第1話 革命のはじまり
──紅い光が、夜を焼いていた。
煙と血の匂い。崩れた街。
瓦礫の上で、銀髪の少女は泣きながら誰かの名を叫んでいた。
「……もう嫌だよ……
どうして……どうしてこんなことになっちゃったの……」
目の前で、炎に包まれた青年が崩れ落ちる。
肩を貫かれ、胸元は焼け焦げ、呼吸すらできていない。
少女――結衣は、震える手で彼に触れた。
手のひらから溢れる光は、癒しの力。けれどその光は、今や彼女自身をも蝕んでいた。
「……お願いです……これ以上、誰も、失いたくない……っ」
光は揺らぎ、彼の命を繋ぎとめようとする。
だが――少女の体は限界だった。
指先は血に濡れ、顔は熱と涙でぐしゃぐしゃだった。
「……もう、何もかも……やりなおしたい……」
崩れゆく街の中で、少女はただ一人、そう呟いた。
──その日、世界はひとつ、確かに崩れた。
そして、物語は“そこへ至る旅”の、静かな始まりへと戻る。
空が、やけに澄んでいる。
小さな村の廃墟。くすぶる木材と、割れたレンガ。
その中心に、三人の影が立っていた。
「……派手にやったな」
剣を肩に担いだ男が、火の残る家屋を見て苦笑する。
名は朋也。飄々(ひょうひょう)とした言動の奥に、鋭さを隠した男だ。
隣に立つのは、黒髪の青年――司。
焼け跡に立つ彼の周囲には、焦げた空気が残っている。
「……一応、成功ってことでいいっすよね?」
もう一人、金髪の少年が、冗談めかして言った。
レオ。雷の因子を宿した、快活で実直な仲間。
司は、ぽつりと答える。
「……成功だ」
それだけで、場の空気が少し緩む。
まだ小さな革命軍。
だが、確かに今日――一つの前進があった。
「次の作戦は?」
朋也が問いかける。
司は空を見上げ、淡く、真剣な声で答えた。
「“第三収容区”を狙う。
……天使の子どもたちが、まだ囚われている」
風が吹く。灰が舞う。
「天使因子を持つだけで、人は縛られ、名を奪われ、存在を管理される。
そんな世界を、壊さなきゃならない」
その声に、迷いはなかった。
レオがぽつりと呟く。
「……司さんの覚悟って、ずっと変わらないっすよね。正直、すげえなって思う」
「俺はもう、選んだからな」
そう言って、司は歩き出す。
この世界は、静かに壊れつつある。
人間と、天使。
力を持つ者と、持たぬ者。
その歪みの中で、彼らはひとつの“問い”を胸に進んでいく。
――自由とは何か。
――救いとは何か。
まだ誰も知らない、その答えを求めて。
焼け跡を背に、三人は再び歩き出した。
その先で出会う“運命”を、まだ知らぬまま――。