【雇用№73】薬儒の森 中層3 猪たちとの和解
気落ちしたのを持ち直して、僕らは敵対関係ではなくなったので、『浮遊』を解除し地面に降りた。
大猪が『ぷぎゅぷぎゅ』鳴きながら、他の猪たちに僕たちのことを説明してくれたので、戦闘は完全になくなった。それでも戦闘した事実は変わらず、僕たちは猪たちを傷つけてしまったので、最低限体調が戻るように、近くにある薬草を摘み、即興でポーションを作成し、傷ついた猪たちに飲ませてあげた。色々と使った魔法の効果はチルに頼んで解除してもらっている。
一番解除が大変だったのが、木と木の間に張った蜘蛛の巣状の魔法だ。猪が空中に浮いているので、解除するとそのまま落下してしまうんだ。土ブロックを生成し足場を作って、ブロックの上面を柔らかくしてから、解除し安全に猪を助けた。
傷が治ると、猪たちは感謝の印なのかぷぎゅぷぎゅ』鳴きながら、首をこすりつけてきた。
いや~こうしてみると、家猫みたいで可愛いかもしれないな。
全部の猪の治療が終わって、僕たちは先へ進もうとすると大猪が
『ぷぎゅぷぎゅ~~~ぷぎゅぷぎゅ~~~ぷぎゅぷぎゅ』
と鳴いてきた。何かを伝えようとしているのだが、さっぱりわからない、翻訳家の先生に視線を送った。
【私達から攻撃をしたのに、殺しもせず。また傷ついた私達を治療してもらってありがとう。この恩を私共は是非お返ししたい。うちでそれなりではありますが、おもてなしをしたいので、是非うちに寄って行って下さい。】
と言ってるわ。ティタニアさんが通訳してくれた。お仕事しているティタニアさんってかっこいいです。
「あ~お誘いありがとう。でも、僕たちは先を急いでおりますので、お心遣いは大変嬉しいですが今回は辞退させて頂きます。」
『ぷぎゅぷぎゅ~~~ぷぎゅぷぎゅ~~~ぷぎゅぷぎゅ』
【そんなことをおっしゃらずに、このようなことをしでかし、助けてもらったのに、何もせずに帰してしまったら、妻に叱られてしまいます。どうか私を助けると思って。あと、どちらに向かうつもりでしょうか。】
これまでの経緯を簡単に大猪に説明する。
『ぷぎゅぷぎゅ~~~ぷぎゅぷぎゅ~~~ぷぎゅぷぎゅ』
【そうでしたか。そこは元々は我らが住んでおり、守護していた場所であります。今は別のものが襲撃してきたので、こっちの洞窟に避難しているのです。恩人をそんな危険に行かせるわけには行きません。行くのであれば、私もお供しましょう。】
「リュウ。こう言っていることだし、お言葉に甘えましょうよ。お昼も食べずに通訳ばっかりしてたら、喉が渇いてきたわ。もう連れて行ってもらいましょう。森を知っている人?に案内してもらった方が安全よ。一応この一帯のボスのようだし」
「そうだね。このまま話しているよりかは、お邪魔してご飯食べてさっくり出かけた方がいいね。通り道でもあるから」
「では、大猪さん。お言葉に甘えてお願いしますね。」
『ぷぎゅぷぎゅ~~』
そうして僕たちは、大猪を先頭に他の猪に囲まれながら、彼らの住み家である洞窟まで足を運んだのであった。道中はボスが歩いているためか何事もなく進んだ。
着くとそこには大きな猪2匹と、小さい猪10匹ほどがいて枯草の上で寝転がっていた。こっちを見て、警戒しようとするところ、大猪が『ぷぎゅぷぎゅ~~』と鳴いて、敵意がないことを知らせ、臨戦態勢にはならなかった。
その後は、大猪が洞窟にいた猪たちと『ぷぎゅぷぎゅ~~』と話している。ティタニアは疲れているのリヤカーの上で寝転がっている。久しぶりに仕事をしたと思ったら、もうダレている。こいつ、こっちが本性だな。
話し合いが終わったと思ったら、ピンクがかった猪が洞窟の奥より、果物をいくつか持て来てくれた。どうやら僕達に食べてくれということらしい。
僕達はせっかくなのでそこで果物を食べながら、ちょっと遅い昼食を食べた。僕達の食べているお弁当が珍しいのか、子猪がやってきて、『ぷぎゅ』『ぷぎゅ』って鳴きながら首を傾げている。
いやなにこれ、めっちゃ可愛いんだけど、毛並みもふわふわだし、これが噂のもふもふってやつなのなだろうか。もうね、僕も可愛いものに目がないので、おそるおそる手をのばし、子猪も後ずさりしなかったので、そのまま撫でた。
うわなにこの触り心地。すんごくいいんだけど。ふわっふわっもふっもふっ。思わず子猪のお腹にほおずりしたくなってきてしまった。大猪の時は何も思わなかったのに、子猪おそるべし。動物の子供とはなんと保護欲をそそられて可愛いものよ。
ちょっと可愛くなってきたので、お弁当を少し上げたら、おそるおそる口を近づけ『パクッ』と食べた。美味しかったのか。顔を上にあげて、僕を一瞬見つけてから、残りを凄い勢いで食べだした。なくなると『ぷぎゅ~~~~~~ん』って、可愛らしい声で鳴いた。
それをみたピンクの猪が『ぴぎゅっ』っと、ピリピリした雰囲気をまとい乍)なが)ら鳴いた。どうもお客さんとして歓待しているのに、お客様のご飯を所望するとは何事ですか?と叱っていたようだ。
ピンク色の猪は案内してくれた大猪の奥さんだったようだ。確かに子供相手にこの勢いなら、さっきの不始末を、なんのお返しもせずに帰したとあっては、こっぴどく叱られただろう。しかも、大勢の猪がいる前で。群れの長としては、そんな醜態は晒せないだろう。
大猪を見ると、『分かってくれた』かとばかりに首を縦に振っていた。男は人も動物も関係ないんだな。女の尻にしかれる運命なのかと思ってしまったよ。愛ちゃんも、しっかりと道理に合わないことをしたら言ってくるので、大猪の奥さん以上に怖いかもしれないな。
でも、叱ってもらえると、あ~大切にされているんだなって感じるんだよね。いや、僕はMでもまぞでもないからね。至ってノーマルな男だよ。
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