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万能解毒薬


「だろうな。だが……すまない。断らせてもらう」


 ガガールドは一瞬だけ悩む素振りを見せたが、キッパリと否定の意思を伝えた。


 それでもレインは表情を変えない。まだ理由も聞いていないのに焦るのは早い。……アルナは隣でソワソワしているが、一旦右手で制して落ち着いてもらう。

 レインは話の続きを待つ。


「やはり人間だからな。同胞たちの中には人間を嫌悪してる奴もいる。正直に言うと、俺もその中の一人だ。その壁を壊してくれるような奴じゃないと、安心して預けることはできない」

「壁を……壊す」

「そうだ。それが条件だな」


 ガガールドの出した条件は、すぐには達成できなさそうなもの。そして、アルナがやろうとしていることでもある。

 どうすればガガールドの期待に応えられるだろうか。恐らくこの場で答えを出すことは不可能だ。


 時間をかけなければ解決しない問題。

 ここまで来たからには、とことんレインも付き合うつもりだ。

 ……しかし。そこまで気の長くない魔王が隣にいた。


「レイン、心配しないで。すぐに分からせる」


 アルナは我慢ができなくなったのか、ローブを脱いで代わりに話を進めようとする。

 自分が出れば話は終わる。レインが苦労をする必要はない。アルナなりに合理的な行動だ。

 そんなアルナを――レインは肩を掴むようにして止めた。


「――ダメだ。何もしなくていい」

「む…………むぅ。分かった」


 レインに止められたアルナは、ローブを脱ごうとしていた手を離して一歩後ろに下がる。

 ここでアルナが出ることを、レインは良しとしなかった。もしアルナが出た場合、ガガールドは半強制的にレインとの取引を強いられることになる。そのような関係は好ましくないと判断したのだろう。

 これはレインと混血種との問題。アルナは頭を冷やす。


「俺とガガールドさんはまだ出会ったばかり。いきなり信頼してくれなんて無理な話です。誰だってガガールドさんのような反応をすると思います」


 だから――とレインは付け加える。


「また来てもいいですか?」

「何度来たって同じだぞ?」

「いいんです……ありがとうございます」


 ガガールドは驚いていた。普通なら、最初に断った時点で諦めるはず。それなのに、レインの目は一つも諦めという感情を見せていない。


 きっとこいつはやるつもりだ。本気で壁を壊そうとしている。

 なかなか見込みのある男だとレインを見直した時、倉庫の扉がガンガンガンと叩かれた。



「どうした! 何かあったのか!」

「ガガールドさん、大変です! リヴァル君が!」


 リヴァル君……とはガガールドの息子だろうか。この様子だと、好ましくない状況であるということは明白だ。

 怪我か病気か。ガガールドは飛び出すようにして倉庫の扉を開けた。


「リヴァル! 大丈夫か⁉」

「お、お父さん……腕が痛いよぉ」


「腕? うっ……かなり腫れてるじゃないか! 誰かにやられたのか⁉」

「恐らく毒のせいですね。蛇に噛まれた痕があるので」


 慌てているガガールドを落ち着かせるように、レインは隣で冷静に判断する。

 リヴァルの腫れているところを見ると、二つの穴のようなものがあった。恐らくこの噛み痕は蛇だ。かつて知り合いの兵士が噛まれた時の痕と比べても酷似している。


 リヴァルがぐったりしているところから、毒が体の中に入っていることも予測できた。

 大怪我ならレインにできることが少なかったが、毒ならば幸いレインにも手の打ちようがあった。


「確かこの辺りに……あった。ガガールドさん、万能解毒薬です。これならリヴァル君の毒も打ち消せます」

「万能解毒薬⁉ いくらだ! 譲ってくれ!」

「お代はいいですから早く!」


 ガガールドはレインから解毒薬を受け取ると、すぐにリヴァルの口に持って行って慎重に飲ませる。

 不思議なことに、この解毒薬が偽物である可能性は微塵も疑わなかった。心の中でレインのことを無意識のうちに信頼していたのかもしれない。


 とにかくリヴァルが意識を失う前に、完治することを祈りながら解毒薬を使う。


「んんぅ……あれ、痛くない」

「とりあえず効いてくれたみたいですね。でも腫れは残ったままだから、薬草を塗り混むとか――」



「噛まれたとこ見せて。アルナが治してあげる」


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