『ワンセット』
今年最後の投稿です。
このお話は、読み切りの短編となります。
素敵なクリスマスをお過ごしください。
2024.1.4
このお話には人が亡くなる表現が含まれています。ご注意ください。
今日はレインの12歳の誕生日である。
この国では皆12歳になると近くの教会へ行き、自分の魔力量とスキルを視てもらうのだ。
それは“鑑定の儀”と呼ばれ、子供たちが待ちわびているイベントとも言える。
その結果に因って、これからの人生が決まる様なものなのだから、当然である。
レインは、父親の“ジョエル・クレイトン”に付き添われ、自宅のある王都の教会へと来ていた。
父親のジョエルは王都の騎士団に勤めている為、家族揃って王都に住んでいるのだ。
レインの家族は、父親のジョエルと母親のメライン、そして弟のサニーで4人となっている。
「次の方、クレイトンさんですね」
神父は順番に声を掛けている。
本日、誕生日を迎える12歳の子供が30人位いた様で、レインは列の後ろの方に並んでいた為、かれこれ1時間強は待っていたであろう。
「ほらレイン、行くぞ」
父親と並んで、教会の奥の部屋へと入る。ここは“鑑定の儀”専用の部屋らしく、1つの机に20cm位の水晶が台座に置かれており、後は付き添いの者の為の椅子が置いてあるだけ、という空間であった。
「お待たせいたしました。レイン君は前に来て下さい」
神父に促され、父親の隣から机の前に出る。
「この水晶に触れてもらいますが、この上に文字が浮かび上がりますので、自分でも確認する事ができますよ」
子供たちは10歳から街の学校に通い始める為、12歳ともなればそれなりに文字が読めるのである。
ニッコリと笑った神父に、レインは頷きで返す。
「では、手の平を当てて下さい。右でも左でも、好きな方で良いですよ」
レインは指示に従い右の手の平を水晶に当てた。
ポワンッとその水晶が明るくなったと思った時、その上に文字が浮かび上がる。
それを神父が読み上げて行く。
「名前は“レイン・クレイトン”であっていますね。年齢は“12歳”、性別は“男”。魔力値は60…多い方ですね。大体平均は40前後の様ですから。それからスキルは“剣術”と。お父様と同じですから、将来はお父様と同じ職業に就くのでしょうか…」
そう読み上げながら、神父のコメントも添えてくれた。
「あの…ユニークスキルは…」
レインは、どうしてそれを読み上げないのか、との問いかけであったが、神父はそうは思わなかったらしく、別の答えを告げた。
「ユニークスキルは特別なもので、滅多に現れる人はいないのですよ?だからここに書いていなくても、落ち込まなくて大丈夫です。皆と一緒だから、安心してください」
そう言って神父は、慰める様にレインの頭に手を置いたのだった。
(特別?…神父様には視えてないの?)
レインは戸惑いつつも“特別”という言葉に引っ掛かりを覚え、人に言うのはやめようと、続きの言葉をしまった。
「はい、わかりました。ありがとうございます」
レインは神父にお辞儀をする。
それを見守っていたジョエルがレインの傍まで来ると、レインの頭にポンッと手を乗せた。
「俺と同じスキルだったな、レイン」
そう言ってワシャワシャと頭を撫でた。
神父はそれを見守りつつ、声を掛ける。
「レイン君の弟は、まだ9歳でしたか?」
ジョエルがその問いに、しっかりと頷き返事をする。
「はい。あと3年したらまたお世話になります」
ジョエルとレインは頭を下げ、それではと、教会を後にしたのだった。
教会からの帰り道、レインは父親に気になった事を聞いてみる。
「ねえ父さん、“ユニークスキル”って、何?」
レインの言葉を聞いたジョエルは、笑ってそれに答える。
「さっきも聞いていたな。誰かにユニークスキルの事を聞いたのかも知れないが、それは必ずしも皆に与えられるスキルではないんだぞ?」
ジョエルはレインへ視線を向ける。
「ユニークスキルは普通のスキルと違って、この鑑定の儀を経て使える様になるものではなく、いつ現れて使える様になるのか分らない物なんだ」
「そうなの?」
「ああ。普通のスキルは…レインだったら今日からだな。鑑定の儀で自分が認識すると使えるようになるが、ユニークスキルは小さな頃に現れる者もいれば、大人になってから現れる者もいる。そして初めは、無意識に発動してしまうらしい。それに“ユニーク”というだけあって、特別なものが多いんだ」
「そうなんだ…」
「そうだぞ?例えば“付与”というユニークスキルは、人にあげる事が出来るんだ」
「何をあげるの?」
「それは自分の持っている“体力”だったり“魔力”だったりと、色々なものが出来るらしい」
「すごいね…」
「ただ、ユニークスキルを持つ者は、他人にその事を知られたくはない様で、大っぴらには使わないという事だ」
「へぇ……父さんは持ってないの?」
「ははっ。俺は持っていないな。流石にこの歳ではもう、現れないだろうしな」
そう言っているジョエルは今年37歳だ。そう言い切るには少々早い気もするが。
「もし鑑定の儀でそのユニークスキルが出たら、他の人からは視えないの?」
