二のゆめ ニトハヤド
今回のゆめは、とあるカフェバーで酔いつぶれている話です。
カロゥ カロゥ
グラスに入った酒にプカりと浮かんでいる丸い氷たちを片手でふれふれと揺らして音を鳴らし、ふぅ。と一息する。
此処は、ぼれだけが知ってる秘密のカフェバー。店の名は二十八宿と書いてニトハヤド。
店内は半円の空間で、全体的に和風モダンでレトロな内装で墨色で統一、差し色に抹茶色等をちりばめてある。
店内には魚たちが漂い、床付近にはナマズ系の魚たちや薄紫色のナマコらがのっぺりとくつろぎ、その上には色んな金魚と熱帯魚の混血種がウェディングブーケのような尾びれを揺らしながら踊っている。
それだけでもずっと見ていられるほど十分綺麗だが、そんな魚たちをも超えて目に飛び込むんでくるものがある。カウンターの後ろにある大きく丸い窓の奥に広がる深い森の海の中に寂しく佇む苔むした小さな祠。その窓の中の緑色の幻想には二十八種類の生き物たちが祠を守るように暮らしており、店内の人々の目線が気付けば見惚れているであろう。まぁ、誰も店内には居ないけど。
そんな幻想を眺めながら、カウンターの足元に沢山の青色の硝子玉が転がってる中、一人孤独に呑んでいる男は天星瑠璃。見た目はスラっとしているがしっかりと筋肉がついており、少し巻かれた碧く艶めく瑠璃色の髪は、まるで深くに何があるかが見えない海のようにも見えなくは無い。
彼がチビりチビりと嗜んでいるのは珈琲芋焼酎。珈琲豆を芋焼酎に浸して造るお酒だ。ちなみに彼の手造りで、品名は藍鼴龍。ラムエンリョウと読む。
それをチビりと一口、舌の上で海のさざなみのように転がしながら空気を少しだけ送りこむ。そうして香りが立ち鼻から吹き抜ける。この香りを楽しむのがいい。
で、この天星瑠璃。なぜ一人で酒を呑んでいるかって?この馬に鹿は自分に深く根付いた思い出をツマミに瑠璃お手製の珈琲焼酎を呑んだくれて黄昏ていますナウなのだ。
友達は居るけど遊ばない一匹狼なもんで、誰かと酒を交わすなんてことは滅多にしないし、ここだと誰かが来るってことは絶対に起こらないからな。宅飲みみたいなもんよ。まぁ喚ぶことは出来るけど今はいいや。
「おでェん、なんでそっちに居るんだよぉ、そっちのふぃいっしゅとイチャついてないでぇよぉ?ぼれによしよしよしさせやがれぇええ」と店内の魚たちと戯れてるはペットの浮いているハリセンボン、おでんにだる絡みし始める。
こいつはぼれが独りを感じて街中を歩いていたとき。路地裏だっけかな?でポツンと一匹で居たところをぼれが近づいてみたらぼれの手にすりすりとしたり、髪の毛の間をわさわさしたりしてじゃれついてきたから「ぼれと一緒に来るか?」と誘ってみたらついてきた。てなことで飼うことになり、現在までずっと一緒にいる相棒みたいなやつ。
基本的にはいつも近くをふよふよと浮いているが、この店に来ると店内にいる金魚たちからモテモテになってまるで花火を打ち上げたあとのキラキラのように戯れている。たまにその光景を眺めながらツマミにすることもしばしば。
「はぁ~あ。おでんも構ってくれないし、これからどうしようかなぁ。誰も起きてないだろうしなぁ。もういいや!ふて寝してやる!おでェん!おめぇあも寝やがれってんだぃ!まだ遊ぉんでてもいいから!おやすみ!すやぁ!」と捨て台詞みたいなことを吐き捨てると、瑠璃はバタンと突っ伏してそのままカウンターで寝てしまった。
そんな飼い主におでんはやれやれみたいな動きをする。じっと瑠璃を見つめて、ふわりと瑠璃を浮かせてソファーに降ろす。そして、遊んでいたお魚ちゃんたちを呼んで、ぐっすりと寝てる瑠璃の周り一緒に泳ぎ始めた。
その泳ぐ様は、まるでちらちらと、キラキラと輝く美しい帳が降りているようだ。はたから見ればそれは瑠璃を護るように泳いでるようにも感じるだろう。
そんなことも知らずにぐっすりと寝ている彼は今晩も夢へと堕ちていくのだろう。
夢の中で居なくなってしまった彼女を探しに。
ゆめか、うつつか。