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樹の精霊(4)

樹の精霊(ドライアド)

森の管理者であり、妖精族の頂点に立つ妖精王(ハイエルフ)と並ぶ最高位の精霊である。

彼らは滅多に姿を見せない。

最後に見た記録では100年も前しかないほど、彼らは外の世界と交流をしない種族であった。


樹の精霊(ドライアド)?」

『ほぉ、吾を知っておるのか人の子よ』


シノアリスが自身を知っていることを嬉しげに笑う樹の精霊(ドライアド)に、ただ困惑する。

ドライアドもそうだが、妖精や精霊は過去に“妖精狩り”という残虐な狩りの被害にあい数は激減し今では御伽噺な存在ともいえる。

妖精や樹の精霊(ドライアド)にはいまだ未知な能力を秘めており、それを研究したい者は人族だけではない。

多くの種族が今もなお彼らの存在を求めている。


中でも例を挙げれば“妖精の眼”。

以前ヘルプでも見たが、妖精の眼は人でも獣人でもステータスをその目に写す。

その眼欲しさに欲に満ちた者が彼らを狩り、その深い傷跡により妖精が身を隠すようになり今では御伽噺なほどである。

お伽噺のような存在が現れて困惑しないものはいないだろう。


樹の精霊(ドライアド)、シノアリスを放せ」

『ふむ、そなたはシノアリスと言うのだな』

「え、あ、はい」

『羨ましいの、吾らは皆樹の精霊で一括りされるからなぁ』


樹の精霊(ドライアド)は暁の要求を一切無視し、カラカラと陽気に笑いシノアリスに話しかける。

カシスも暁も内心舌打ちを零した。

出来ることならすぐに引き離したいのに、シノアリスが樹の精霊の腕の中にいるため下手に身動きがとれない。


そもそも樹の精霊も御伽噺と言われるほどこの世に姿を見せなかったので強さは全く未数値である。さらに暁もカシス達も気づいている。

自分たちを囲む多くの視線に。


「・・・くそ」


その数は計り知れないほどの気配だった。

姿は見えずとも暁のスキル“気配察知”により大勢の樹の精霊(ドライアド)が取り囲んでいることに気付いており動くことが出来なかった。

カシス達も、本能から取り囲まれていることに気付いており二の足を踏んでいる。


樹の精霊(ドライアド)は木の精霊。

つまり木が、森がある場所であれば何処にでも現れるのが樹の精霊(ドライアド)だ。

囲んでいるのは間違いなく同じ樹の精霊(ドライアド)なのだろう。



「あの・・・」

『なんだ?人の子よ』

「私たちになにかご用事ですか?」


張り詰めた空気の中、唯一警戒心が全くないのがシノアリスだった。

抵抗する気配もなく不思議そうに樹の精霊(ドライアド)を見上げ質問してくるシノアリスに、益々面白いと言わんばかりに口を釣り上げた。


『人の子、いまどのような状況になっているのかわかっておるか?』

「えっと沢山の樹の精霊(ドライアド)たちが取り囲んでいますよね?」

『ほぉ、良く気付いたな』

「暁さんやカシスさん達が凄く周囲を警戒しているから、囲まれているのかなぁって」


シノアリスには獣人にように聴覚や嗅覚は優れていない、暁の持つスキル気配察知をもっていない。

だが周囲の様子を見ることはシノアリスにだってできる。


『そうかそうか、ならお前は何故警戒しない?』

「いや害するつもりなら既に害してますでしょうし、なにより」

『なにより?』

樹の精霊(ドライアド)は少し悪戯好きで寂しがり屋、でもとても優しい子だって教わったんです」

『・・・・』


その言葉に樹の精霊(ドライアド)は先ほどまで笑っていた表情が、スンと消え真顔でシノアリスを凝視していた。


『悪戯好きで寂しがり屋・・・そう、教わったのか?』

「?はい」

『ふむ、そうか・・・ん?』

「?」


樹の精霊(ドライアド)はシノアリスのローブを掴み持ち上げ、ジッと静かに凝視している。

その様子にシノアリスは頭上に?を浮かべながら見守っているも。


『なるほど、そういうことか』


納得したように頷いた樹の精霊(ドライアド)は視線だけを暁たちへ向けた。

その瞬間、暁たちを取り囲んでいた気配が一斉になくなり、暁達は戸惑いながら樹の精霊(ドライアド)へ視線を向ける。

だが、暁達など眼中にないと言うように樹の精霊(ドライアド)の意識はシノアリスへ向けられていた。


『お前は、かの者から慈しみの加護を受けているな』

「慈しみの加護?」

『ならば人の子、お前は吾らの愛し子(いとしご)と同じよ』

「??まったく展開についていけないのですが」


樹の精霊(ドライアド)だけがなにやら納得したように頷き、愛しいものを愛でるかのようにシノアリスの頭をヨシヨシと撫で始める。

全く展開についていけないシノアリスの顔は、宇宙猫のような顔になっていた。


『愛し子であるなら、これから起こる悲劇を教えてやらねばなるまい』

「悲劇?」


樹の精霊(ドライアド)は、ゆっくりと指先をナストリアへ向けた。


『あの国は、近いうちに魔物の暴走(スタンピード)に巻き込まれる』

「「「「!?」」」」

「・・・魔物の暴走(スタンピード)