「あ?ああ、さっきの文字の事か。そうだな、ユニークスキルには“不可視”が掛かっていると聞くから、他の者からは視えないだろう」
「不可視……」
レインはその言葉でやっと納得する。
先程神父がレインのユニークスキルを読み上げなかったのは、その不可視によって視えなくなっていたからなのか、と。
「そんなに気になっていたのか?ユニークスキルの事が」
ジョエルから微笑まれて、レインは居心地が悪くなる。
「この前その名前を聞いて、どんなのかな?って思ってただけだよ」
「そうか。じゃあレインのスキルは“剣術”だったのだから、毎日夜は俺と剣の稽古だな」
「え~何でそうなるの?しかも毎日とか、大変だよぉ…」
「はははっそう言うなって。剣の稽古は楽しいぞ?俺は毎日、城で練習をしているんだからな」
そう言ってジョエルは、清々しい笑みをレインへ向けたのだった。
そして“ガチャリ”と扉を開けて家に入る。
「「ただいま」」
「お帰りなさい」
2人が家に帰ると、母親のメラインが笑顔を向けた。今日はレインの鑑定の儀があるので、両親とも仕事はお休みを取っていたのである。
帰ってきたレインの下へパタパタと足音を響かせ、弟のサニーが走ってきた。
「おかえり兄ちゃん、何だったの?」
ガバリとレインに抱き付いたサニーが、顔を上げてレインを仰ぎ見る。
「こらこらサニー、レインが動けないでしょう?」
メラインがサニーに、笑みを湛えながら注意する。
「動けないよぉ、サニー」
レインも笑って、サニーを自分から引きはがす。
「それで?」
レインとサニーは、両親の座るテーブル席へと腰を下ろした。
「父さんと一緒の、“剣術”だよ」
「あー、やっぱりねー」
とサニーが笑っている。
「剣術は父さんとお揃いだから、僕は父さんから剣を習う事になったよ…」
レインは眉を下げて、そう報告をする。
「ふふふ。ジョエルは強いからね。しっかり教えてもらいなさい?」
メラインはそう言ってレインにウインクする。
その言葉を受けたレインは“は~”と一つ、大きなため息を吐いたのであった。
それからレインとジョエルはジョエルの仕事終わりの夜に家の前で素振りを始め、レインは父親であるジョエルの剣筋を学び、毎日練習に努めたのであった。
そしてレインはあれから、ユニークスキルの事をすっかり忘れた日々を送っていた。
そのユニークスキルの事も名前以外、何も分からぬまま…そしてそれは突然、思い出す事となるのである。
❖❖❖❖❖
レインは15歳になり、昼間は街の学校に通い、夜は父親と剣の稽古を続けていた。
レインの剣もあれから随分と上達し、今では父親と打ち合いの稽古をしている。
そして12歳になった弟の鑑定の儀も終わり、“必中”というスキルであった事が分かると、家族皆でお祝いの食事をしたのは、つい先日の事だ。
その“必中”と言うスキルは割と珍しいもので、色々な場面で能力を発揮するスキルであり、弓士や剣士などの戦闘職は勿論の事、文官となり不正を見付け出したり天候の予測をしたり等、広く求められるスキルなのであった。
弟の未来は輝いている様で、レインは少し羨ましくも感じていた。
しかし今日、その弟の未来は突然閉ざされる事となる。
街中で貴族の馬車が暴走し、その事故に巻き込まれた弟は、帰らぬ人となってしまったのだった。
昼過ぎの学校からの帰り道、いつもは弟と2人で帰っていたのだが、今日に限ってレインは友人に誘われ、サニーは1人で帰って行きそして事故に巻き込まれた。
何で自分は一緒にいなかったのかと、レインは後悔し、そして絶望した。
泣こうが叫ぼうが、サニーはもう帰って来ない。家族は傷心し、誰一人として口を開く者は居なかった。
その上両親は、一緒に帰らなかったレインを責める事はしなかった為、余計にレインは自分を責めた。
明日は弟の葬儀になる。早く寝なければと部屋に戻されたレインは、涙をこらえ、自分さえ一緒に帰っていれば助けられたかもしれないと深く後悔を繰り返し、『明日、目が覚めたら時間が戻っていれば良いのに』と唇を噛み締めながら、赤くなった目を閉じたのであった。
翌朝いつもの時間に目が覚めたが、気持ちの整理がまだついておらず、目を瞑ったままグズグズとベッドの中で暗い考えに沈んでいたレインは、部屋の扉が開く音で我に返った。
ガチャリ
トントントンと近付いてくる軽い足音に違和感を覚え、閉じていた瞼を開くと、目の前の光景に驚愕する。
「まだ寝てたの?早く起きないと、学校に遅れるよ?」
そこに立っていたのは、昨日亡くなったはずの弟サニーだったのだ。
そしてガバリと起き上がったレインは、傍に来た弟の両腕を掴む。
「サニー!」
大袈裟な行動を取った兄に驚いたサニーは、目を瞬かせると呆れた様に言う。
「どうしたの?悪い夢でも見た?…まるで幽霊でも見たみたいだね…」
困ったような笑みを浮かべているサニーに、目頭が熱くなる。
夢でも見ているのだろうか。これが現実ならもう間違いは起こさない。そう心の中で固く誓ったレインは目元を袖で拭うと、何事も無かった様に朝の支度を始めた。
そして両親の下へ行けばそれはいつもと同じ情景で、弟が死んだ事を知っている風でもない事に戸惑う。
(では、あの事を知っているのは俺だけなのか?)
