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港町シェルリング(4)

無事依頼書を強奪という名の受理を貰えたシノアリスと暁はホワイトオクトパスとレッドクラーケンがいる場所へ向かっていた。

水運ギルドのリースは鬼人である暁をみて冒険者ギルドに属している人物だと思ったのだろう。

鬼人の強さならあの怪物を倒せるのではと何処か期待をしていたが、掲示したカードは商業ギルドのギルドカード。


別に魔物討伐を行商人や商人がしてはいけない決まりはない。

ただ専門家と素人の違いなだけ。

即座にリースがホワイトオクトパスとレッドクラーケンがいかに危険であることを説得するが、再びシノアリスからの塩乱舞により泣く泣く受理をしたのだった。



「シノアリス、人に塩を投げたらダメだろ」

「あのお塩は“清めの塩”と言って寧ろ投げた方が良い物なんですよ」


清めの塩とは、光属性で浄化された清らかな塩であり呪いや悪い気などを払ってくれる。

邪気などを払ってくれることから教会でも重宝されている魔道具、とくにゴーストの魔物には効果抜群だったりする。

決して人様に投げて良いものではない。


「そうか、それなら良いか」

「はい、寧ろあの人の沈んだ気持ちも少しは和らいでいると思いますよ」

「そうなのか、シノアリスは優しいな」

「いひひ、照れるなぁ~」


そんな会話をしている間にホワイトオクトパスとレッドクラーケンがいる場所が見える船着き場に辿り着いた。

だがシノアリス達が見えたのか白い触手の腕、ホワイトオクトパスだけだった。


「レッドクラーケンがいませんね?」

「どちらも同じ海の魔獣だが時間のサイクルが異なるのかもしれない」

「暁さんは海に詳しいんですか?」

「いや、海の生態には詳しくないが山奥にいる魔獣もそれぞれ生活サイクルは違う。なら海の生き物も同じだろう」

「ほうほう」


だがもしここでホワイトオクトパスを討伐に向かえば、レッドクラーケンが騒ぎに気付くだろう。

もし討伐するのであれば、どちらか片方ずつを仕留めるのが確実なのだが。


「シノアリスはなにか方法でもあるのか?」

「簡単ですよ、ホワイトオクトパスを蛸壺で捕えている間にレッドクラーケンを引きずりだして討伐すればいいんですよ」


笑顔で簡単だというシノアリスに、暁はなにを思ったのか口を開こうとした瞬間。


「わははははは!流石おこちゃまだ!聞いてるだけで腹がいてぇな!」

「?」

「お前はさっきの」


背後から響いたバカでかい笑い声に振り返れば、商業ギルドで出会った蜥蜴人が壁によりかかった状態でシノアリス達を見ていた。

シノアリスの提案が未だ可笑しいのか腹を抱えたまま笑っている。


「どちらさまですか?」

「おいおい、ついさっきお前さんが俺を追いかけてきたのを忘れたのか?」

「・・・え?どこかで会いました?」

「は?・・・まぁいい。俺はリンドラード、見ての通り冒険者だ」


真顔のシノアリスに、一瞬だけ口元を引き攣らせたが背負った槍を見せながら自己紹介をする。

リンドラードはシノアリス達に近づき、遠くにいるホワイトオクトパスを親指で指した。


「お嬢ちゃんにはあの怪物が見えてないのか?」

「見えていますよ、食べ応えがありそうですよね」

「は?」


キラキラと目を輝かせてホワイトオクトパスを見るシノアリスに流石のリンドラードはドン引きする。

あれを食すつもりなのか?むしろあれは食用だったの?と顔にデカデカと書かれている。

リンドラードの反応は当然でもあった。

なぜなら今まで誰も食用にできるなど知らないからだ。ホワイトオクトパスとレッドクラーケンが食べられることを知るのはヘルプとシノアリスのみ。


「さてと暁さん、作戦会議なんですけど」

「おいおいおい!やめとけ!子供が遊び半分で突っ込んでいいもんじゃねぇ」

「遊びではありません、美味しい物を食べるためです」

「・・・・鬼人のあんたもアレの強さはわかっているだろ」


シノアリスでは話にならないと思ったのか話の矛先を暁へ変えるリンドラード。

確かに暁は山奥地にこもっていた、シノアリスが付与してくれた気配察知からでもホワイトオクトパスの大きさが感知できている、だが。


「いや、シノアリスが大丈夫というなら俺も信じる」

「はぁあ?」


シノアリスの凄さを身近で何度も感じたからこそ、暁は疑っていない。

