サイトウ負傷
部屋の窓が開いていて、白いカーテンが揺れていた。
辻斬りなどに襲われなければ、仕事終わりの一杯に、日本酒を飲みながら家で刀の手入れでもしている時間であった。
固いベッドの上で暗闇に目が慣れていき、天井がはっきりと見える。私は天井を見つめながら、辻斬りの男や、助けてくれた看護師のことを考えていた。しかし私の考えは、室内に入ってくる緩やかな風に流されていった。
次の日、私は高熱を出した。それから三日間、熱にうなされて病院から一歩も出られなかった。
目が覚めると部屋には陽光が差し込んでいた。太陽が木々の小さな葉を照らしていた。そんな静けさのなかで青い葉がキラキラと輝いていた。一瞬、我が家に戻ったのかと思い、横たわったままのびをした。右腕に痛みが走り、そちらに目を走らせると、白い包帯がされたままであった。それを見てここがどこか思い出した。
部屋のそとからゴム底の靴の足音が聞こえてくる。部屋にはいってきたのは、私を助けてくれた看護師であった。明るい光のなかで見ると、彼女の肌はより白く若々しく見えた。
「おはよう」と彼女は言った。「よく眠れました?」
「ええ、もうぐっすり。いろいろありがとう」そう言って、私はベッドから立ち上がったが、立ちくらみがきて少しよろけた。
「危ない」彼女は私の体を支えた。彼女の美しい細い指が私の胸を押さえていた。と思うと、桃のような甘い香りがした。
「安静に、無理しちゃダメよ」
私は彼女に支えられながら、ベッドに腰を下ろした。私の顔は熱くなっていた。
部屋の入り口で有馬がニヤニヤと笑っていた。
「お取り込み中のところ悪いね。おや、これはヒサタケのお姉さん、コズエさんじゃないか。お久しぶりです」
「ええ!」と私は驚きの声をあげた。
ヒサタケと私は家が近くで、昔よく遊んでいた。彼は士官学校をでると、キョウトで外交の仕事についた。
「邪魔でしたかね」有馬はわざとらしく自分の頭を撫でながら言った。
「いえ、そんなことはないですよ」彼女は笑顔を作り「サイトウさん、お大事に」と言った。私は無言で頷いた。彼女は部屋をでていった。
「惚れたな」
「バ、バカなこと言ってんじゃないよ」私は言った。
有馬は部屋を見渡して、近くにあった小さな椅子に座った。
「しかし、まあ51期の次席が派手にやられたもんだね」
「油断したよ」
「手練れか?」
「ああ、剣に迷いがなく速い。あれは人を殺してきた剣だ。それに鎖帷子なんて着てやがるんだから」
「よく生きていたな。死ぬかと思ったろ?」
「思ったね」
「そういや、さっき桐野大佐がいたぜ」
「なにをしていたのだろう?」
「さあ、関わると面倒だから俺は隠れるようにしてここへ来たよ。あの人は苦手だな」
「それは俺もだよ」そう言って、我々は大声で笑った。
そよ風が窓から香木の香りを運んできた。嵐がすぎ、私のなかに静寂が戻ってきたようであった。




