罵倒
「人間がここまで集まるのは久しぶりだ。我の宣戦布告に早速反応してくれたようだな」
「そ、そんなことを言ってる場合なのか!? この数は流石にマズいんじゃ――」
数百人の兵に取り囲まれた二人。
まだ姿を見せることはせずに、巣の中でこれからどうするべきかを決めている。
レインの戦闘能力は並み以下だ。
戦えばどうやっても数秒で力尽きてしまう。
つまり、ティアラは数百人の兵士を一人で相手しなくてはいけない。
いくら竜姫といえども、これほどの数は手に余るだろう。
「おいおい、レイン。我を舐めておるのか?」
「え? でも流石に……」
「我はかつて、国一つを潰したこともあるのだぞ。この程度、いないも同然なのだ」
焦るレインとは対照的に、ティアラは余裕そうな笑みを浮かべる。
それは、まるで蟻の軍勢を見ているかのような目だ。
少なくとも、人間を殺し合いの相手としては見ていない。
ただ攻撃しようとしてくる虫のような感覚だろうか。
レインには到底理解できそうな次元の感覚ではなかった。
「本当に大丈夫なのか?」
「もちろんだ。任せておけ」
ティアラはそう言うと、勢いよく外へ出る扉を開ける。
そして、人間たちがティアラの姿を視認した瞬間、ざわめきで空気が揺れた。
数百人分の視線がティアラへと集まる。
レインがこのような視線を受けたら、緊張で吐いてしまいそうだ。
それに比べて、ティアラはその視線を何とも思っていないようで、相変わらず余裕そうな笑みを続けていた。
「よく来たな人間ども。この程度の数で我に勝とうとしておるのか?」
「竜姫。最近は大人しくしていたから見逃してやっていたが、敵対してくるなら容赦なく始末するぞ」
「面白い。本気でそれができると考えているのならな」
「当然本気だ」
ティアラの言葉に、指揮官らしき男が反応を見せる。
言葉ではまだ威嚇のような段階だが、きっかけがあればどちらもすぐに戦闘を始める気だ。
兵たちは強く武器を握っている。
指揮官の指示があれば、すぐに突撃する準備はできていた。
「ティアラ! あいつらが持ってるのは対ドラゴン用の武器だぞ! 気を付けろ!」
「おお、レイン。出てきたのか。危険だぞ?」
「――レイン!? 貴様、生きていたのか!?」
レインは、ティアラに大事なことを伝えるため外に出る。
どこかで見たことのある武器だと思っていたら、人間たちが持っているのはドラゴンを殺すために作られたものだ。
かなり高価な武器のはずだが、見渡す限り全員の兵士がそれを持っている。
これだけは絶対に伝えなければいけないことだった。
が。
ティアラは特に驚いた反応を見せない。
それどころか、驚いているのは指揮官を含めた人間たちの方だ。
「おい! あれはレインだ! まさか竜姫と手を組んでいるとは……」
「なんて野郎だ……本当に俺たちを売るつもりだぞ」
「追放するだけじゃ甘すぎたようだな」
兵たちから聞こえてくるレインへの罵倒。
その内容は、主に裏切りを批判しているものだ。
どちらかと言うと裏切られたのは自分の方であるが、そんなことを今主張しても聞いてもらえるはずがないだろう。
「もう何も言うことはない。貴様らの首を国王に持って帰るだけだ」
「面白い。やれるものならやってみろ」
こうして。
レインの目の前で一対数百の勝負が行われることになった。
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