彼女が解決できると言えば、それは本当に解決できるのだと暁はわかっている。リンドラードは暁の言葉にポカンと呆気な顔を見せたが、すぐに顔を歪ませた。


「そうかよ!なら勝手に食われな」

「失礼する、行こうシノアリス」

「はーい」


唾を吐き捨てんばかりの勢いで怒鳴りつけるリンドラードに、背を向け歩き出す暁と背を押されるシノアリス。リンドラードも舌打ちを零し、シノアリス達に背を向けて歩き出そうとした。


「リンドラードさん」

「?」

「誰に依頼されたか知りませんけど、悪事はダメですよー」

「!?」


不意にリンドラードの背に向けて放たれた言葉に、驚き勢いよく振り返るがすでにシノアリスは暁と一緒に遠くに移動していた。




リンドラードから離れ、浅瀬まで移動したシノアリスは地形を確認するように周囲を見渡す。

その背を見ながら暁は先ほどから気になっていたことを口にした。


「さっき言っていた作戦だが、蛸壷はどう用意するんだ?」


寧ろあのホワイトオクトパスを収納できる蛸壷があるのかと暁は不思議そうだ。

シノアリスは、ホルダーバッグから5寸サイズの壺を取り出し、暁に見せる。が、その壺が出てきた瞬間暁は禍々しい気配に思わず身を引いてしまう。


「シ、シノアリス!?それは一体」

「これでホワイトオクトパスを捕まえるんです!」

「それで、か?いや、寧ろそんな薄気味悪い物をよく持っていられるな」

「慣れました」

「慣れたのか」


シノアリスは壺をホルダーバッグに仕舞い、再び周囲を見渡す。

一体なにを探しているのかと暁は問おうとした矢先、シノアリスはなにかを見つけたのか走り出した。


「シノアリス!?」


慌ててシノアリスの後を追う暁。

後ろから呼びかけるがシノアリスには届いていないのか、砂に足をとられながら暁は追いかける。シノアリスが見つけたのは洞窟がある浅瀬で周囲は崖などに囲まれている。


「ここ!ここならレッドクラーケンを一網打尽にできる!」

「だが、どうやって誘い出すんだ」

「やっぱり餌ですかね」


海産物は魔物の所為で激減している。

だけど、逆に考えればレッドクラーケンとホワイトオクトパスのご飯も少なくなっているということだ。

なら栄養を蓄えるために餌となりそうなものがあれば即座に食いつくはず。


ちょうどシノアリスのホルダーバッグには解体していない魔物がいくつかいる、ある程度はシノアリスも解体はできるが量が多い場合は面倒なので解体屋を通していた。

シノアリスは、作戦を暁に伝えれば驚きながらもそれなら討伐できるかもしれないと頷いてくれた。


あとは準備をするのに。

シノアリスは遠くに見えるホワイトオクトパスにニッコリと満面の笑みを浮かべ拳を握り締めた。


「困ったタコさんとイカさんには、お仕置きをしてあげましょう」



***


リンドラードは冒険者ギルドへ訪れていた。

勿論ある内容を報告するために。

冒険者ギルドに入ればまるで無法地帯のように荒れ果てており、ガラの悪い人間たちが酒を浴びるように飲んでいる。

それらを横切りながらリンドラードはギルドマスターの部屋へ突き進む、が。


「何の真似だ」

「あぁん?亜人風情がなに人間様を見下ろしている、人間様に尻尾振るならもっと愛想よくしろよ」

「わはは!蜥蜴の尻尾でか!そりゃあいい!」


道を遮るように酔っぱらった男達が下品に笑いながらリンドラードをどつく。だが蜥蜴人であるリンドラードと人間では力の差は歴然である。

突き飛ばしてもよろめいたりしないリンドラードに、酔っ払い達の顔が苛立ちにより歪む。


「てめぇ、舐めてんのか?」

「寄るんじゃねぇ、人間如きが」


リンドラードの言葉に酔っ払い達は逆上し、自分たちの武器を手にリンドラードに突きつける。

ギルド内にいる数は総勢二十人。

多勢に無勢、どっちが格上か身をもって叩き込んでやろうと男は刃先をリンドラードに頬に突き刺そうと頬の鱗へと近づける。


「そこまでにしとけ」

「!?」


突如緊迫した空気を裂いた声に男や他の冒険者、そしてリンドラードの視線が上へ向けられる。

二階の柵に手を置きながら見下ろすのは、この冒険者ギルド支部の代表ギルドマスター“ノーマン”。冒険者ギルドを束ねている為か、筋肉質の体系に角刈りの頭。片目は眼帯により覆われておりノーマンの威圧さを増していた。


