞬の判断で剣を振り上げた。
焔刻。
自然界に宿る“火の理”を借り、内なる力として具現化する能力。
――炎を操る、天使因子の力。
その身体にも、確かに天使因子が刻まれている。
剣を走る焔が、闇を切り裂くように燃え上がった。
ふたりの“天使”の力があれば、たとえ敵が数倍いても、道をこじ開けられる。
──だが、それでも。
この世界には、力を持たない者もいる。
「ったく、また無茶すんなっての、司」
軽口を叩きながら、朋也が後方から援護に回る。
彼は、生まれつき何の能力も持たなかった。どんな因子も、焼き印も、その身には刻まれていない。
けれど、剣一本で。
知恵と経験で。
命を張って、司とレオを支え続けている。
力がなくても、戦える。
力がないからこそ、信じられるものがある。
それが、朋也だった。
だが、敵の援軍は止まらない。
泥のように重たく、戦いは続いた。
小さな勝利を、必死に掴み取りながら。
* * *
夜。
司たちは、丘の上で、静かに星空を見上げていた。
「……この星空も、誰かに奪われるなんて、馬鹿みたいだよな」
朋也が、ぽつりと呟いた。
司は、何も言わなかった。
ただ、この空の下――
まだ救われずにいる誰かを思っていた。
力の有無に関係なく。
生まれた世界がどれだけ不条理でも。
誰もが、自由に笑える世界を。
──そのために、戦う。
* * *
冷たい部屋。
錆びた空気。
少女は、拘束されたまま、かすかに目を開けた。
虚ろな瞳。
誰にも届かない、細く震える手。
それでも。
彼女は、どこかにある光を――
ただ、それだけを探していた。
見上げた天井は、
果てしなく遠かった。