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負けヒロインは助けたい! ~勝ちヒロインの王女が婚約破棄の危機!? 私が『魔導具』を駆使して救ってみせます!~  作者: 暁明音


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24  咲いた花は夢の中


    24



「おじいちゃん、どうも」


 バーラントが、地べたにあぐらをかいている老人へ声を掛けた。


「おう、アンタか。――その子が昨日の晩に言ってた婚約者かい?」

「いや、この子は友達だよ。実はちょっと()きたいことがあってさ」


 そう言うなり、バーラントが事情を説明し始めた。

 エリカは息を整え、ジッと二人のやり取りを見やる。


「――エリカ」

「あっ、はい」

「例の革腕輪、見せてあげてよ」

「ええ、革腕輪ですね。革腕輪……」


 鞄をゴソゴソ(あさ)るエリカに対し、


「君が握ってるそれはなんだい?」


 バーラントが苦笑いながら指摘する。

 鞄の持ち手と一緒に、革腕輪を握っていた。

 エリカはしどろもどろなことを言いながら、持っていた革腕輪を手渡す。


「大丈夫かい?」

「ええ、ごめんなさい。変なうっかりをしてしまって……」

「いや、まぁ…… そんなに気にしなくてもいいけどさ」


 そう言ったバーラントが、店主の老人にブレスレットを渡す。

 店主がそれを見ながら、


「いやぁ、こいつはウチの商品じゃあないなぁ」と即答した。

「そうなの?」


 老人が、ブレスレットの裏面をひっくり返しながら、


「分かりにくいと思うんだが、ここを見てくれ」

「――記名が無いんだね?」


 老人が(うなず)く。


「記名、とは?」


 置いてきぼりのエリカが尋ねた。


「職人がここへ記名するんでさぁ」と、老人が説明する。「普通はここに入れるんだ。それが無いものは、基本的には商品として扱わない決まりでね」


「と言うことは……?」

「自作したのかもね」


 バーラントが言った。彼は、借りたレンズを持っていた。


「さっき確認させてもらったけど、手慣れているとは言え、()い方も少し荒い」

「あと考えられるのは、素人の作成物を盗んだって線だが……」

「考えにくい?」

「ああ。アル・ファーム風の物ならまだしも、こいつは完全にベリンガール製の革に、ベリンガール風の装飾品だ。

 ここいらじゃ見習いしか作らねぇし、見習いが作品()られたとあっちゃ、黙ってるわけがない。

 絶対に俺の耳にも、盗難の情報は入ってくらぁ。ベリンガール製の革を使ってるんなら、なおさらだぜ」


「心強い言葉だね」

「何十年、ここでやって来てると思ってんだ」

「確かに」と微笑んで、「でもコレ、革がもうちょっと(こな)れた方が、もっと良くなりそうですね?」


「おっ、見る目あるじゃねぇか旦那(だんな)

「どうもありがとう」と、晴れやかなバーラント。


 反対に、エリカは曇った顔になっていた。

 先刻(せんこく)、相手が『ずいぶんと節穴な目をしてるんだな?』と言ったのを(いや)でも思い出す。


「一応」と、バーラントが続けて言った。「盗品では無い可能性がきわめて高くなったし、ハンカチの代わりにもらったことにして、持っててもいいんじゃない? 物々交換ってヤツで」


 エリカの曇った顔が、少し怒った顔になっていた。


「あれ? どうかしたか?」

「いえ、別に……」


 こう言って、ブレスレットを(かばん)へ無造作に入れる。


「それよりも、ご主人様へのプレゼント…… もとい、贈り物を買われるのでは?」

「あっ、そうだった。――爺さん、昨日お願いしていたものって用意できた?」

「ああ、なんとか在庫が見つかってな」


 二人はアルメリアに渡されるであろう品物を見ながら、色々と話し合っていた。そして、品物――ブレスレットは、色合いが微妙に違う革を使っていて、その革自体に装飾や飾り石があって、アル・ファームとはまた違った、美しい品物(しなもの)であった。


「――エリカ?」


 ハッとしたエリカが(あわ)てて、「はい」と返した。


「大丈夫か?」

「え、ええ。ちょっと考え事を……」


 エリカは誤魔化し笑いしながら言い、「どうかしましたか?」と続けた。


「ああ…… これなんだけど、その腕輪に付けたらどうかな?」


 バーラントが白く細い革を見せて、言った。


「ちょっとした対比にもなるし…… 君の左腕に付けてる、素晴らしい腕輪とも対比的だと思うんだよね」


 エリカが、左手首を持ちあげて見た。そこには魔導具があった。


「古典的なアル・ファーム王朝の装飾だ」と、露天の主人。「どこの人かは知らねぇけど、ずいぶんな品物を身に付けているんだな?」


「え、ええ。ご主人様とお父上様から、お守りにと……」

「そりゃあ凄い」とバーラント。「本当に信頼されているんだね」


「ええ、まぁ…… 光栄の(いた)りです」

「どうせなら、ベリンガール製の革腕輪も、君の所蔵品に加えてほしいな。――邪魔にはならないだろう?」


「でも、これは変なヤツの物で……」

「別に粗悪品や盗品ってワケじゃ無いさ。ハンカチの代わりにもらっておけばいいし。何かあったら僕が責任を取って買い取るよ。――市場の適正価格でね。これならどうかな?」

「いえ、そういうことではなくって……」


 バーラントが首を(かし)げる。


「別にそこまでしなくても…… なんて、思いまして」

「昨日いってた、お詫びの印だよ。気にする必要は無いさ」


 エリカは少し考えた後、「じゃあ、お願いします……」と答える。


「――じいさん、お願いできる?」

「おう、少し待ってろ。すぐに加工してやるから」


 頼もしい言葉の後に、道具を取り出し、作業に取り掛かる準備をしていた。


「エリカ、腕輪を」

「あ、うん」


 と言って、彼女は鞄に手を入れる。


「やっとだね」

「え?」

「普通に話してくれた」


 バーラントが嬉しそうに言った。

 エリカは特に顔色を変えず、むしろ変わらないよう努めつつ、革腕輪を取り出した。

 今度はヘマをしでかさないように、と。


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