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負けヒロインは助けたい! ~勝ちヒロインの王女が婚約破棄の危機!? 私が『魔導具』を駆使して救ってみせます!~  作者: 暁明音


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62~63  エリカの思い出


    62



「――ライール?!」


 バーラントが珍しく大袈裟なくらい驚く。アルメリアも驚いていたが、嬉しそうな顔をしていた。


「心配させてすまない」

「お前……! やっぱりな!」


 嬉しそうに、バーラントがライールの元に駆け寄る。そして、肩をポンポンと打った。


「不死身のお前が、そう簡単にくたばるわけないよな!」

「不死身かどうかは知らんが、簡単にくたばらないのは、お前の言う通りだ」

「――機動隊は?」


「もう来ている。周辺を固めて、下水にいそうなネズミを一匹、収容しておいた。もう一匹、小屋の周りをウロウロしていたのがいたから、しっかり捕まえておいたぞ」


「さすがだな」


「そこにおられる姫騎士と、勇敢なる侍女様のお陰だ。――このベネノアに潜伏している連中は全員、監視を付けてある。各町や国に潜伏している主要な連中も、じきに逮捕されるだろう」


「それじゃあ、例の名簿を見つけたのか?」


「見つけたというか、エリカが持っていたというか…… まぁ、その話はまた今度でいい。今はとにかく、エリカを助けるのが先決だ」


「どこに連れて行かれたのか、見当も付かないぞ?」


「奴らの馬車が複数台、騎士団の施設から南方へ向かって走っていったのは見た。だから、南方にアジトがあるのかもしれん」


「正確には分からないってことか。まぁ仕方ないか……」

「それよりバーラント、資金源の目星は付いたのか?」


「あ、ああ。そうだった……」と言って、バーラントが鞄をあさって、紙を一枚取り出した。

「これを見てくれ」


「――なるほど、アル・ファームから入金されていたことは間違いないわけか」

「金の流れの一部が抑えられたら、後はその流れを辿(たど)っていくだけだ」


 そう言って、バーラントがアルメリアを見やった。


「あの…… 何か?」

「君には少し、辛い事実になると思うが…… 大丈夫かい?」

「この()(およ)んで、引くつもりはありません」


 バーラントが微笑んで返す。そして、ライールへ視線を戻した。


「アル・ファーム王家に仕えている、儀典官の後援会…… ここから金を流してきていたようだ」

「つまり、儀典官が?」

「ああ。他にも雑多なのはいるみたいだが、一番の大口はここだ。額が文字通り違う」

「どうやって金を持ち込んだんだろうな?」

「おそらく、発掘調査を隠れ(みの)にしたのでしょう」


 アルメリアが言った。それで、二人の男が彼女を見やった。


「色々な物資を持ち込みますから、お金もそれに合わせて移動させやすいかと」

「言われてみれば確かに……」と、バーラントが両腕を組んだ。

「昔、発掘調査の現場監督をしたいと強く申し出てきたのですが…… まさか、あんな組織と関わっていたなんて」


 アルメリアが無念そうに、ポツリと言った。


「単なる好奇心からだと思っていましたが……」


「後悔しても仕方ないですよ、アルメリア王女」とライール。「むしろ、奴がどうやってベリンガールに資金を持ち込んでいたか、分かったと言っていいですから」


「――あっ!!」


 閃いたような顔で、アルメリアが叫んだ。


「エリカさんの居場所が分かりましたッ!」


 バーラントもライールも、分かっていないような顔をしてアルメリアを見ていた。


「南部のルーツ渓谷(けいこく)、知っていますか? ベリンガール大学が遺跡の発掘をしている場所……!」


「そういえば、そんなこともやっていたな」とバーラント。「アル・ファームの調査チームと共同で――」と言って、彼は口をあけたまま黙った。


「そうです! あの方が現場監督をしているのはきっと、そこに組織のアジトがあるからですよ!」


「なるほどな」とライーツがアゴをさする。「外国人で身分のある彼が、町中をウロウロすると目立つ。だが、発掘現場の監督というのなら、周辺をうろついても特に目立つことは無い…… 大学の教授ともグルだったのなら、なおさらか」


