表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
負けヒロインは助けたい! ~勝ちヒロインの王女が婚約破棄の危機!? 私が『魔導具』を駆使して救ってみせます!~  作者: 暁明音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/43

28~30  終わる旅に出掛けよう(後編)


    28



 落ち着いたエリカは、バーラントと一緒にアルメリアの部屋へと向かった。

 彼女は窓際に立っていたが、エリカの姿を認めると一目散に駆け寄って、その両手を取った。

 エリカは心配を掛けたこと、半日ほど何もしなかったことを謝罪し、元の世界のことを思い出したのが原因で、涙が止まらなくなってしまったと嘘の説明をした。


 それをアルメリアが疑うこともなく、寂しいことがあっても自分が(そば)にいると告げた。だから、エリカはつくづく残酷な女性だと思った。


 自分の嘘を見破って、敵意を持つくらいのことをするのなら、何も思う必要が無くなるのに…… どこまでも真っ直ぐで心優しく、強い女性だ。今のエリカの心をズタボロにするには、最適な属性を持っている。


 だが、いつまでもやられてばかりでは、いられない。


 彼女は頃合いを見て、侍女(じじょ)を辞め、しばし旅行をする(むね)を話した。これがエリカにできる唯一(ゆいいつ)の反撃であり、自分の心を守る無二の方法…… それは間違いではないけれど、理由の全てでは無かった。


 暇をもらう一番の理由は、結婚した二人の元で(つか)え続けるには、二人と仲を深め過ぎたことだった。


 もし仕えたなら、今のままでは絶対に耐えられなくなってしまう。それが分かっていた。

 どうしても距離を置き、環境を変え、時間に()やされる必要があった。

 食い下がるアルメリアに、バーラントが割って入って、アルメリアをなだめる。

 エリカは、今すぐに侍女を辞めるわけではないからと苦笑い、辞めて旅行をしているあいだに挙式のことを知ったら、すぐにでも帰ってくると告げる。


「侍女として、参列してくれますか?」


 うるんだアルメリアが、不安気に尋ねる。きっと、一般参列ではないかと思っているのだ。


「侍女としては難しいけど…… 友達としてなら喜んで」

「友達……?」

「いいんじゃないか?」と、バーラント。「主従関係よりも、君と対等な存在で参列する…… その方が、君も僕も嬉しく思えるんじゃないかな?」


 アルメリアが微笑んで(うなず)いた。


「――あ~、あたしもどこかにイイ男が落ちてないか、探しにいかなきゃ」


 アルメリアは落ちているなんて、と冗談として受け取って返事した。

 対してバーラントは、エリカが冗談めかしているのか、本気で言っているのか分からない様子でいた。


「とにかく」とエリカ。「挙式に呼ばないなんてむごたらしいことは、しないでよね」


「そんなことはしません。むしろ、絶対に来ていただきたいです」

「良かった」と微笑むエリカ。「それと、バーラント様」


 彼が首を(かし)げた。


「絶対に、アルメリアを泣かせたりしないでくださいね?」

「ああ」

「泣かせたら平手打ちしますから、そのつもりで」

「気を付けるよ」と、頭をかく。

「あっ!」と、アルメリアが思い出した。「どうやって、挙式の日をお知らせすれば……?」


「元々が政略結婚みたいなものなんだから、大々的に公示されるでしょ? どこにいたって報道されるだろうし、間に合うように戻ってくるわよ」


「それもそうか」とバーラント。「戻る前に手紙をくれたら、出迎える準備をしておくよ」

「うん、ありがとう」


 エリカは屈託の無い笑顔で言った。



    29



 数ヶ月がたった。

 約束通り、エリカが暇をもらう。

 暇をもらった数日後、彼女は自室で出発の準備を進めていた。


「こんなものかな?」


 エリカが立ちあがって、一息ついて言った。


 ――二年くらいしかいなかったのに、随分と物が増えたものだ。そして、二年ほどで自分が成人していたことにも気が付いた。ちょっとは大人になっていてほしいとも願った。それは心からの願いでもあった。