「ギルマス!」

「ノーマンか」

「リンドラード、部屋に来い」


流石にノーマンの前でこれ以上騒ぎを起こせないのか、酔っ払い達は不満げに武器をしまう。

リンドラードは彼らを無視したまま階段を上がりギルドマスターの部屋へと入っていく。それが面白くない絡んだ酔っ払いの男達は舌打ちを零し、再び酒を浴びた。


部屋に入ったリンドラードは部屋中を満たす煙に顔を顰めた。だがそれを気にする素振りもなくノーマンは煙草をふかしながら口端を釣り上げた。


「ウチの若いもんがすまんな」

「別に」

「んで、なんかあったのか?」

「さっき子供と鬼人がレッドクラーケンとホワイトオクトパスの討伐依頼を水運ギルドで受けていた」

「ほぉ・・・鬼人ね、奴隷じゃないのか?」

「違う、奴隷紋はなかった」


ノーマンも鬼人の言い伝えは聞いている。

鬼人の残虐性やその怪力さから中々捕えづらい。希少価値が高いので腐った貴族はこぞって金を出して買う。

だが奴隷紋のない鬼人はかなり貴重な存在だ。


「お前はどう思う?成功すると思うか?」

「鬼人は山奥に引きこもる種族だ、海に潜ることに特化していない」


が、どうしてもリンドラードの脳裏にシノアリスと暁の姿が焼き付いて離れない。

まるであの二人がレッドクラーケンとホワイトオクトパスの討伐を達成しそうなそんな予感がする。


「ところで、もう充分だろ。水運ギルドはもう職員1人しかいない、潰れるのも時間の問題だ」

「そうだな」

「約束通り、船を寄越せ」


リンドラードはとにかく自分用の船が欲しかった。

だが、船を用意するための金がなくまた水運ギルドからも所有の船を持つことを断られた。そこで声をかけてきたのがノーマンだった。


ノーマンはずる賢く傲慢な人間だ。

とある出先でレッドクラーケンとホワイトオクトパスの卵を見つけ内密に入手しこの海に放った。

あとは奴らが成長するのを待つだけ。

そして成長した魔物が海を荒らす、それを好機に水運ギルドを潰し、シェルリングのギルド実権を握る計画を練っていた。


だが、それだけでは足りず亜人が船を欲していると何処からか情報を入手し、リンドラードと接触した。

水運ギルドを潰す手伝いをすれば報酬に船をくれるとリンドラードに交渉を持ち掛けた。

そしてリンドラードは水運ギルドからの素材採取依頼を受け、わざと素材が傷つくような採取を行い、水運ギルドを潰すよう働きかけた。


人間の世界も蜥蜴人の世界でも共通するのが弱肉強食。

水運ギルドは弱いが故に強き者に摂取される、恨むならば自分たちが弱者であることを恨めばいい。


「そう焦るなよ、水運ギルドが完全に潰れたら船や通行証もつけてやるよ」

「・・・・」







「誰に依頼されたか知りませんけど、悪事はダメですよー」


不意に脳裏に過る幼い声に、リンドラードは苛立ちを示すかのように舌打ちを零した。



・清めの塩

光属性で浄化された清らかな塩であり呪いや悪い気などを払ってくれる。

邪気などを払ってくれることから教会でも重宝されている魔道具、とくにゴーストの魔物には効果抜群だったりする。

人に投げて良いものではない。


****

最後までお読みいただきありがとうございます。

数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。

少しでも本作品を面白い、続きが気になると思って頂ければブクマやコメントを頂けると大変活力となります(*'ω'*)

更新頻度はそこまで早くはありませんが、主人公ともども暖かく見守っていただけると嬉しいです。


人間見慣れてくると不気味な人形も愛らしく見えるもんなんですね(白目)

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