【雇用№79】薬儒の森 熊との対決 決行編2
「Ugaaaaaaaaa・・・・・」
「ドガン、コン、ゴン」
一番大きなボス魔熊が咆哮を上げて立ち上がった。熊の上に覆いかぶさっていた、土の矢、木、そして、なくなった仲間の熊の死体、石を全て跳ねのけたのだ。
これはちょっと想定外の想定外ですよ。まさか瀕死の状態にもなってもなく、五体満足だとは…………。こちらとしては、全力で魔法を使い、物理の全力を出したのに。
冷気で行動の制限を奪ったうえに、眠ったのを確認した完全奇襲の攻撃だったのに。何も効いていないのか?
日本足で立ち上がった熊は、穴の1/3程の高さである。約3mとは恐れ入るわ。そして、僕達を敵として認識したようだ。熊の目が仲間を殺された怒りで満ちている。こうなっては話し合いも何もない。降伏しても無駄だろう。
ボス熊は壁を爪を使って穴を登ろうとしてくる。でも、そこは、垂直10mの落とし穴である、そんなに簡単に登れるわけはないんだ。 『ガシッ、ガシッ』と壁に爪を打ち続ける音が響いてくる。そのうち、『ぼろっ』『ぼろっ』という崩れた岩が落ちる音がしてくる。
もしかしたら、垂直の穴を破壊して、スロープ状にしてくる気かもしれない。僕は必死になって考えた。あれだけの物理攻撃で尚五体満足の熊をどうやって倒せるのか?どうやったら、逃げられるのか考えた。精霊樹の苗の件は、もうひとまず横に置いておく。倒せるか倒せないかで、僕達の今後の生死が決まってしまうんだ。
ここまでくると打てる手は全て打たなければならない。僕はチルが残していたマジックポーションを全て飲んだ。もう、敵として認識されてしまった。やつも僕の匂いを覚えただろう。
仮に逃げたとしても、遠くない将来に追いつかれてしまう。その時は、おそらく町で襲われるだろう。デーモンクラスですら、あたふたしている町なのに、それさえも上回る力の熊が相手ではどうにもならない。
多くの人が巻き添えになって死んでしまうだろう。そこにはウェルザさんやモニカちゃん、セバリンさんもいる。大切な家族に迷惑をかけるわけにはいかない。僕は奴と戦う覚悟を決めた。やつに負けないため僕も大きな声で咆哮を上げる。ティタニアは煩いのか耳を塞いでいる。
「ぐわ~~~~~~~、この熊野郎、僕が相手だ。かかってこい!!」
「ぷぎゅ~~~~ぷぎゅぷぎゅぷぎゅぷぎゅ~~~~」
猪のボスも声を負けじと上げた。ここが正念場である。もう格上相手に喧嘩を売ってしまったのだ。ボスだって、もう戦闘は避けられないと踏んだのだろう。
その奇声が耳障りだったのか、ボス熊は近くのさっき僕達が投げつけた石や木材を持って投げつけてくる。「ドスん」「ガツン」という音がする。命中率はそんなに高くはないが、いかんせん僕たちは当たってしまうと一発でゲームオーバーだ。
「ボス悪い。囮になってもらえるか。僕はやつの背面からあるスキルを使う。それは確実に効くはずだ。それが決まれば、僕と二人で特攻して、止めを刺す。いいか!」
「ぶぎゅ」『ドンッ』
と足を踏みしめて返事をした。
『ヨシ頼んだ、雄たけびをあげてやつの気を引いてくれ。』
「ぷぎゅ~~~~ぷぎゅぷぎゅぷぎゅぷぎゅ~~~~」
とボス猪が間をあけて何度も雄たけびを上げる。ボス熊は声のする方に向けて手当たり次第に投げてくる。
僕は、流れ弾に当たらないように注意しながら、穴を大きく回って、後ろに回る。魔女の一撃は後4回は使える。今回使っても1匹だけなら、呪いが発動することはない。僕はボス熊を背面から見定め『スキル:魔女の一撃』を発動させた。
「UgaaaUgaaaUgaaaaaaaaa…………」
ボス熊の苦しい声が暗い森の中に響き渡る。ボス熊はあまりの痛みに2足歩行が出来なくなり横に倒れた。
