男
なんとなく
男の名をとりあえず権兵衛とする。
権兵衛は怒り怒り、その手に持つ刀でクラムボンを殺した。クラムボンとはクラムボンでありぷかぷかとするクラムボンでしかない。
権兵衛は常に正気である。正気である権兵衛はクラムボンを殺した嬉しさのあまり焚き火の周りをホレホレと踊った。権兵衛は東方ホレホレ流舞踊の師範代である。
ここであらかじめ断言しておくと、そのような踊りは存在しない。全て権兵衛の妄想の産物である。実際は権兵衛は地元の踊りを下手に踊ったにすぎない。
権兵衛が人生をドブに捨てている最中、叢からガサガサと揺れる音が聞こえてきた。恐らくなんらかの獣である。ここいらに棲む獣は人喰いイタチのみである。(人喰いイタチ、熊をも食い殺すと名高い凶暴で野蛮なイタチ。人を度々食す。地域によっては好んで人を食べる種もいる。)
権兵衛は音に気づかなかったようで、まだホレホレとしている。ホレホレホレホレ、と。
ホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレ、と。
ホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレホレ、と。
権兵衛のあまりの所業、その正気の末の踊り、そしてあまりのくだらなさに人喰いイタチは呆れ果てた末、唾棄し、こいしを権兵衛に放って、去って行った。去り際に人喰いイタチはこう詠んだ。
権兵衛の肉は欲しいが皮はいらん触っちまえば手が腐っちまう (字余り)
良い踊りを踊ったと満足気に頷いて、権兵衛は焚き火の火を消し、眠りについた。
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