力の差
「進め! そして竜姫の首を取るのだ!」
うおおおおおお――と。
指揮官の指示に、兵たちは地が震えるような雄叫びを上げる。
そして、強烈な波のようにティアラの巣へと押し寄せてきた。
これほどの数の人間がいれば、どのような魔獣でも勝つことはできない。
抵抗することすらできず、数の差で押し切られて殺されるはずだ。
「ティ、ティアラ! このままじゃ、この巣ごと破壊されるぞ!」
「そこまでの心配はないが、確かにちょっとくらいは壊れるかもしれぬな」
「だ、大丈夫なのか?」
「ああ、問題ない。人間をこれ以上近付けさせはしないからの」
ティアラは手を人間たちのいる方にかざす。
すると、巨大な炎があっという間に百人規模の人間を包み込んだ。
その瞬間に、さっきまでの雄叫びは悲鳴にへと変わる。
「う、うわああああぁぁぁ!?」
「や、やめろおおおおぉぉ!」
兵たちの悲鳴は、うるさ過ぎるくらいによく響いていた。
それは、ついついレインが耳を塞いでしまうほど。
指揮官を含めた、周りの兵たちも足を止めてしまっている。
凄まじい威力。
これほどの魔法は、人間界だと大賢者でも使えるかどうか分からない。
数日前にティアラが放った魔法とは、また違った種類の魔法だ。
今回は射程距離が短いものの、より苦しみを与えられる魔法になっている。
ここでこのような魔法を選択をするのが、いかにもティアラらしい。
レインはチラリと隣のティアラを見ると、やはり苦しむ人間たちの姿を見てニヤニヤとしていた。
「ひ、怯むな! まだ勝機はある!」
指揮官は、恐怖している兵たちを必死に鼓舞する。
それと同時に、自分自身も恐怖に打ち勝てるよう胸を叩いた。
ティアラの力は想像以上であったが、まだ負けと決まったわけではない。
せめて近付くことさえできれば、致命傷を与えることもできるはずだ。
そのために、指揮官である自分が先陣を切る。
「覚悟しろ竜姫――!」
「《ライトニング・アロー》」
指揮官がそう言って走り出したところで。
ティアラは指揮官の胸を正確に打ち抜く。
その時――兵たちには時間が止まったかのような衝撃が訪れた。
指揮官が殺されてしまった。
しかも自分たちの目の前で。
自分たちは、走る指揮官を守るようにして陣形を組んでいたのだ。
それは、ティアラの攻撃から指揮官を守るため。
隙は一切作っていなかったはずだが、実際に指揮官は殺されてしまっている。
「あ、あいつ……まさか指揮官だけを狙って……」
「な、なんて魔法のコントロールだ……」
兵たちは先ほどまでの恐怖を再び思い出す。
ティアラは、自分たちを傷付けることなく指揮官だけを打ち抜いた。
魔法は威力を増すごとにコントロールがかなり難しくなる。
それなのに、針の穴を通すようなコントロールで人間一人を狙ったのだ。
化け物としか言いようがない。
「に、逃げろおお!!」
指揮官を失った兵たちは、犬のようにティアラに背中を向ける。
そして、自分たちが来た道を一直線に引き返し始めた。
「な、なぁ、ティアラ……」
「クク。絶景だな、レイン」
レインはもう一度ティアラの方を見る……と。
やはりそこには、人間たちを嘲笑するかのような竜姫がいたのだった。