表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
負けヒロインは助けたい! ~勝ちヒロインの王女が婚約破棄の危機!? 私が『魔導具』を駆使して救ってみせます!~  作者: 暁明音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/43

56~57  各々の事情、各々の真相《後編》


    56



 ライールが、預かった革腕輪を色々な角度から観察している。


「バーラントいわく、ベリンガール製法による革を使った、素人作成の腕輪らしいわよ?」

「そうだな」と、腕輪を見つめたままエリカへ返事するライール。

「何かありそう?」

「なんとも言えない…… 他に何かもらったり、預かったりしてないか?」

「何もないわよ? 特に名簿なんて大袈裟なモノ、手に入れてたら速攻で事態を把握できてたし」

「だろうな。ある意味で一件落着だ」


 ――そういえば、とエリカは思った。

 モハクも革腕輪を探しているようだった……

 ひょっとすると、ひょっとして……


「ねぇ」と呼び掛けるエリカ。「ライールはその腕輪、分解できたりする?」

「分解? 別に造作も無いが……」

「じゃあ、分解してくれない?」

「いいのか?」


「バーラントが買ってくれたのは、その細長い白革だけだし…… それさえ(もら)えれば、別にいいかな」


 エリカがそう言って、アルメリアをチラッと見やった。彼女はその視線に気付き、エリカと視線を合わせる。


「私も、エリカさんが構わないなら別に構いませんよ?」

「じゃ、決定で」と、ライールに向く。

「分かった」


 ライールは左胸に着けていた小型ナイフを取り出し、切っ先の先端をうまく使いながら、縫い糸を一つずつ切っていく。


「意外と器用ね」

「色々やるからな、仕事で」

「編み物とかは?」

「――それは未経験だ」


 糸がどんどん解かれていくと、革がYの字みたいに二つに分かれた。どうやら革と革をうまいこと接合し、一枚のように見せかけていたようだ。


「中々、凝った造りをしている」


 ライールがそう言うと、「ねぇ!」と、エリカが言った。


「何か挟まってる!」

「悪いが、反対側もやってくれないか?」


 そう言って、ライールが小型ナイフを机に置くと、立ち上がって、戸棚にあったナイフの一本を取りだし、それを持って着席した。


「あの、私は何をすれば……?」


 手持ち無沙汰(ぶさた)なのか、アルメリアがそわそわして言った。


「じゃあ、取り出せた紙を並べていってくれない?」とエリカ。「その辺のモノで、両端を抑えながら」


「分かりました」


 こうして、三人の奇妙な内職が始まった。

 革腕輪は多重層になっているため、一つ一つが細くて、量が多い。


「――お二人とも!」


 アルメリアが言った。


「人名が並んでいます!」


 作業を中断したライールが、並んだ細切れの紙を見つめた。


「なるほど…… 裁断し、それを革で接合していったのか……」

「ライール」エリカが呼んだ。「手を止めないで」

「おっと、そうだった」



    57



 革腕輪の分解がすっかり終わる頃には、アルメリアが紙を全て並べ終えていた。

 ライールは念のためにと手帳に名前を書き、紙を集めて、鉄製の鍵付きの箱に収めた後、金庫に保管した。


「重要な物証だ。後で筆跡鑑定をさせよう」

「ほぼ間違いなく、ギースって人の物だろうけどね」


「それで」とアルメリア。「どういった面々が名を連ねていましたか? 私が見た限りでは、一人、知っている名前が載っていましたけれど……」


「予想以上に多かったですね。特に、政府中枢の中にもう一人いたのが恐ろしい…… それから悲しいことに――……」


「どうかした?」


 エリカが尋ねると、ライールが隣に置いてあった刀剣と拳銃を持ち、腰に着けながら立ち上がった。

 不意に、扉が開く。


「ライール」


 と、男性が現れる。


「全員、別棟にて待機するようにと言っておいたはずだぞ?」

「ちゃんと待機している。俺は、用事で来たんだ」

「それならなぜ、扉を閉めない」

「すぐに一人、出ていくことになるからだ」


 男が言って、扉をドアストップのところへ引っ掛けた。


「それで…… 先刻の報告通り、陛下が寄越した使者が、アルメリア王女を迎えに来られた。――そちらがアルメリア王女か?」


「そうだ」とライール。


「王女」と、男性が姿勢を正す。「陛下が大使館でお待ちです。火災の件で随分とご心配なされておられて…… 一刻も早く、合流なさってください」


「で、ですが……」

「俺が連れて行く」ライールが横槍を入れた。「お前はもう下がっていいぞ」

「お前は逮捕した侍女を独房へ連れて行く役目があるだろう? そもそも、なぜここに彼女がいる?」

「逮捕はしていないし、する必要が無いからここにいる」

「何を言っている……?」

「彼女は、もう逮捕をする必要がない…… そう言っただけだ」


 アルメリアが、エリカの傍へ寄る。

 エリカは、固唾(かたず)をのんで二人の出方を見守った。


「彼女は殺人その他の容疑に、放火の疑いもあるんだぞ?」

「放火犯はすでに逮捕してある。それよりお前、今日はやけに武装しているな?」

「どこが?」

「刀剣が装飾用ではなく実戦用じゃないか」

「それはそうだろ? 今は緊急事態なんだぞ? お前と一緒じゃないか」

「上着はどうして着用している?」

「彼女たちを馬車へ案内するためだが……」

「左袖に隠してある小型拳銃は、どう説明するつもりだ?」

「銃? そんなもの――」


「無いと言うのなら、左手を前に出して袖口を広げて見せろ。もし緊急のためと言うのなら、武装は暗器ではなく通常携行(けいこう)の物にすべきではないか?」


 ライールがそう言って、ゆっくりした動作で、ポンっと右腰の銃ホルダーを手打ちした。


「誰かを殺しに来たのか……?」


 男が突然、左半身になりながら、左袖口から銃を抜き出し、左肘をあげ、右の人差し指で引き金を引いた。


 ライールはホルダーがから銃を素早く構え、そのまま撃つ。

 銃声と甲高い音が同時に響き渡る。

 互いの銃が弾かれて、宙を舞いながら、互いの後方へ飛んでいった。

 男の銃は滑りながら、棚の下側に潜り込んだが、ライールの銃はアルメリアの足下に落ちた。それを彼女は、すぐに拾いあげる。


「ライールさん! 銃をッ!」


 アルメリアが言った瞬間、間髪(かんぱつ)入れずに刀剣を抜刀しつつ、男が詰め寄ろうとする。対して、ライールが根元で十字受けになるよう抜刀し、彼を突き飛ばして距離を稼いだ。


「行けッ!!」


 ライールが叫ぶ。


「外へ出ろッ! まだ一人、施設内にいるはずだッ!!」

「わ、分かった……!」


 エリカが答えるや否や、アルメリアの手を握り、


「とにかく外へ逃げるわよッ!」


 と言って、小型犬の姿になった。

 すると、男がライールの刀剣を押し込もうとする。


「我が祖国の、秋分(しゅうぶん)のためにッ!!」


「何が秋分(しゅうぶん)だ……!」ライールが盛り返す。「これじゃあ先人たちが落ち着いて眠ってられないだろうがッ!」


 刀剣の(しのぎ)がこすれると、火花が散った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