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負けヒロインは助けたい! ~勝ちヒロインの王女が婚約破棄の危機!? 私が『魔導具』を駆使して救ってみせます!~  作者: 暁明音


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26~27  同じって、告げて


    26



 アルメリアとバーラントが、中庭のところまでやって来た。


「エリカさん、どこへ行ったのでしょうか……」


 空っぽのベンチを見ながら、アルメリアが言った。


「聞こえなかったとか?」

「いえ、そんなことは……」


 と言って、アルメリアが周囲を一瞥(いちべつ)した。


「自室に戻ったのか?」

「分かりません……」

「他へ行ったとは考えられないが……」


 今度はバーラントが辺りを見渡す。城壁のところまで一望できるから、人の姿があればすぐに分かるはずだ。


「どこへ行ったんだ?」


 アルメリアは少し考え込んでから、「ちょっと捜してみませんか?」と言った。


「なんだか、らしくなかったというか……」

「分かった、捜してみよう」

「私はエリカさんの自室へ行ってみます。バーランド様は、外をお願いできますか?」

「えっ? 外?」

「城の外へは出ていないでしょうけれど、周辺にいる可能性もありますから」

「いや、しかし……」と言って、バーラントが頬をかく。ずっとさっきから、人の姿なんか見掛けていないからだ。


「――なんでもない。僕はあっちの別棟辺りを見てくる。庭師にちょっとした用事を頼まれたのかもしれないから」


「そうですね、お願いします」


 二人は別々の方向へ歩きだした。



 バーラントが別棟の場所を巡り、城壁塔(じょうへきとう)の側を通って、エリカの姿を捜す。


「どこへ行ったんだ……」


 フッと、納戸(なんど)小屋が目についた。

 そこへ近付くと、女性らしき声が(かす)かに聞こえる。

 まさかと思ってさらに近付き、そっと小屋の裏手を(のぞ)き込むと、エリカがいた。

 彼女はうつむいたまま、(こら)え泣きしている。

 さすがのバーラントも、すぐさま彼女の名を呼ぶことができない。


 アルメリアを呼ぶべきか、このままエリカと呼び掛けるべきか……

 この迷いはすぐに断ち切られ、決断が下される。

 バーラントは忍者のように気配を殺し、その場から離れた。そうしてすぐに、アルメリアのところへと向かった。

 彼女はちょうど、中庭へ行こうと外に出ていたから、手を振って近付き、


「ちょっと(はな)したいことがあるんだ」


 と言った。


「何かあったのですか?」

「ああ…… なぜか泣いていた」


 アルメリアが、今まで見たことが無いくらい驚いていた。その動揺を隠そうと、人差し指の横腹を口元に当てている。


「僕が何かしてしまったのかな……?」

「それなら、すぐさま言ってくると思います……」

「それもそうだね」と苦笑うバーラント。しかし、すぐ真顔になり、


「ちょっと思うことがあったんだけど、いいかな?」

「思うこと……?」

「手紙のやり取りをしていて思った疑問だけど、いいかな?」


 アルメリアが不安そうに首を(かし)げる。


「彼女はいったい、どこから来たんだ? 出身地とか、聞いたことないか?」

「…………」

「知ってるんだね?」

「いえ……」


 今度はバーラントが(いぶか)しんだ。

 横目になっているアルメリアを見て、迷っていることがハッキリ見てとれた。


 だからバーラントは、「僕が言えた立場じゃないのは、重々承知してるんだけど」と言って、さらに続けた。


「もし彼女に何か秘密があるのなら、それが原因かもしれない。君にも言っていない秘密があるんじゃないか?」


「秘密……」と、つぶやくアルメリア。そして首を軽く横に振って、何かを払拭(ふっしょく)していた。


「どうしたんだ?」

「いえ、なんと言うか……」

「話せるなら、話してみてよ。他言無用にするから」

「その……」

「彼女、左の手首に物凄く珍しい腕輪を付けてるよね? あれって見た感じ、ただの古い宝飾品じゃないと思うんだけど。ひょっとして、他国の王族関係者? それか遠縁とか?」


