【雇用№68】精霊樹の苗木準備編 薬儒の森への出発
「チル準備は出来たかい?」
「リュウ兄ちゃん。もうちょっと待って、あと、干し肉とフレッシュハーブティーを入れるから。」
フレッシュハーブティーなら、薬儒の森でそのまま現地に生えているものを採取して、そのまま『ポーションクリエイト』で作れば、ポーションは飲み放題なんだが……。
チルが考えて準備しているんだ。そこは尊重してそっとしておこう。無理に突っ込んでやる気をそぐ必要もないや。魔法って便利だね。一番旅で大変なのが飲み水の確保だ。これが一番かさばると言っていい。人間は1日2リットルほどの水を必要とする。
ということはだ、旅に行くときは人数×2リットル×日数の水を運んでいく必要がある。でもこの水は飲料水であって、お皿を洗ったり、身体を洗ったり、拭いたりするものではないんだよね。砂漠とかだとその分の水もいるから、大量の水が必要になるんだ。
一応僕は今回の精霊樹の件は、当初は3泊4日を想定していたが、『空飛ぶリヤカー』が完成しているため、1泊2日ぐらいを想定している。
何事にもイレギュラーはつきものなので、+2泊分の保存食は携帯してある。本来は、16リットルもの水を運ぶ必要があったけど、その量の水を運ぶのはかなり厳しい。リヤカー引きながらでも行けなくはないが、どうしても進みが遅くなってしまうんだ。
魔法なら水が作り放題だし(魔力があれば)、僕たちはこの日に向けて、魔力を増強しているからチルでも20回くらいはミネラルウォーターの魔法を唱えられることができるんだ。なので飲み水は、水筒に一本分だけ用意してある。これなら、なくなったら水筒に水を補充すれば、飲みたい分だけ飲めるからね。
「僕の方は準備終わっているから、用意出来たら声かけてね。」
「は~~い」
「ウェルザさん、セバリンさん、モニカちゃん、1,2日もしかしたら、もっとかかるかもしれませんがその間、ドラゴンズハーブ農園は宜しくお願いしますね。何かイレギュラーがありましたら、その時の皆さんの判断で対応してもらえればと思います。事後報告で構いませんので。」
「リュウさん、任せて下さい。このウェルザ、リュウさんのためにしっかりと農園管理させて頂きますわ。こちらのことはご心配なく。リュウさんとチルさんの方が危ないとこに行きますからくれぐれも無茶しないでくださいね。危なくなったら、自分の命を優先で逃げるんですよ。」
「リュウさん。ほっほっほっ。このセバリン、奥様とお嬢様の二人をしっかりとお守りし、農園管理をしておきますぞ。それとリヤカーの帆船タイプも、ある程度量産出来そうな形状が定まってまいりましたので、木工職人さんと相談して販売できるか検討してみますぞ。」
そうなんだ。この『空飛ぶリヤカー』は、僕のオリジナル魔法がなくても実は快適になっているんだ。
もともとあった風の魔法をリヤカーの帆船に向けて放ってやれば、威力は微々たるものの、早さが増して進みがよくなる。それに普段吹いている風でも、風を受けることによって進みやすくなるから、わりと普及が広まっている。
セバリンさんが市場で作成した帆船タイプのリヤカーを慣らし運転してた時(空は飛んでないです)に、それを見た商人たちがこぞって、セバリンさんを質問攻めにしたんだって。これがあることで、生き物である馬や牛などの荷物を運ぶ者たちの連れて行く数を減らしたり、負担を減らせるからだそうだ。
この世界はまだまだ現代の地球みたいに運送コストが低いわけではない、モンスターや山賊などがいる道を馬を連れ、護衛を引き連れて、何日もかけて運送しているんだ。その分1回あたりの売上は莫大ではあるが、失敗した時の損失もでかい。ハイリスクハイリターンであるわけだ。
そこに来てこの帆船タイプのリヤカーなら、1回当たりのコストを引き下げることが出来る。道中荷物を運ぶための動物を1匹減らせれば、その運搬にかかる日数分の水と食料を減らせることができる。そして進む速度が上がれば、日数を短縮することができ、護衛費用や食料などの運搬物を減らすことができるんだ。
「ええ、そちらの方もお願いしますよ。セバリンさん。まさか帆船タイプのリヤカーがあそこまで需要が高いとは思ってもみませんでしたし。もしかして、セバリンさんこれを狙って市場で慣らし運転してました。」
「ほっほっほっ。たまたまでございますよ。リュウさん。この活気的なリヤカーを見たら、どのような反応をするか楽しみではありましたが。」
「はっはっはっ」
食えないセバリンさんである。おそらく高い需要があると思ってやったんだろう。僕だと空を飛ばないリヤカーなんて、何の意味があるかわからないのでこっそりしてたのに。現地の人の需要の高さは現地の人が良く知っているようだね。
「リュウお兄ちゃん。モニカもちゃんと薬草さんのお世話頑張るよ。お兄ちゃんも頑張ってね。ティタニアちゃんやチルお姉ちゃんを守ってね。あとこれ、みんなが無事に戻ってくるように作ったんだよ。」
モニカちゃんが、薬草農園で咲いているお花で編んだお花の首飾りを渡してきた。それと、ティタニアの大好きなお花を一輪。
「ありがと、モニカちゃん。大切にもらっておくね」
「モニカちゃん。ありがとう。私の大好きなお花まで。しばらく会えないのが寂しいわね」
と言って、ティタニアは、モニカちゃんの顔に抱き着いていた。この数日で、ティタニアとモニカちゃんはすごく仲良くなって、一緒に水やりしたり、お花の世話をしていたんだ。
「リュウさん。薬儒の森のモンスターの情報はバッチリ頭に入っておりますかな。」
「ええ、セバリンさん、バッチリ頭に叩き込んでありますよ。魔熊の足跡を見つけたら、要警戒して進みます。それにこの数日、セバリンさんに近接戦闘を鍛えられていますからね」
そうなんだ。セバリンさん、近接の戦闘もそこそこできるんだ。Dランクのモンスター(魔猪)とかは難しいんだけど、ナイフや槍、剣の基本的な動かし方や戦い方を知ってて、戦闘できるようだった。強さはないけど、戦闘技術がすごく高いんだ。倒せないけど、倒されもしないみたいな。
僕とチルもこの数日何度かセバリンさんと手合わせはしているけど、一回も身体に当てることが出来なかった。それでもこの数日で僕たちの近接戦闘の技量は上昇した。クマや猪などの猛獣相手だとそうはいかないけど、人型の相手ならそこそこ戦えると思うんだ。だって、技量だけみれば、ガンツさんよりセバリンさんの方が上の気がするし。
「リュウ兄ちゃん。準備終わったよ。いつでも大丈夫だよ。」
「よし、チル、ティタニア。精霊樹の苗木を植えに薬儒の森へ行くぞ」
「「おお~~」」
「では行ってきますね」
「「「いってらっっしゃ~~い。お土産の魔猪楽しみにしてます」」」
うん、なんとも気が抜ける出発になってしまったよ。3人とも、魔猪のお肉の虜になってしまったようだ。ポーションの緊急納品から1週間、魔猪の肉の在庫がなくなって、全然食べてなかったからな。
高級品の肉を一度味わってしまうと、それまで食べて美味しいと感じていたお肉でさえ、物足りなくなってしまうようだ。腹ぺこな従業員たちを満足させるために、魔猪も帰りに狩ってきましょうかね。さっ、未知なる薬儒の森の奥に向けて出発だ~
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