『ドスんっ』
「よしっ、効いた」
僕はガッツポーズをした。正直これが効かなかったら打つ手がない。残りの頼みの綱は、精霊樹の長刀とマジックプログラミングの魔法のみ。
しかし、ボス熊は痛みに耐えかねて手や足を振り回していた。嘘だろ。効いたは効いたけど、これまでと効果が違う。痛みで動いているやつは初めてである。ここで止めをささないと、本当にやばいが、あの暴風雨なようなボス熊の近くに行って、接近戦をする気はない。
しかし、時間が経てば経つほど相手に有利になっていくだろう。所詮きっくり腰である。時間が経てば症状は引くし、痛みを我慢して動こうと思えば動けるのだ。
くっそ~~~。仕方ないこうなったら、効果あるかわからないが、『魔女の一撃』の重ねがけだ。
『魔女の一撃』
「UgaaaUgaaaUgaaaaaaaaa・・・・・」
『魔女の一撃』
「UgaaaUgaaaUgaaaaaaaaa・・・・・」
『魔女の一撃』
「UgaaaUgaaaUgaaaaaaaaa・・・・・」
これ以上は、回数の確認をしてないから、発動するのは躊躇われる。
段々と、熊の動きが小さくなってきた。小さく痙攣しているのがわかる。どうやら重ね掛けは可能なようだ。ふぅ~~っと息をついている暇はない。いつ元に戻って反撃してくるかわからない。倒せるタイミングで確実に倒す。
最後の一手は、熊の防御力を突破する力が必要である。魔獣に特高効果のある精霊樹の長刀ならおそらくは攻撃が届くが、如何せんあの図体である。正直僕の非力な力でどこまで致命傷を与えられるのかわからない。少なくとも分厚い胸板で覆われた心臓を狙うのは厳しいだろう。助走をつけての突撃でどうにかするしかない。ボスに手伝ってもらっての特攻を行う。
『ボスこっちに来てくれ』
『ぶぎゅ~~~』
返事をして、猛全とダッシュして反対側に来る。
「ティタニア、ここに青ポーションを3つ置いて置く。もし僕達が動けなくなったら、それをかけて欲しい。難しかったら、チルとウリを呼んでくれ。僕達は必ずあいつを倒す」
「行くぞ、ボス」
『ぶぎゅ~~~』
『疾走』
『疾走』
『疾走』
『疾走』
『疾走』
疾走の5段重ねをボスに掛ける。さらに熊までの道のりは『アースコントロール』でスロープを作ってある。丁度やつのどてっつ腹がこちらに向いている。いまなら突撃すれば奴の心臓を撃ち抜ける。あ~こういう時に弓矢があれば、遠隔で出来るのにって、そもそも弓矢程度では刺さらないか。
さらに奴が身動きを取れないように。『ウォーター・アースネット』を数回かけて、動けないようにする。これで動けないはずだ。ぎっくり腰になる前なら、簡単に振りほどかれるであろう粘着糸も今はほどけまい。
っと、かけた所でふと気づいた。あれっ?もしかして、物理で止めささなくてもいいんじゃね。
「ボス、悪い。ちょっと待って」
『ぶぎゅっ?』
『アースホール』
ボス熊のだけ入るように穴を開けた。そして、『ウォーター・アースネット』をボール状にして、動かずに口を開けている熊の口の中に放り込んだ。
『ミネラルウォーター』
をさらにガンガンに穴の中に放り込んで行った。穴の中は水が溜まっている。ひたひたの状態である。そして、そこから、ボス熊の水泡がぷくぷくと上がってくる。徐々に収まって、やがて水泡は出なくなった。
「よし、魔熊討伐完了だ~~~!!!」
「ぷぎゅ~~~~~」
「いや、リュウ。あんだけ恰好つけておいて、あの終わり方はないんじゃない?恰好いいと思ってたのに。最後はドン引きよ。まさか水責めの窒息死なんて…………」
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