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アルナの治癒術


「噛まれたとこ見せて。アルナが治してあげる」


「は⁉ ア、アルナ様⁉」


 アルナはローブを脱いで姿を見せる。

 突然目の前に現れた英雄にガガールドは困惑を隠せなかったが、そんなのアルナは全然気にしない。

 リヴァルの腕を持って、自分も口に近付ける。そして、噛まれた場所をペロッと舐めた。


「凄い……腫れがどんどん引いてる」

「ふふん。レインも怪我した時は治してあげるからね」


 アルナが舐めたことによって、リヴァルの腕は見る見るうちに治癒し、遂には元通りの状態になってしまった。


 傷口に塗られた唾液はじゅーと音を鳴らして煙を出しているが、これが効いている証なのだろうか。ちょっと怖い。

 まさかアルナにこんな能力があるなんて。どういう原理なのかは分からないが、とにかく凄い効果だ。


「リヴァル! どうだ、治ったか!」

「う、うん。全然痛くなくなった。ア、アルナ様、ありがとうございます」

「そうだアルナ様! どうしてここにいらっしゃるのですか! それにこの人間とはどんな関係が⁉」


 リヴァルの問題が解決しても、まだまだ確認しておきたいことがたくさんある。

 どうしてアルナがここにいるのか。レインとどんな関係があるのか。なぜ身を隠すようなことをしていたのか。


 アルナが近くにいたら、自慢の鼻でその臭いを感じ取れるはずなのだが、今回は何故かそれができなかった。だからこそ、突然アルナが現れて驚いた。着ていたローブの効果なのか、それともアルナ本人の気配を消す能力が凄いのか。

 とにかくアルナの答えを待つ。


「アルナがここに来た理由は、レインにこの場所を紹介するため。レインは良い商人だから、この地域と外の世界をきっと繋ぐことができる」

「我々のためにそこまで考えてくださったのですか……⁉」


「ううん。この場所のためが四割で、レインのためが六割」

「こら、アルナ。そこは十割って言うところだぞ!」


 ガガールドの感動を壊してしまいそうな一言を容赦なく言うアルナ。正直さというのは、必ずしもプラスになるわけではないと教えてくれる。


 しかし、ガガールドはそれを聞いてもなお感動したままだ。

 アルナが自分たちのことを少しでも考えてくれた――この事実だけでも言葉では表現できないくらい嬉しいことなのだろう。


「まさか彼がそれほどの凄腕だったとは……彼はアルナ様とどういった関係があるのでしょうか?」

「友人です――」


「レインとアルナはパートナーだよ。二年後には結婚もする」

「本当ですか⁉ すまない! アルナ様のパートナーであるのに、拒むような真似をしてしまった私を許してくれ……」


 レインの立場を知ったガガールドは、すぐに先程の非礼をレインに詫びた。

 一応レインは友人としっかり言ったつもりだが……アルナのセリフで掻き消されてしまったらしい。

 ここで訂正したらまた面倒なことになりそうだし、アルナに怒られそうだからやめておこう。


「いえ、俺も急に押し掛けてすみません。とにかくリヴァル君が無事で良かったです」

「そ、そうだ。解毒薬の代金が――」

「気にしないでください。さっきも言ったようにお代は結構です。緊急事態でしたし」


「そうか……感謝する。君のような人間もこの世界にはいるんだな」


 レインはガガールドに笑顔を見せると、アルナの方に振り向いた。


 ガガールドがこれまでどのような人間と出会ってきたのかは知る由もないが、悪い人間ばかりじゃないということを証明できただけでも十分だ。混血種と外の世界を繋ぐという意味なら、これは記念すべき第一歩目となるだろう。


 しかし、それでもまだまだ第一歩を踏み出したばかり。これから二歩三歩と進んで行く必要がある。もちろんレインは止まることなく進んで行くつもりだ。


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