「それに」とアルメリア。「あの場所で何か遺物が見つかったのでしょう?」

「結構、前の新聞に載っていたね」とバーラント。


「その遺物が魔導具で、その魔導具を使いたいという目的だったなら、儀典官がエリカさんを強く誘ったことや、あの人たちがエリカさんを捕らえようとしていた理由にもなりませんか?」

「本物の異世界者なんて、早々いないからな」


 ライールが、独りごちに言った。


「すると、南部の渓谷に奴らが向かったのも偶然では無いワケか…… 筋も通る」

「だが、どうする?」


 バーラントが心配した。


「このまま機動隊や軍を向かわせたら、大事になってエリカが……」

「じゃあ、こうするか」


 ライールが腰に手をやって言った。


「バーラントは今すぐアルバート陛下宛の手紙を書き、それをアルメリア王女に渡す。内容は儀典官のことだ。そして王女は陛下へ手紙を渡す。バーラントは予定通り国防省へ行く。二人の護衛は機動隊が総出でおこない、俺は…… エリカのところへ向かう」


「おい! 一人で行くのかッ?!」

「その方が都合がいい。お前の言う通り、こちらの動きが悟られたら、それこそ向こうの思う(つぼ)だ」

「だが、いくらお前でも一人は……」


「無論、そんなことは不可能だ。そもそも、別に一人で救出や制圧をしようなんて、考えているわけじゃない。要人のいる場所や現場の状況を把握し、増援の迅速な行動に繋げつつ、彼女を救出する確率を高めたい…… 目的はそれだけだ」


「――分かった」


 バーラントが言って、アルメリアを見やった。


「お前も、それでいいか?」

「はい」と言ってから、彼女は頭を下げる。

「どうか…… エリカさんを助けてくださいませ。どうか、お願い致します……!」

「ええ、全力を尽くします。ベリンガール貴族の名に掛けて」


 ライールが静かに、力強く答えた。



    63



 エリカにとって、それが夢かどうか定かでは無い。

 単に記憶だけでは、夢とそう変わりないからである。


 だがもし、体感が残っているか否かだけが、記憶と夢の線引きだとするなら、それは確かに記憶に残る出来事で、現実にあったことと言える。


 だから、夢ではなく思い出を見ていた。

 そこでの彼女はまだ小さくて、難しい言葉を読めなかった。


 ――何を思ってなのかは分からない。


 父親が旅行へ行こうと言うから、母親と一緒に出掛けることになった。

 二人に連れられて出掛けるなんて、今までに一度も無い。

 日帰りか泊まり掛けなのか忘れたけれど、ルネ・マグリットという画家の、作品展示のイベントをしていた美術館へ入ったのだけは覚えている。


 今も昔も、エリカは抽象画なんて分からないし、全く興味が無い。シュールとかモダンとか、キュビズムとか、そんなものを楽しめるほどに成長していないし、理解しようと思うこともない。


 それでも惹かれる作品というのはある。

 彼女が惹かれたのは、大きな鳥の絵だった。

 曇り空と荒れた海に、真っ青な空と白い雲を内に宿した、大きな鳥が羽ばたいている。

 他にも、明るい色を束ねた鳥や、卵に戻っていく青空の鳥の絵がある。

 彼女はこの大きな鳥たちを、両親の手と手を取って、あいだを取り持つように見ていた。


 後にも先にもこのときだけ、彼女は自分が『子供』であると実感できた。

 この鳥のようになって、三人でどこかへ行きたいと願っていた。

 ひょっとしたら、エリカが飛行機に惹かれる理由になった物かもしれない。

 家に…… 日常の世界へ帰りたくないと願っていた。


 ――唐突に、足音が耳に入ってくる。


 それで、美術館も両親も、鳥の絵も消え去った。


 後には広めの機関室…… と呼ぶには綺麗(きれい)で静かな、ラウンジと言うべき場所だけが残った。


 次第に、ドカドカとうるさい足音がしてきて、扉が開かれる。


「待たせたねぇ」


 ムハクだった。


 夢見が良かったのに……

 エリカは失望の色を隠せずに、大きな溜息をつく。

 これほど目覚めの悪い覚醒(かくせい)は、日本でも無かった。

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