プロローグ
都会の喧騒の中、人々は忙しなく行き交い、無数の足音がアスファルトを鳴らしていた。夕暮れの橙色に染まった空の下、儚 昴は幼馴染の輝水 遥と共に帰路についていた。
「今日のテスト、またギリギリだったんじゃない?」
「……うっ、言わないでくれ。ほら、なんとかなるって」
「なんとかならないって。補習、また一緒になりそうだし……」
遥は呆れながらも微笑み、昴は頭を掻きながら気まずそうに笑った。
無数の人々が行き交うスクランブル交差点のど真ん中。
青信号が点灯し、歩行者が一斉に動き出した。
その時――
世界が静止した。
突然の出来事だった。
街の喧騒が消え、交差点にいた人々はピタリと動きを止める。車のエンジン音も、遠くを飛ぶ飛行機の音も、一瞬で消失していた。
「……え?」
昴は思わず立ち止まり、隣にいた遥に視線を向ける。
彼女もまた立ち尽くし、目を見開いていた。
「遥……お前、動ける?」
「……うん。でも、どういうこと?」
周囲を見渡せば、誰もが静止している。
まるで時間が止まったかのような異常な光景。
そして――
二人の足元に突如、魔法陣が浮かび上がった。
「なっ!?」
魔法陣は青白い光を放ち、複雑な紋様が幾重にも重なりながら輝きを増していく。
「昴! これ……っ!」
遥が叫ぶが、その声は光の奔流に掻き消された。
光は天へと伸び、まるで巨大な檻のように二人を包み込む。
逃げようとするが、身体が動かない。
光の壁が、二人をその場に閉じ込めていた。
「くそっ、なんなんだよこれ!」
次の瞬間、魔法陣の中心に濃密な光が降り注ぐ。
それは二人を包み込み、世界を歪ませるように揺らめいた。
「遥! 大丈夫か!?」
「わからない! でも、何か……っ!」
その言葉を最後に、二人の姿は光の中に溶けるように消えていった。
交差点の静寂の中、何事もなかったかのように風が吹く。
それを見届ける者はいなかった。
次の瞬間、魔法陣の光は掻き消えた。
そして、世界の時間は再び動き出す――。