意味の解らない事に不安は残るも、確認する術を持たないレインは、そのまま弟と2人で学校へ行ったのだった。
そして今日の授業は何故か昨日習った内容と同じで、頭に“?”を浮かべつつ復習をするつもりで、授業を受けたのであった。
(もしかして、昨日を繰り返しているのか?)
そう思ったのは学校が終わった帰り際、レインの友人に“近くの川に遊びに行こう”と誘われた時だ。昨日はその誘いに乗って友人たちと遊びに行ったせいで、サニーは帰り道に一人で事故にあったのだ。
“今日こそは間違いを犯さないぞ”と、レインは友人の誘いを断り、弟のサニーと共に帰路についたのである。
2人は今日あった事を話しながら道を歩く。
いつもはこの道を真っすぐに進み家に帰るのだが、今日この先で事故があった事を知っているレインは、別の道へと弟を誘う。
「どうしてそっちなの?」
不思議そうなサニーに、レインは苦笑しながら言い訳を探す。
まさか、そっちの道を通れば死んでしまうんだ、とも言えずに。
「こっちの道に、面白そうな道具屋があるんだ」
学校から家までの間は商業地区となっている為、あちこちの道に店が並んでいる。確かこっちには道具屋があったなと、レインはその言葉を口にしたのであった。
サニーはその誘いを特に不振がることも無く、別の道へと歩き出してくれたことでレインはホッとする。
サニーのスキル“必中”は、発動させなければ特にいつもと変りないので、レインの意図に気付かれる事も無い。
「兄さん。そう言えば今朝から、兄さんの目の色が違う気がするんだけど、不具合はないの?」
レインは、焦茶色の髪に茶色の瞳で家族は皆同じ色であったのだが、今朝からレインの瞳は琥珀色になっているとの事である。
「ん?普通に見えているし、特に変なものが見える訳でもないな」
そう言ったレインは、何も知らなかったのである。
レインの持つユニークスキル『ワンセット』が発動すると、瞳の色が変わり、そのユニークスキルを一度発動させてしまえば、自分では切る事の出来ない物であるという事を…。
「そう。不調がないなら、それで良いんだけどね」
サニーがそう言った時、遠くで地響きの様な音と共に人々の悲鳴が聞こえた。
レインとサニーは顔を見合わせると、慌てて来た道を走り戻る。
そして先程通り過ぎた道の前で足を止めると、そこは大勢の人々が集まり、そこに倒れた馬車と目を剥く馬が抑えられているのが見えた。
2人は少しずつ近付いてそれを見る。
その馬車には御者と貴人が乗っていた様だが、2人共怪我をしている様ではあるものの意識はあり、他に怪我人もいない様で、レインは胸を撫でおろしたのだった。
レインがこの出来事で知っている事は、巻き込まれたのはサニー1人だけだったという事と、亡くなったのもサニー1人だけと言う事。
「怖いね…兄さんが別の道に入らなかったら、僕達も巻き込まれていたかもしれないね…」
サニーがブルリと体を震わせて、馬車を見ている。
「…そうかもな」
レインはそれ以上の言葉を見付けられず、そこから遠回りをして2人は家に帰った。
結局道具屋に行く事もせず、それはそれで道具屋の言い訳を思い付いていなかったレインが、ホッとした事は言うまでもない。
こうして弟の死を回避したレインは喜び、この特別な出来事は自分の持つユニークスキル“ワンセット”の効果なのであろうという事に思い至る。
だがこの“2日で1日のワンセット”という効果に因って、これから始まる人生を倍生きる事になろうとは、思いもよらないレインなのであった。
後に彼は言った。
『この“ワンセット”のせいで同じ日が2度訪れ大変ではあるが、俺は今でも弟の事でこのスキルを発動させた事を後悔してはいない。あの時“ワンセット”がなければ弟は、今こうして元気に暮らしていなかったのだからな』と。
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これからもお付き合いの程、よろしくお願いいたします。