 アルメリアが黙り込んだ。


「えっと、ここではなんですから…… 部屋に移動してからお話しましょう」


 と言って、歩き出した。



    27



 とっぷり日が暮れる。

 空はまだ明るさを保っていた。

 地上はもう暗く、輪郭が(かろ)うじて分かるくらいである。

 そんな中をエリカが、途方に暮れた遭難者(そうなんしゃ)のように、トボトボと歩いていた。


 まさか自分が、ここまで涙が出るとは思ってもいなかった、一生分は流したんじゃないか…… そんな表情だった。


 今の彼女の頭には、侍女としての仕事をほっぽり出してしまった自責の念が(うず)巻いていた。しかし、もっと別の感情も(うず)巻いてはいた。


 重々しい足取りを、うつむいて眺めながら、建物に入っていく。そうして自室に向かっていると、


「エリカ」


 と、バーラントの声がした。

 両肩をびくつかせ、立ち止まるエリカ。


「森の中で会ったときとは、まるで別人だね。何かあったの?」


 顔を見られたくないから、エリカはそっぽを向いた。それで、バーラントは溜息をついた。


「ちょっと話たいんだ。――いいかな?」


 バーラントが、エリカの部屋のドアあける。

 彼女は足早に部屋の中へ入った。

 それを見て、ホッと一息つくバーラント。おそらく断られても、多少は強引に行くつもりだったのだろう。



 部屋は薄暗く、明かりがあった廊下から入ったこともあって、ほとんど何も見えていない状態だった。


 それでも輪郭だけは分かるから、扉を閉めたバーラントが、


「後で、アルメリアにも会ってあげてほしい」と告げた。

「本当に心配していたんだ。それだけは約束してほしい」

「もちろんです…… 職務を放ったらかしにしてしまったのですから……」

「そんなこと、どうだっていいんだよ。君が何か辛いことがあったんじゃないかって、アルメリアも気が気じゃないんだ」


「ごめんなさい……」

「僕に謝る必要なんか、一切ない。――それより、何があったのかだけ教えてほしい」


 エリカの口が開かない。


「僕が原因?」


 やっぱり返答が無い。だが、反応は少しだけあった。


「やっぱりそうなんだな?」


 返事を待たずに、バーラントが続ける。


「何をしてしまったのか分からないけど、君を傷付けたのなら――」

「違うッ!」


 エリカが(さえぎ)った。

 さすがのバーラントも黙り込む。

 時間を置いてから、エリカが弱々しく言った。


「あなたも悪くない」

「じゃあ、いったい……」

「――中庭で、アルメリア様と会ったんですか?」

「え?」

「会ったんですよね?」

「ああ…… 昨日は本当に偶然、会っただけなんだ。別に何かを(たくら)んでいたわけじゃない」

「あたしが言ってるのは、八年前のことです……」


 バーラントは何か言いかけて、それを止めて、ゆっくりと口が閉じられた。


「やっぱり、そうだったんだ」とエリカ。

「意外だな…… 知ってたんじゃないのか?」

「エスパーじゃないんだから、そこまで分かるわけないでしょ?」

「えすぱー……?」


 エリカが苦笑う。

 いい笑顔ではないが、泣き顔や怒り顔よりはずっとマシである。

 バーラントも釣られて笑みを浮かべ、


「君の国の言葉かな?」と言った。

「そんなところです」

「――実は、アルメリア王女から君のことを聞いたんだ。異世界から来たって」


 エリカが少し驚く。

 構わずにバーラントが続ける。


「すまない。あんな風にいなくなると、どうしてもアルメリアが気にして…… 僕も色々と詮索(せんさく)するような話をしてしまったんだ」


「それについては、別になんとも思いません。――あなたとは、お互い様なところもあるから」

「そうか……」

「アルメリアが言ってた使用人が、あなた自身なのか…… それを、あなたの口から聞きたかったの」

「どうして」とまで言って、バーラントが言葉を切った。

「まだ分からない?」


 バーラントは首を横に振って、


「なんとなく、分かった」


 と答えた。


「あなたが、王女の言っていた使用人じゃなければ良かったのに」


 バーラントは何も言えない様子であった。


「そういうわけだから、誰も悪くないんです。――むしろ全部、あたしが悪い」

「それはそれで、違うような気もするかな」

「あたし、始めて王女を(うと)ましく思った。元の世界が(ろく)でも無くって…… この世界に来ても、すぐに投獄(とうごく)されるし…… それでも、彼女はすぐにあたしを助けてくれた。なのに……」


 エリカの瞳から、ポロポロと涙が出てきた。


「それなのに、あたし、今は邪魔なヤツだって思ってて……!」


「もういいじゃないか」バーラントが言った。「気付かずに馴れ合った僕にも落ち度がある。悪いのは君だけじゃない」


「そんな気障(きざ)ったいこと言わないでよねッ!」


「気障ったい…… そうかもな」


 エリカもバーラントも喋らなくなった。

 少しだけ窓際が明るかったのが、もうすっかり暗くなっていた。それでも目が慣れたためか、お互いがお互いをしっかり見()えていた。


「でも、君だけが悪いなんてことは決して無い」

「あなたの婚約者を悪く思ってるのよ?」

「ああ」

「変な人……! それじゃあ甲斐性(かいしょう)なしじゃない!」


「君はアルメリアを憎んだ自分自身を、イヤがってるじゃないか。

 本当に(きら)っていて、彼女をどうにかしてやろうなんて考えてるんなら、その気持ちを自己正当化するだろうさ。

 どんなヤツだってそうだ。男とか女とか、そんなこと関係ない」


 納得したのかどうか分からないが、エリカは黙っている。

 バーラントは、ゆっくり手を差し出した。


「でも…… もし悪いと思うのなら、彼女のところへ行って、なんでもいいから事情を説明してあげてくれ。僕からの願いはそれだけだ」

「――嘘でもいいの?」

「ああ、君が思うように言えばいい。彼女なら絶対に受け止めてくれる」


 エリカが(かす)かに笑った。嘲笑(ちょうしょう)が入り交じっているようだった。


「絶対に、本当のこと話さない」

「どうして?」


 エリカは答えず、涙をぬぐいながらバーラントの目の前まで歩み寄った。そして、しっかり上向いて、彼を見つめた。


「一つ、お願いがあるの」

「かなえられる範囲のモノなら……」

「あたしの、()()()気持ちを受け止めて。あたしが前に進むために……」


 バーラントが視線をズラす。


「傷付けるのは好きじゃない」

「それが、あなたの落ち度の贖罪(しょくざい)だから……」


 こう言って、彼女は視線が合うのを待った。

 目を閉じていたバーラントが、エリカに視線を合わせる。


「あたしは、あなたのことが好きです。付き合ってくれませんか?」


 時間は掛からなかった。


「ごめん。僕はアルメリアを愛しているんだ」


 また泣いてはいたけれど、とびっきりの笑顔となっていた。


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