 それから彼女は、おもむろに左腕のブレスレットを取り(はず)すと、右手首に付いている革腕輪が目に()まった。

 手首を返し、ジッと革腕輪を(なが)めている。


「これ、どうしようかな……」


 不意にノックがした。


「どうぞ」


 顔馴染みの、年上の女中が入ってきて「失礼します」と言った。


「アルメリア王女からの手紙だそうです」

「えっ?」


 思わず、素の反応を返してしまった。

 女中が(そば)まで来て、アンティーク調の銀トレーに乗っている手紙を差し出してきた。


「バーラント様の使者の方が、この手紙をお持ちになりました」


 エリカの表情が、真顔になった。


「すぐにでも返事が欲しいとのことです」

「分かりました、ありがとうございます」


 女中が一礼してから下がる。

 エリカは手紙の封筒を見ながら、胸騒ぎを感じた。

 すでにアルメリアは、バーラントの祖国ベリンガールにいる。

 まだ結婚の日程は決まっていないものの、いわゆる『婚約発表』を大々的におこなうため、その準備をするために滞在している。


 両国を代表する家柄の雌雄(しゆう)が婚約発表をする…… これは、単なる有名人が発表するのとはワケが違う。二人は、まさに両国の和平の架け橋としての結婚なのだから。


 そんな大変な状況の中にあって、この手紙…… その内容を読むと、胸騒ぎが確信に変わりつつあった。


 いったい何があったのか、見当も付かない。

 とにかくベリンガールへ向かう必要があった。

 エリカは旅行鞄を持ち、腕輪をはめてから髪を結って、戦闘態勢となった。



 早朝のアル・ファームを出発し、昼過ぎにはベリンガールの首都『ベネノア』に到着し、その北部にある貴族街へと向かい、ナザール家の敷地(しきち)に入る。


 懐かしの迎賓館(げいひんかん)に到着したエリカは、そのままアルメリアがいるという部屋まで案内してもらい、彼女がベッドの際に座っていたから隣に座った。


「アルメリア」


 彼女は黙ったままだった。しかし、両肩を(ふる)わせていた。


「もう大丈夫だから」


 アルメリアがうなずいた。ポタポタと涙が、頬から落ちている。


「何があったの?」

「婚約が…… 破棄されます……」

「えっ……?」


 アルメリアだけでなく、エリカも頭の中が真っ白になった。

 しばらく言葉を発せなかった。

 アルメリアのすすり泣く声だけが、部屋に響く。


「ちょっと待って……」


 エリカがようやく言った。


「どういうことなの?」


 アルメリアが首を横に振った。分からない、ということだろう。


「えっと……」


 努めて、エリカが冷静になろうとした。


「破棄されたのかも、だったわね?」


 今度は首を縦に振っている。


「確定じゃないってこと?」


 また首を横に振った。


「どういう……」と言って、人差し指の横腹を口元へ近づけた。


 ――全く意味が分からない。

 エリカはアルメリアの肩を抱いたまま、うつむく彼女に柔らかい声音(こわね)で、


「アルメリア…… お願いだから、事情を説明して」


 と(ささや)いた。


「このままじゃあ、あたし、何がどうなってるのか分からない」

「私にも分からないんです……」


 やっと、アルメリアが言った。


「バーラント様のお父様から、急に、婚約発表を延期すると言われ…… それが発表されて、二週間もこのままなのです…… バーラント様は何も言わないどころか、私と会ってもくれません……」


「でも、延期だけなら……」

「聞こえたんですッ!」


 突然、アルメリアがエリカを見やって言った。


「婚約破棄も時間の問題だと……! 気の毒な女性だと……!」


 エリカが息をのんだ。



    30



 アルメリアがまた泣き出しそうだったから、背中をさすってなだめた。そして、さすりながら、


「確か大使館に、国王陛下も滞在していらっしゃるわよね? 何か言ってなかった?」

「部屋にいるように、とだけ……」


 ――どういうこと?


 エリカはますます、分からなくなっていた。


「どうしてそんな――」


 と言った途端、エリカがさすっている手を止めた。

 アルメリアがエリカの横顔を見る。不可思議そうにしている。

 突然、エリカが立ちあがり、両扉の方へ駆け足で向かってから、押し飛ばすようにあけ放った。

 さすがのアルメリアも不穏(ふおん)に思ったのか、立ちあがってエリカの方を見やる。


「どう、しました……?」


 エリカが両扉を閉めてから、こう言った。


「物音がしたの。間違いなく、誰かが立っていたような物音が……」

「音、ですか?」

「もう誰もいないけど……」

「盗み聞きしにきたのですね?」

「あるいは」と言って、エリカがアルメリアの(そば)へ寄った。


(とにかく、こっちに来て)


 小声でそう言った。

 彼女は大事を取って、再びベッドの際へアルメリアを座らせ、自身も隣に腰掛けた。そして、アルメリアの耳元へ手をやりながら、


(今からコレで話しましょう…… 大声を出しちゃ駄目。身振り手振りも…… いいわね?)


 アルメリアが横目になりつつ、うなずいた。


(あたしが侍女を辞めたってことは、誰かに話してる?)

(バーラント様だけです)

(じゃあ、今からもう一度、私は侍女に復帰するから)

(えっ?)

(前にもらった書類、一応、持っては来てるの。それを今から処分する。これであたしは侍女のままよね?)


(お、おそらく)

(周りに文句を言われたら、侍女だから調べてるって言って押し通すからね?)

(それってつまり……)

(前にもここでやったでしょ?)


 エリカがニヤリとして言った。


(前は秘密裏にやったけど、今度は遠慮なんかしない。徹底的に調べる……!)

(でも、何を調べるのですか?)

(本丸のバーラントを見つけて、問いただす)

(問いただすとしても、どこにいるのか見当も付きません)

(その手掛かりを、他の人たちから見つけるの)と言ってから、さらに唇を耳元へ近付ける。


(思い出して。あいつ、あたしたちにずっと秘密にしてきた何かが、あったでしょ?)


 ハッとするアルメリア。


(あたしの勘では、それが原因だと思う。――だから見つけ出す。必ず)


 エリカが耳元から離れる。


「年下の…… 妹みたいなあなたに、ずっと頼りっぱなしだったものね。今度はお姉ちゃんに任せなさい」


 そう言って片目をつむったエリカを見て、アルメリアの瞳がキラリとうるんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