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すれ違う二人

「は? レインが人間界に戻るっていうこと? 絶対断るよね? ね?」

「…………」


 レインは呆れて物も言えなかった。ここまで怒りを覚えたのはいつぶりだろう。

 人は本当に憤慨した時、逆に冷静になる生き物だ。その手紙をレインはずっと無言で見つめる。

 今さら和解? 今までのことは謝罪? 


 ふざけるな。そんなことを言われても、もう遅すぎる。

 レインは今すぐにでもこの手紙をグシャグシャにして捨ててしまいたかったが、隣でアルナが見ているため何とか踏みとどまった。


 せめてアルナの前では取り乱さないようにしないと。レインは笑みを見せて上機嫌な自分を装った。

 ……しかし、今回はそれが悪い方向に働いてしまったらしい。


(うそ……レインが笑ってる。こんな手紙を見せられたのに? もしかして人間界に帰ろうとしてるわけじゃないよね? でも、やっぱり人間だから帰りたいのかな……それじゃ魔界にいなくなるってことだし。そんなのやだ)


 レインの意味深な反応は、アルナを誤解させるには十分だった。

 何も言わずに手紙を見つめていたら、レインが葛藤しているように見えてもおかしくない。たとえレインの心の中が怒りでいっぱいでも、神ではないアルナにそれを読み取ることはできないのだ。


 アルナは不安でいっぱいになってレインに聞く。


「ね、ねぇ、レインは人間界に戻らないよね?」

「はは、国王が直々に謝罪して罰を受けるなら考えるかな」

「……!」


 つまり人間界に戻るなんてありえない――というニュアンスで、余裕を見せるようにレインは言った。

 あの国王が謝罪する姿なんて想像できないし、罰を受けるなんて以ての外だ。まぁ、万が一そんなことがあったとしても無視するつもりだが。


 ということで、レインが人間界に戻る日なんて一生来ない。この手紙も、アルナの見えないところで捨てておこう。


(レインが……人間界に戻るかもしれない。やっぱりレインはそのつもりなんだ)


 自分の中で完結したレインとは対照的に、アルナの心中は穏やかではない。条件付きではあるが、人間界に戻っても良いという意志をレインの口から聞いてしまった。国王のことなどよく知らないアルナからすれば、その条件がどれほどありえないのか分からなかった。


 レインは戻る気なんてサラサラないのに、アルナの中ではレインが戻る前提で話が進む。


「国王……国王が問題なんだね?」

「え? うん、まぁ、確かに問題だな」

「分かった。国王……アルナが、この手で」


 この瞬間、アルナの意思は固まった。レインが人間界に絶対戻らないように、自分の力でどうにかしなくては。


 国王が死んでしまったのなら、レインの言っていた謝罪をすることができない。

 そうだ、いっそのこと人間界自体を住みにくくしてしまおう。人間界の付近に魔物を増やしたら、レインも流石に嫌がるようになるはず。


 とにかく国王を殺したら人間界は一気に混乱する。そうしたら、レインが戻っても仕事なんてまともにできない。


 アルナはレインを魔界から出すつもりは一切なかった。せめてあと二年、アルナが魔王の掟で結婚できる年齢になるまでは。


(アルナが直接この手で……国王の命を取る)


 ギュッとレインの手を握り、アルナは心にそう誓ったのだった。



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