商業ギルドのスルガノフが言っていた。

魔物が相次いで出没しており魔物の暴走の可能性があるかもしれない、と。

樹の精霊(ドライアド)の言葉を信じていいのか分からないが、彼女が嘘をついてまで言うメリットやデメリットが分からない。


だが不思議とシノアリスは樹の精霊(ドライアド)は、嘘はついていないと思えた。



「それは本当なのか?」

樹の精霊(ドライアド)は、嘘はつかぬ。冗談は言うがな』


マリブの言葉に樹の精霊(ドライアド)はカラカラ笑う。

だが、それが真実だとすれば直ぐにでも避難警告を出さなければ国は完全に滅んでしまう。


『早くお逃げ、愛し子。魔物の暴走(スタンピード)の中に凶悪な魔物がいる』

「!それは、どんな魔物ですか?」

『ふむ、詳しくは知らんなぁ。森を食われてしまったからのぉ』


ただ、と樹の精霊(ドライアド)はその時の光景を思い出しているのか憎々し気に顔を歪ませた。


猪人族(ハイオーク)のような外見だが、とてつもなく醜い生き物だったな』

豚人(オーク)ではなく?」

『吾とて猪人族(ハイオーク)豚人(オーク)の違いは分かるぞ』


猪人族(ハイオーク)は猪の獣人のことだ。

彼らはゴブリンキングのように引けを取らない巨体と黒い毛並と血液を持つ。眼は赤く、口から生えた硬い牙。そしてかぎ爪の生えた長い腕を持っている。

素早さは他の獣人に劣るが、その力は鬼人に引けを取らないとされている。


だが彼らは魔物ではない。



「どういうことだ?獣人が魔物化したっていうのか?」

『吾が知るわけがなかろう』


元々魔物との違いは進化にある。

文明を作り社会を作り上げたのが種族、逆に己が本能のままに食らい破壊を繰り返すのが魔物である。

人も鬼人も一歩踏み違えていれば魔物と同じだ。


「すまない、樹の精霊(ドライアド)。聞きたいことがある」

『なんじゃ、鬼人の若造』

「この森に現れたのも、魔物の暴走が理由なのだろうか?」

『あぁ、あやつらは我等の領域を侵略しつつあるのでな。巻き込まれる前に移動をしておったのだ』


だから本来出会えるはずのない樹の精霊(ドライアド)に遭遇することになってしまったのか。


『では我等は行くよ、愛し子。もしまた出会えるなら我らが故郷に招待しよう』

「え!?もしかして妖精郷のことですか?!」


妖精郷は、まさに妖精や樹の精霊が暮らす楽園のことだ。

既に伝説と言わん場所に招待してくれるという言葉にシノアリスは驚きと感激で目を輝かせた。

何故なら妖精郷には、御伽噺に出てくるような夢の素材が沢山実っている。

錬金術士なら死ぬ前には行ってみたい夢の場所でもある、そんな夢の場所への招待に喜ぶシノアリスに樹の精霊(ドライアド)は嬉しそうに笑い、そっと頬に口づけた。



『さらばだ、愛し子よ。また逢う日を楽しみにしておるぞ』


まるで空気に溶けるように消える樹の精霊(ドライアド)

強い風が一風し、思わず顔を両腕で覆う。ようやく風が止んだと目を開けば目の前の景色にシノアリスは愕然とした。


森の木が全て枯れていたのだ。

先ほどまで美しい緑で溢れていたのに、花も草木もまるで生命を失ったように枯れている。


「うそ、こんな・・・」

「シノアリス!無事か!」

「あ、かつきさん。はい無事です」


即座にシノアリスに駆け寄り、五体満足を確認した暁はホッと安堵の息を零す。

もし樹の精霊(ドライアド)に明確な殺意があれば、シノアリスは無事ではすまなかっただろう。守ると誓ったのに早々に相棒を危険に晒してしまったことに暁は悔しげに唇をかみしめた。


「すまない、俺がもっと周囲を警戒していれば」

「大丈夫ですよ、暁さん。それに樹の精霊(ドライアド)は誰かを傷つける種族ではないって教わっていたので」


その教えも絶対とは言い切れないではないか、と言いかけようとしたが真っすぐと信頼に満ちた目で見つめるシノアリスに暁は言葉を詰まらせた。

だが、その信頼に満ちた目を見たからこそ樹の精霊(ドライアド)の中で、何かに気付き“愛し子”と言われるきっかけになったのかもしれない。


「とりあえず、今はナストリアに報告に戻りましょう」


樹の精霊(ドライアド)が早々にここを去ったのであれば魔物の暴走はそれだけ近づいているということだ。

シノアリスの言葉に暁もマリブも急いでナストリアへと戻るために早足でその場を去ったのだった。









「そういえば、アリスちゃんは樹の精霊(ドライアド)のこと何処で知ったの?」

「私に錬金術を教えてくれた、おばあちゃんから教わったんです」

「シノアリスの博識はその方からなのか」

「はい。エルバおばあちゃんはエルフでしたから、とっても博識でしたよ」

「「「はぁあああ!?」」」


樹の精霊(ドライアド)


森の管理者であり、妖精族の頂点に立つ妖精王と並ぶ最高位の精霊である。

特徴はエメラルドのような髪と瞳。

頭には花の冠をつけている。

妖精の眼は持っていないが、森がある場所はすべて彼女たちの領域なので隠し事は不可避。隠し事したいなら森のない火山地に行くしかない。


****

最後までお読みいただきありがとうございます。

数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。

少しでも本作品を面白い、続きが気になると思って頂ければブクマやコメントを頂けると大変活力となります(*'ω'*)

更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。


どうでもいい話ですが。

欠伸が出そうになったら舌で鼻の下を舐めると欠伸が止まると聞いて思わず実践しました。

そう、欠伸を止める方法と聞いた矢先。

欠伸ではなく、くしゃみが出そうになった瞬間舌を出し鼻の下を舐めようとし見事に舌を噛みました。

舌が痛い(´Д⊂ヽ

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