第1話「世界を救う勇者?……いや、世界一嫌われてるんだが」
――異世界 王都 王城 謁見の間――
ある日突然まばゆい光に包まれた、そしてその光が消えたとき、俺は豪華な謁見の間に立っていた。周囲には甲冑を着た騎士やローブを纏った魔法使いがずらりと並び、中央の玉座には髭を蓄えた老人、というか王様らしき人物が鎮座している。
「ふむ……ついに来たか、勇者よ」
勇者!?
そうか、俺は異世界召喚によって、この世界の救世主となるはずの存在なのk―
「「うわぁ……」」
ん?
なぜか、その場にいた全員が俺を見た瞬間、顔をしかめている。隣の兵士なんか口をおさえながら後ずさりしてるぞ?
「ちょっ……ま、待て! 俺は勇者なんだよな!?」
「いや……そうだ。勇者なのだ。勇者だと、分かっているのだが……」
王様すら若干距離を取っている。な、何なんだこの反応!?
「シン!? まさかシンも!?なんで!?」
そんな中、俺の隣で驚いた声を上げる人物がいた。
晴天のように青い髪色をした美少女、リリエル。
俺の幼馴染だ。まさかとは思っていたが、俺と一緒にあの光に包まれ異世界に召喚されたらしい。
だがしかし、それもそうか、異性召喚前に一緒にいたのだから。
「お前こそなんでここに!? っていうか、なんでそんなに神々しい感じになってんの?」
彼女の身体は白いローブに包まれ、その背中には金色の光輪のようなものが浮かんでいる。
「リリエルは、神の言葉を聞く**神託の巫女**だ」
「神託の巫女……?」
すると、王様が立ち上がり、堂々と告げる。
「救世の巫女リリエルよ! よくぞ参られた! 貴女こそ、我らが未来を照らす光!」
「え、ええっ!? そ、そんな……勇者は俺じゃないのかよ!?」
王様は感動の面持ちでリリエルを見つめ、周囲の騎士や魔法使いたちも「巫女様……!」と涙を流しながらひれ伏している。
一方で俺は――
「……あの、それで、俺は?」
「そなたは……その……勇者だが……」
「明らかに扱い違くない!?」
なぜだ!? 俺は世界を救う勇者だぞ!?
「いや、まぁ……勇者なんだけどな……」
王様が渋々とした様子で手をかざす。
「勇者よ。その、なんだ……とりあえず我が国に仕える**《鑑定士》**により、おぬしの能力を明らかにしよう……!」
お、ついに俺の勇者としてのチート能力が明かされるのか? よし、来い……!
――ステータス表示――
【勇者】シン・アズヴェール
Lv:1
HP:1000/1000
MP:500/500
攻撃力:9999
防御力:9999
魔力:9999
速度:9999
スキル:
・《好感度変換》(好感度が低いほど強化/高いほど弱体化+ゴミスキル取得)
現在の好感度:-999%(世界最低)
《ゴミスキル(好感度補正中)》
・《精密小石投擲》(どんな状況でも的確に小石を投げられる)
「…………。」
な、何だこの地獄みたいなステータス……!?
攻撃力・防御力・魔力はカンスト級なのに、好感度はマイナス999%!?
そして、スキルに**《精密小石投擲》**って何だよ!!
「……って、ふざけんなぁぁぁぁ!!!」
俺は思わず地面に転がっていた小石を拾い、試しに投げた。
ヒュッ!
小石は超高速で飛び、王座の横にあった燭台のロウソクを正確に吹き消した。
「おおっ!?」
「す、すごい……! 確かに的確に当たってる!」
いや、そういう問題じゃねぇ!!!
「な、なんなんだこのスキルは!? 俺、魔王を倒すために召喚されたんだよな!? 小石投げてどうするんだよ!!」
「すまん……勇者よ……。そなたがあまりにも嫌われすぎているせいで、スキルが歪んでしまったのだ……」
「そんな理不尽な!!!」
一方、隣のリリエルは――
【神託の巫女】リリエル・エヴァンス
Lv:1
HP:300/300
MP:1000/1000
攻撃力:100
防御力:100
魔力:1500
速度:200
スキル:
・《神託》(神の啓示を受け、未来の出来事を知る)
・《祝福》(味方の能力を一定時間強化)
・《浄化》(呪いや状態異常を解除)
現在の好感度:+100%(国民から崇拝されている)
「……」
「「なんでこんなに差があるの!?!?」」
俺とリリエルの間に、埋められない絶望的な壁があった。
王様が眉を顰めて俺を見つめる。
「……ともかく、そなたは勇者であることには違いない。魔王討伐のために協力してもらう」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私はシンを手伝うよ!」
リリエルが俺の腕を掴んだ瞬間――
《ゴミスキルを獲得しました》
《雑草操作》
【効果】雑草を少し生やせる
「……は?」
足元に、ちょこんと生えるしょぼい草。
「いらねぇぇぇぇ!!!!!」
こうして、俺の勇者生活は絶望的なスタートを切ったのだった。
次回予告:第2話「勇者、早速小石を投げる」
・最初の討伐依頼は「スライム退治」
・勇者、魔法や剣技を封じられ、小石と雑草だけで戦うハメに!?
・巫女の力でなんとかなる……かと思いきや!?